スカーレット

柴野 メイコ

手紙

『結ちゃんへ

すごく可愛い先輩がいる、と友だちと騒いでいたのがついこの間の事みたいです。

中1の時は、喋れることなんて無いんだろう、とただただ眺めているだけだった。


2年生になって、緑化委員会の集まりで一緒になった時、とても嬉しかった!

だけど、とてもじゃないけど自分からは話しかけられんかった。相手にされんだろう、ウザがられたら嫌だな~と思って。

根性なしだったけんね。


そんな中、結ちゃんの友だちが委員の名簿を見ながら

野川有のがわゆうくん?香川結かがわゆいと名前似とるね」とあくびをしながら言ったことがきっかけで目が合ったね。

結ちゃんの友だちに感謝し、自分の名前が野川有で良かった、初めてと思った。


結ちゃんの目が綺麗で俺はすぐに目を逸らしてしまった。

目が合っただけで心臓がバクバクしとった。


だから、草むしりの最中に結ちゃんから「2年生って草むしりの範囲どこまで?」って声をかけられた時は本当にびっくりして情けないけど挙動不審になってしまった。


でも、その日から会えば挨拶をして、ちょっと世間話を出来る関係になれた。

俺にとって大事な日です。


放課後の図書室で寂しそうにしてる結ちゃんを何度か見かけて、気になって仕方がなかった。

緊張し過ぎて声が上ずりながら「何かあったんですか?」って聞いたね。

下校の時刻近くで図書室は静かだった。


結ちゃんは目を伏せながら「最近友だちと上手くいっとらん」って小さな声で話してくれたね。

俺は馬鹿だから「なら、俺と友だちになって下さい」って何の解決にもならん事を言った。

結ちゃんが困ったように、でも優しく笑ったから照れてしまった。


結ちゃんが卒業して俺の成績じゃ絶対受からん高校に進学して悲しかった。

勉強頑張れば良いだろ、って話だけどね……。

もう会えないんか、無理と分かってても告白したら良かった。


友だちになって、と言ったのにあの頃は携帯持ってなくて連絡先すら交換出来んくて後悔してた。

同じ中学校区なのに道でも全然会わんかったね。


だから、高2の時バイト先に結ちゃんが偶然来た時は凄いパニックになった。

でも頑張って話しかけた!

結ちゃんが覚えていてくれて本当に嬉しかった。

アドレスを交換したけど、なかなか遊びに誘えんかった。今日学校で何があった、とかどうでもいいことばかりメールしとったね。


結局2人で遊びに行くまで3ヶ月かかった。それから告白するまで更に半年。でも遊んどる時から好きだって、バレバレだったろ?

結ちゃんが笑いながら「付き合お」って頷いてくれた時は本当に嬉しかった。


結ちゃんが県内の大学に進学したから距離は全然離れんかったね。

放課後に結ちゃんと会うのが何より楽しかった。笑ったり怒ったりする結ちゃんの表情を見て、この人のことが大事だなー、とずっと考えてた。


俺も卒業して、県外の会社に就職して休みが被らんで会う時間が減ったね。

でも車で遠出したり、旅行したり、狭いアパートに泊まりに来たり。

真っ直ぐ俺のことを見て仕事の愚痴も聞いてくれて。

アロマとかマッサージとかの癒しグッズを沢山持ってきてくれたね。


近所を手つないで散歩して、パン屋を探したり、犬を触ったり、名前の分からん花を見つけたり(前見つけた赤い花はスカーレットっていうみたいだよ!)

そういうありふれたことが幸せだった。


結ちゃんのことが好きだという気持ちは全くブレんかった。最初は一目惚れだったけど、どんどん好きになっていった。

2人で過ごす時間が大切で

もう知り合って13年も経つけど、これからもずっと一緒にいるのが当たり前だと

たまにケンカもして、それで暫く連絡とらんと胸がザワザワして胃もキリキリする。


ここまで長々と書いて何が言いたいかというと!

とにかく好きだから別れたくない、

俺は子どもが欲しいわけじゃなくて、結ちゃんと家族になりたいんだと分かって欲しいってこと!

結ちゃんが、「会いたくない」て言うけん手紙にしたけど本当は会って話したい。

顔を見てゆっくり話したい。だから返事待っ

っとるから。

あと、ちゃんとご飯食べんとイカンよ!

有より』


初めて有から貰った手紙を読み終えてポロポロと涙が出てきた。


生理不順や不正出血が続いていた。

先月行った病院の検査で「子どもは難しい」と言われた。

有と一緒にいない方が良いと思った。


有は姪っ子、甥っ子を可愛がってたし優しいお父さんになれる人だと思う。

「離れたい」と電話で伝えた時、有は暫く絶句していた。

「何で?」と困惑した声で訊かれ、正直に伝えた。電話だったから表情は分からないけど、きっと困った顔をしていたと思う。

それから私が「会いたくない」を繰り返し、電話もラインも無視していた。


今日、仕事から帰ったら手紙が届いていた。『絶対に読んで!』とマジックで大きく封筒に書いてあった。

別れの文句の手紙だと覚悟して開いたのに。



私は鼻をすすり、スマホをとり有に電話をかけた。

数回のコール音の後「もしもし」と少し上ずった声が聞こえた。

有に会いたいと思う。

そして、その時には返事の手紙を持っていくからね。

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スカーレット 柴野 メイコ @toytoy_s

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