第2話 初めの活動 その一



「岩谷蘭丸君、生徒会へ入らないかい?」



「……はい?」



三階端の部屋にておっさんと対面する俺は、

突拍子もない事をいきなり言われて

困惑していた。



「……何で急にそんな話になるんですか?

部活は他にも山程あるので、

ぶっちゃけそんな目立つ生徒会なんかより、静かな文化系の部活に入りますよ俺」



「……ふむ、わかった。

腹を割って話そう。」



やっとその気になったか。

勧誘する以上、素性も分からない

おっさんの話になるなんてあり得ない。



「実は私も君の様に騒がしい生徒……、

所謂陽キャかな?

そういった生徒は苦手でね。


我が高校は文武両道。

それは昔から伝統として引き継いでいるが、

近年、スポーツ推薦で来た者の横暴差が

目立ってきている」



「中学でも運動出来る奴は

特に騒がしかったですからね」



「ふむ、彼らのおかげで我が校の

偏差値は年々下がって来ているし、

たまに暴力問題も起きたりする。


ハッキリ言って学校のブランドイメージが

どんどん汚されている」

 


「なかなかぶっちゃけますね」



「私は前々から危険視しているのだが、

校長はそうでもないようでね……全く、

何であんなのが校長なんだか……。


加えて担任や顧問は

彼らが不祥事を起こしても

あまり指摘しない。


今の時代、簡単にパワハラやらモラハラと

訴えられてしまうからね」



「ですね…今は過剰に判断する

時代ですから」



「大人の対処なら大人がする。

だが生徒の対処となるとね…。

めんどうな時代になってしまったものだよ」



やれやれと首を左右に振り、

深いため息を吐くおっさん。


その姿に演技の様子は無く、

本心で語っているのだと理解できた。



「そこで今一度、規律を正すために

正義の執行部が必要とされる。


そこで君の力を借りたいんだよ、蘭丸君」



「……分かりません。

何故俺に白羽の矢が立ったのですか?

自分は入学したばかりのペーペーですよ?

それに目立った事もないはず……。」



「…………私が何も調べずに君を勧誘すると

思うかね?」



「………………意味が分かりません」



おっさんはニヤッと悪巧みを考えてるかの

様な顔をしてこちらに目を向ける。


その瞳には確かな確信を得ている自信のある

強い目をしていた。



「ふむ……岩谷蘭丸君。

小学生時代はいじめに悩まされたまま卒業。

中学でも同じ様にいじめを受けるものの、

ある日を境に堪忍袋の尾が切れて爆発。


中学二年の頃、自分にいじめを行っていた

生徒を一人残らず暴力を使い病院送り」



「……」



「病院へ送られた生徒の保護者が

訴えようとするが、予め撮っておいた

今までのいじめ動画を見せつけられ、

訴えを止める」



「…………」



「警察沙汰のような大事にしない変わりに

今後一切の接触禁止を約束する。

そして…いじめをした者は全員他県へ転校。

それから君は何事もなかったように

残りの学校生活を送っていた…違うかい?」



「……あんた……何者だ?」



「ふふ……当たりのようだね」



おっさんが言った事は全て事実。


俺は小学生からずっといじめを受けていた。

一人が好きで集団行動を苦手としていた

俺は、ハッキリ言って浮いていた。


そんな俺を気持ち悪がったのか、

周りの奴らは俺を排除しに来た。


悪口を言われたり、物を隠されたりと

奴らは俺の反応を見て楽しんでいた。


しかし俺は特別反応を見せなかった。

相手にしない、それだけを一点で貫き

小学生時代を過ごした。


唯一話したのは、燈と絵梨だけだ。

あの二人は周りの奴らにいじめは止めろと

訴えてくれていたな……。



中学になってもいじめは続いた。

陰口、物を隠すと同じ事の繰り返し。

飽きもせずによくやるなーっと

感心すらしていた。


いつまで経っても反応を見せない俺に、

業を煮やしたのか、奴らは暴力を

振ってきた。


放課後、帰宅途中を狙われてリンチされた。


奴らはニヤニヤと笑いながら

俺をサンドバッグとして殴る。


無抵抗の俺は傷を負いながらも

両親や燈、絵梨に心配をかけたくなかった

から次の日もいつも通り学校へ向かった。


何事も無く学校へ足を運んできた俺を

面白くないと思った奴らはそれから

毎日、毎日、暴力的ないじめを続ける。


このまま続くのは流石にまずいと思った

俺は、暴行を加えられる動画を

撮ることにした。


ある日、心身共に疲弊していた俺は

今まで撮った動画を警察に

届けようとしていた。


しかしその動画の存在に気づいた奴らは、

燈と絵梨を人質に動画を渡せと要求。


動画が警察の元へ行き渡れば大事。

切羽詰まった奴らは、

彼女達の喉元にナイフを突きつけ、

狂った表情をしていた。


俺は動画のデータを奴らに渡そうとするが、

彼女達はそれを反対した。


「私達の事は気にしないでっ」と

「早く行って」と促す彼女達。


すると彼女達の意思に苛立った奴らは……

二人の顔を殴った。


頬を抑え、涙を流す燈と絵梨。



俺はそんな二人を見た瞬間、

体が勝手に動いた。


溢れ出る力を拳いっぱいに注ぎ込み、

奴らを殴った。


鼻を折る感触、悲痛な叫び声、血の匂い。

初めての経験を全身に受け、尚も一心不乱に

拳を振るい続けた。


……気付けば俺と彼女達以外立っておらず、

俺は冷静差を取り戻した。


痛めた自身の拳と二人の悲しい顔を見て

俺は実感した。


あぁ…………俺は暴力を振るったんだと。


それから両親にバレて事情を話し、

奴らの親が家になだれ込んで来たが、

動画を見せたら手のひら返しで謝ってきた。


俺自身も暴力を振るってしまった以上、

奴らと同類。


俺は警察に言わない代わりに、

この事は暗黙とし、奴らの接触禁止で

話を付けた。


それから奴らは全員転校して俺の平和は

戻ったはずなんだが……



「……その事は俺達当事者で話は着いてる。

今更それを出されたって、だからなんだって

話なんですけど?」



「まぁね、君の言う通りさ。

私はただ君は只者ではないって言いたかった

だけだよ」



「……そっすか」



「君は自分のした事を理解してる。

だから警察沙汰にはしなかったんだろ?

それはすごい事だ。善と悪を理解してる。


そこでちゃんと理解している君に、

この学校を正して欲しいんだ。


……やってくれないか?」



「……」



……善と……悪…………か……。



「………あまり期待しないでくれるなら。」



「うん!ありがとうっ!」



満面の笑みで答えるおっさん。

だからそんな顔するんじゃない。



「よしっ、じゃあ善は急げだ!

さっそく準備をしようっ!」



ん?



「……あの、準備って何するんすか?

あ、他の生徒会の人に挨拶ですか?」



「ん?他の人はいないよ?まだ君だけだし」



「……え?何言ってんすか?

他の生徒会の人いるでしょ?

副会長とか書記とか……」



「あっ、君はあっちの生徒会と

勘違いしてるんだね?」



ん?ん?



「あっち?」



「そう、『表生徒会』だよ。

君に活動してもらうのは…

『裏生徒会』さっ!」



ん?ん?んー?



「……裏生徒会?」



「そうっ!表生徒会は主に学校行事を

主体として活動をし、

裏生徒会は生徒の規律を守り、

生徒の人権を守るために活動をするっ!


生徒同士の問題が起こればすぐにそれを

解決、解消。

時には武力をもって対抗する。

それが……裏生徒会だっ!」



高らかに拳を上げ、

キメ顔と共に熱弁するおっさん。



「……いや初耳なんすけど」



「……今し方できたからね」



このおっさんマジか……え?

と言う事は……



「……も、もしかして他の人は…………」



「うん、いないね。

だからまずは人を集めようか?」



このおっさんマジかっ!!?



「普通部活動は、最低でも五人以上に

顧問一人付かないと成立しない。

そこでこの学校のルールに従い、

あと四人集めてくれたまえ」



「ちょ、ちょっと待ておっさんっ!?

俺が集めるのですか?!

おっさんが俺みたいに勧誘したら

良いじゃないですか?!」



「何を言う、生徒の生徒会だ。

なら生徒の君がしっかり目で見て判断して、

勧誘するのが間違いないさ。

大丈夫、君の目利きはしっかりしてる。」



「ぬぬ……」



やべぇ、口では勝てる気がしねぇ。


「君の様に生徒に不満を持つ者は少なくないさ。

頑張ってくれたまえ。

あ、顧問は私がするから安心したまえ。」



「……了解」



「よし、この部屋は自由に使ってくれて

構わないから鍵を渡しておくよ」



「……うっす」



「頑張りたまえ。では初めの活動内容、

部員を集め開始っ!!」



「……」



「おーっ!!!」



高らかに腕と声を上げるおっさん。

その少年の様な生き生きとした姿に、

俺は若干引いていた。



「……」



「ん?おーっ!だよ蘭丸君?おーっ!!」



俺に同じ行動を取れと誘ってくる。


だが俺は静かに部屋から出て、

扉を閉める前に軽く頭を下げる。



「………………失礼しました」



「…………なかなか手厳しいじゃないか。

うむ、頑張ってくれたまえ。」



一言告げ、扉を完全に閉めて廊下を歩き出す。

はぁー……どうしよ…。


俺は足取りを重くしたまま、

帰宅するために昇降口を目指した。


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陰キャの生徒会 裕治郎 @Tamax777

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