陰キャの生徒会

裕治郎

第1話 プロローグ


プロローグ


「おい!その話マジかよお前っ?!」



「…」



「ホントだって!

さんが昨日

デパートに男と一緒に歩いてたんだよ?!」



「……」



「はぁー?!マジかよーっ!!

俺狙ってたのにさーっ」



「………」



「でもその男、マスクしてて

しっかり顔は見えなかったけど、

目付きヤバかったぞ?犯罪者みたいに

鋭く真っ黒な目付きしてたわ」



「…………」



「それホントかよ?

……もしかして黒沢さん、

その男に脅されてるんじゃねぇのか?」



「……………」



「わからねぇな……、

でもそうならやばい話だな」



「………………」



「バカっ、やばい話じゃねぇよっ!?

うまい話じゃねぇか!?

俺達でその男を追い払えば黒沢さんは

きっとこっちに振り向いてくれるぞ?!」



「…………………」



「はっ……確かにっ!

おい、じゃあ早速

黒沢さんのとこに行こうぜ?!」



「……………………」



「あっ!お前先に行くなよ!

テメェだけ狡いぞっ?!」



「…………………………うぜぇ」



騒がしく出て行った二人の男子。

静まり返った放課後の教室に静寂が

包み込んだ。



「……たくっ…やっと静かになった。

これで落ち着いて寝れる…………」



少年は机に顔を伏せ静かに呼吸を整える。



「……おやすみ……な……さい」



「はいドーンっ!!」



ガシャんっと力強く開けたドアから一人の

女の子が姿を現す。


荒々しく登場した人物の声が

嫌でも少年の耳に入ってしまう。


力強い彼女の声は少年の睡魔を

消し飛ばそうとしていた。



「なーに寝ようとしてんのよっ?!

もう放課後なのよ?!下で待っても待っても

来ないからわざわざ来てみれば……、

コレはどういう事よっー?!!」


少年の耳元で叫ぶ彼女は、

彼を起こすために必死で声を上げる。


その様子を眠たそうに細い目でチラッと

見た少年は、重たい頭を上げ彼女を

見据える。



「……おぅ、あかり

どしたのそんなに大きな声出して?

……あの日か?」



「しばくぞゴラっ!?」



「ひっ!?」



彼女の名前は柊木 燈ひいらぎ あかり

小学一年から今の中学三年まで

ずっと同じクラスだった女の子。


長い期間一緒にいたため、

気付けば気軽に話を出来る存在へと

変わっていた。


燈の親はアメリカと日本の生まれ。

その間に生まれた彼女の容姿は一般女子学生と比べて少し違う。


髪の色は鮮やかな赤色が入り、

瞳の色は茶色が強く目立つ。


スタイルは群を抜いて大人びており、

立派なモデル体型を表している。



「……ったく、今日は一緒に帰ろうって

約束したじゃない。

私ずっと……ずっと待ってたのに……」



シクシクと分かりやすい鳴き真似を

する燈。


少年はその様子を暫し見据えると、

静かに納得した。



「……やっぱあれだな、

……燈にあざとさは似合わねぇな」



「……うん、私も自分でしてて思った。

私はこのキャラは無理だな。

じゃあるまいし」



「だな。……さて、帰るか」



「うんっ!…ってまだ待たされた事を

謝られてないぞっ!謝れこらーっ!!」



少年の肩を両手で揺さぶる燈。

しかし少年は無反応のまま、自身の鞄から

ある物を取り出す。



「…ほれっ、お前の好きな苺オーレだ。

………これで許せ」



「っ!!うぅ……今回はコレで許す」



「………………ちょろ」



「う、うるさいっ!今回だけだからねっ!?

……じゃあ帰ろう、



「おぅ……あ、との

偽彼氏作戦、良い感じにアイツら

食い付いてたぞ?」



「……それ私の耳にも入ってるけど大丈夫?

何か目つきのヤバい奴に脅されてるとか

変な話になってるよ?」



「まぁ……何とかなるだろ」



「……あんまり無理しないでね?

もし危険な目にあったりしたら私も絵梨も

悲しむよ?」



「……へいへい、心配するな」



「……もぅ」



「ほれ……帰るぞ」



教室から出た俺達は昇降口を目指す。

道中、彼女が今日一日の出来事を俺に話し、

会話を繋いでいく。


元々口数の少ない俺は彼女の話に

『そうか』『へぇ』『なるほど』などと、

短い言葉を返すが、彼女は嫌な顔をせずに

楽しそうに会話を続ける。



昇降口に着いた俺達は、

靴を履き替え外に出る。


すると校門の所に人集りを確認した。



「……何あの人集り?」



「ん?……あっ!絵梨じゃん!?」



集団へと近付くと顔見知りの女の子が一人。

教室で先程騒いでた男二人。


その三人を中心に好奇な眼差しで

静観してる学生が十人以上。



「ですから私がどこの誰と一緒にいようと

私の勝手でしょっ?!」



「…い、いや俺達は黒沢さんの

心配をしてですね…」



「そ、そうなんですよ、噂で黒沢さんが

目付きの悪い男と一緒にいたと聞いたので、

てっきり脅されたりしてるのかと

思って……」



「……何ですかその噂?

心配して下さったのは有難いのですが、

はっきり言って余計なお世話です。

もう私に付き纏わないで下さい!」



「ま、待って下さい黒沢さんっ!?

でしたら迷惑掛けたお詫びに

ご飯でも一緒にどうですかっ?!」



「そ、そうです!奢りますので

是非一緒に……」



彼女にしつこく縋り付く男二人。

それを見た彼女は、はぁーっと深い溜息を

出した後、

冷たい視線を彼らに送りながら口を開く。



「……貴方達、隣のクラスの方ですよね?」



「え?……そ、そうですっ!」



「俺とこいつの事知ってるの?!」



自分達の存在を認知されていて

嬉しかったのか、

彼等は僅かに頬が緩み、表情を明るくした。



「…いえ、私が知ってるのは

貴方達二人の『声』です。


授業中、バカみたいに大きな声を出してる

人がいるなーとは思ってましたが……

貴方達でしたか。


私達は中学三年生。高校受験を控える私達は

真剣に勉強に取り組んでいるのに

貴方達と来たら……。


大きな声を出されて真面目に勉強している

クラスの方々はさぞかし迷惑でしょう」



「……」



「いや……俺達そんなつもりは……」



彼女の有無を言わせない圧が彼らの

元気を取り除く。



「そんなつもりで騒いでたのではない?

ならどんな理由があったのですか?

私にはわからないので教えて下さい、ほら?


いつものように大きな声でお願いします」



「……」



「……あ、いや……俺達は…その……」



完全に彼女へ軍配が上がった。

さっきから男二人は必死に打開策の言葉を

探している。


しかし見つかる様子もなく、

さっきから口を開こうとするが再び閉じる、と繰り返しを行なっている。


オドオドと挙動不審な動きする二人を

彼女はおろか、周りの静観していた学生も

冷たい目で見続けていた。



このタイミングで彼女の紹介をしよう。

彼女の名前は黒沢 絵梨くろさわ えり


彼女と俺は親同士が仲良い事で、

幼い頃から一緒に遊んでいた女の子だ。

所謂幼馴染。


黒髪のストレートロングな彼女は

清楚で凛としていて正に大和撫子。


親は警察官という事もあって

正義感がとても強い性格である。


彼女の凛とした佇まいに憧れて、密かに

女子生徒のファンクラブまであるそうだ。



「……まだですか?いい加減答えて下さい。

せっかく周りの皆さんも時間を割いてまで

待って下さってるのですよ?」



「「…………」」



既に彼らは意気消沈状態。

しかしそれを理解していながらも絵梨は

追い討ちを続ける。



「……絵梨ーっ、もういんじゃないの?」



「……俺もそう思うぞ。

てかやり過ぎだろコレ?」



「関係ない方は口を挟まないで……あら?

燈に蘭丸じゃない?今帰りなの?

それにしては遅いわね?」



これ以上の追求は時間の無駄だと思い、

俺と燈は絵梨に近付き声を掛けた。


俺達の顔を確認した絵梨からは先程の

威圧感はなく落ち着いて会話をする。



「おう、少し教室で寝てしまっててな。

燈が迎えに来てくれて今から帰るとこだ」



「蘭丸は相変わらずですね……

では私も一緒に帰らせて下さい。

…そういうことなので御二方っ、

後日私が納得いく答えを聞かせて下さい。


それでは皆さん失礼します。

さあ、帰りましょう蘭丸、燈。」



「おぅ」「うん」



放心状態の二人を横目に、

俺達三人は帰路へと足を進めた。


夕焼けが空いっぱいを紅く染める中、

歩道を三人の男女が並んで歩く。


左には赤い髪をした元気いっぱいで

よく笑う柊木燈。


真ん中には黒髪ロングの凛とした振る舞いが目立ち、気品の良さが窺える黒沢絵梨。


そして右には目付きの鋭く、常に暗い雰囲気を纏っている俺、岩谷 蘭丸いわたに らんまる



「しっかし私達も高校生かー……

早いもんだねぇー」



「そうですね……二人はどこの高校に

進むおつもりなのですか?」



「「私立成南高校っ」」



「え?……蘭丸は進学校に進むのですか?

貴方の事だから勉強をあまりしないで

済むために普通の高校行くと思ってました」



「……」



「やっぱり絵梨もそう思うよねっ?

ちなみに理由は何でだと思う?」



「えーっと……んー……高校デビュー?」



「はっ倒すぞこのやろう!?」



「あははウケる絵梨ーっ!」



「お前も笑うなよっ?!

…ったく、ちゃんとした理由があるんだよ」



「……その理由とは?」



真剣な表情でお互いを見据える絵梨と蘭丸。

そんな二人を視界に入れている燈は

両手で自身の口を抑えて何故か震えている。


彼の真剣な雰囲気が伝わり

ゴクっと生唾を飲む絵梨は、

彼の発する言葉を一字一句

聞き逃さないように待ち受ける。



「その理由は………………、

陽キャが少ない思われるからだ」



「…………はい?」



「…………ぷっ……ぷははははっ」



放心状態の絵梨を放置して彼は

言葉を出し続ける。


横で我慢できなくなり

笑い続ける燈の声を聞きながら…



「いいか絵梨、陽キャというのは

ほとんどがうるさくて頭の悪い奴の事だ。

さっきお前が校門でタコ殴りした

男二人がいい例だ」



「私はタコ殴りなんてしていませんっ!」



「いやしてたよ?言葉のストレートパンチ

入れまくってたからね?何なら

白旗振ってる奴に追撃してたからねお前。


…まぁ見てて気持ちよかったから

俺的は問題ないけど、昔っから言い過ぎる節が

あるからそこは気をつけろよ?

トラブルの元になりかねん」



「うぅ……以後気を付けます」



「おぅ…話を戻すが陽キャという存在は

ハッキリ言って俺からしたら

害悪でしかない。

授業中、休み時間、放課後と毎日毎日

ワーワーキャーキャーと騒いで

注目を集める。


その注目される事に酔いしれて、

奇抜な行動をさらにエスカレートさせ

更に調子にのる。」



「……」



「調子にのった者達は間違った

勘違いをする。

……絵梨、なんだと思う?」



「それは…………自分達が偉いと考える?」



「お、正解だ黒沢絵梨。

絵梨が言った様に調子にのった者達は

俺が1番、我最強と頭の悪い考えを

持ち始める」



「何か偏見入ってない?」



「……俺はそれ程アイツらが嫌いなんだよ。

つまりアイツらは勉強もろくにせずに

散々遊びまくったおかげで進める高校は

限られる筈だ。だから俺は勉強して

倍率の高い私立成南高校へ進む。

……アイツらが来れない高校へとな」


俺の力説を聞いた絵梨は、

残念そうな顔でこちらを見つめ、

はぁーっと小さく溜息を漏らす。



「……蘭丸の考えは分かったわ。

相変わらず騒がしい人は嫌いなのね。

…燈も同じ理由?」



「あー面白かった…ん、私?

私は家から近いから」



「貴女の理由も中々シンプルね……

ならまた三人一緒で成南高校に通える様に

受験頑張りましょうか」



「絵梨も成南なの?」



「ええ、前から決めていたの。」



「やったーっ!ならまた三人一緒に

学校行けるね!」



「……誰も受験失敗しなかったらな」



「もう蘭丸は……このタイミングで

言うセリフではありませんよ?」



「ホントだよ蘭丸。

相変わらずネガティブ思考満載で

陰湿な男の子なんだから」



「お前ボロクソ言う奴だなっ?!

……まぁ受験まで三人で勉強すれば

何とかなるだろ。……たぶん」



「……ふふ、そうね。」



「よーし頑張ろーっ!!」



「……へいへい」



そんな訳で目指す高校を同じとした

俺達三人は、

お互い苦手な教科を教え合って

受験に備えた。


あっという間に月日は流れ、二月中旬。

俺達は入学試験を受けるために成南高校へと

足を運んでいた。


俺と絵梨はいつも通りだが若干一名、

産まれたてのヤギの様にプルプルと

震えていた。



「……落ち着いて燈、きっと大丈夫よ。

あれだけ勉強して頑張ってきたんだから。」



「……う、うんそうだよね……

大丈夫だよね……きっと……たぶん……」



いくら絵梨が声を掛けても彼女の表情は

優れない。まぁそりゃそうだよな、

落ちるか落ちないか、

それは今日一日で決まる。


今まで三人で頑張って勉強してきた時間が

報われるか水の泡になるか…


……俺としては一緒に勉強してきた以上、

ここで彼女がプレッシャーに負け、全力を

出し切れずに落ちるのは後味が悪い……


仕方ない……俺も声を掛けてやる。



「……燈、こっちを向け」



「え?……う、うん」



俺の言葉に反応した彼女は

オドオドと不安を隠せないまま

俺に顔を向ける。


俺は周りを確認する。

見られるのは流石にヤバいからな。


周りを確認した後、

俺は燈と視線を合わせた。

すると彼女はほんのり頬を紅く染め、

体をモジモジと僅かに動かしている。


なに?トイレが近いの?


俺はその様子を関係無しに

両手を使って彼女の両頬に優しく

手を添える。


ビクッと震える彼女。


俺は一呼吸置くと、彼女に……



「ふんがっ!!」



「っ?!あいだぁっ?!!」



「ちょっと蘭丸?!」



渾身の頭突きをお見舞いした。


痛みで悶絶し、頭を抑え込む燈。

俺は石頭で然程痛みを感じず、

そのまま彼女に言葉を投げる。



「いいか燈、いつまでもウジウジしてると

全力を出し切れずにこのまま終わるぞ?

……ちなみにそんなのは俺と絵梨が

許さないからな。


周りを見てみろ?

みんなだって緊張してるんだ。

お前だけが特別じゃない。


落ちる時は落ちる、受かる時は受かる。

どちらにしろ全力を出し切れっ、じゃないと

一生ものの後悔をするぞ?」



「……ぅ……うぅ…」



「ら、蘭丸……」



燈は頭を抑えて蹲ったまま返答をしない。

絵梨は何か俺に言いたげだが俺は

言葉を続ける。



「殻を破れ燈っ!三人一緒に高校生活

送るんだろ?大丈夫、お前が全力出せば必ず

合格するっ!俺が補償してやるから安心して

前を向けっ!……ほらっ」



俺が手を差し出すと燈俯いたまま、

ゆっくり俺の手を掴み立ち上がる。


よし、これで何とかなった……ん?

燈と握り合っている手が痛い。


すると意識が手に集中して俺の頬に

衝撃が飛んできた。



「らっしゃぁぁっ!!」



「ぶばぁっ!!?」



「……はぁ……やっぱり……」



彼女の渾身のビンタに次は俺が

痛みに悶絶して蹲る。



「いきなり頭突きなんて

何考えてんのよっ?!」



「い、いやこれはですね、燈の緊張を

解すために考えた行動でしてねっ?」



「他にもやり様はあったでしょっ?!

もっと優しい言葉掛けてくれたり、

……ご、合格したらご褒美の約束とか

あったでしょうが?!」



「なにその乙女チックな考え。

俺にそんなん求めんじゃねぇよ」



「あぁんっ?!」



「ひっ!?」



「まぁまぁ落ち着いて燈?

確かに蘭丸のやり方はあれだけど緊張の方は

どんな感じ?」



「…………無くなった」



「なら結果的によかったじゃない?

それでも納得出来ないなら合格して

蘭丸を見返してあげましょうよ」



「……うん、うんそうだねっ!

よーしっ、頑張ろう!行くよ二人とも!」



「ええ」



「おぅ……ちょっと先行っててくれ、

トイレに行くから」



「…ホントに蘭丸は締まらないわね」



「ふふっ……じゃあ先に行きましょうか燈。

蘭丸、頑張りましょうね」



「おぅ」



「…じゃあ私も先行ってるからね。

早く頬の赤みを消しなさいよ?面接の時に

怪しまれるわよ?」



「これお前のせいだからねっ?!」



「お互い様よっ?!…じゃ、じゃあね。

……あと、ありがとねっ!」



「………おぅ」



顔を真っ赤にして校内へと入っていく燈と、

ふふっと優しい笑みを浮かべる絵梨。


二人を見送った俺はトイレを探すために

歩き出そうとするがそのタイミングで

声を掛けられる。



「…中々良いものを見させてもらったよ君」



「……どちらさんですか?」



声に反応して振り返ると、

スーツを着た男性が一人。


口髭を生やし、短髪のダンディな大人。

年齢はおよそ五十代前半。


男は不敵な笑みを浮かべながら、

俺にゆっくり近づいて来る。



「なに、そんな警戒しなくてもいい。

別に怪しい者でもないからねっ。

…君に質問を一つだけしたいのだが

良いかな?」



「…………まぁ、一つだけなら」



「ありがとう。……では君は弱者が強者に

勝つ為には何をすれば良いと思う?」



「……なんとも抽象的な質問ですね」



「まぁ気軽に答えてくれて良いよ。

別に答えなんてないんだからね」



ははっと笑顔で返答する男性だが、

彼の目から興味を示す怪しい視線を感じる。


……まぁ別に試験でもなんでもないし、

俺は素直に思った事を述べた。



「……パッと思い付いた事はまず

『弱者』と決められた認識を

変えることですね」



「…………ほぅ…それを何故初めに?」



「そんなの間違ってるからですよ。

別に力が弱いからとか、頭が悪いからとか

そんなちっぽけな理由で弱者と

決められるなら、

そもそも世の中の人間に強者なんて

存在も言葉もありませんよ」



「…………続けてくれ」



「何かしら項目があって上か下かで

別れるだけ。

力や勉強であったり、走る速さであったりと上げればキリがない。


力が強くても勉強は全くのただのバカ。

方や勉強は出来ても力はない貧弱。


これを見れば片方は強者で片方は弱者だ。」



「……」



「つまり一つの項目で弱者になっても

別の項目で強者になればその時点で

弱者ではない。ね?俺は弱者じゃないって

言えるでしょ?」



「……何とも屁理屈地味た回答だな」



「ですね……でもこの屁理屈でも多少は

弱者と勘違いしてる奴のモチベーションは

上がると思いますよ?

……自分は弱い奴じゃないってね」



「ふむ、……なるほどな。ありがとう、

やっぱり若い子の考えは面白いな。

中々勉強になったよ」



「際ですか…喜んでもらえたなら

何よりです」



「うむ、時間を取らせてすまないね。

トイレに行くならそこを曲がって右だよ?」



男性は満足した表情をして、

校舎を指差しトイレへの経路を

教えてくれるが…



「もう引っ込んだので結構です。

……そろそろ行くので失礼します」



「おや、そうかい。

では君の合格を願ってるよ君」



こちらに背を向け校舎の中に

入って行く男性。

俺の名前を知っていた事に軽く恐怖して、

試験を受けるため教室に足を運んだ。


教室に入ると受験番号が机に

記入されており、俺は自分の番号と一致する机を見つけて椅子に座った。


離れた席に座っている燈と絵梨の二人と

目が合い、三人でお互い頷く。


すると試験官が教室に入ってきて、

簡単な説明の後、いよいよ試験は始まった。



試験を終えた俺達は、

確かな手応えを感じていた。


しかしあくまで自分視点の感想のため、

不安や緊張は合格発表日まで隠す事など

出来はしなかった。



……試験日から三日後、

合格発表日の今日、俺達三人は結果を確認

する為に再び成南高校へと足を運んでいた。


校門に大きな掲示板が設置されており、

合格者の番号はそこに記入されている。


門に近付くに連れて様々な男女が

視界に映る。


歓喜を上げる者、

呆然と立ち尽くしている者、

泣き崩れている者……


そんなハッキリと感情を露わにしている

者達を目にする中、チラっと二人を見ると

今にも泣き出してしまいそうな不安な表情を

しているのが目に入った。



俺は両手を使って彼女達の片手を

一つずつ握る。

俺が急に手を握った事に驚いたのか、

ビクッと二人とも体を一瞬震わせ、弱々しく

こちらに視線を向けた。



「……ほれっ……行くぞ」



俺の声にゆっくりコクッと頷く二人を

引っ張り、三人で掲示板の前に立った。


ふぅーっと三人同時に一呼吸置くと、

ゆっくり自身の受験番号を目で探した。



……………………あった…………あった!

俺の番号は見つかった!!!


俺は感情を抑えてゆっくり二人に

顔を向ける。



すると二人は………………まさかの大泣き。



絵梨は目元にハンカチを押さえ付け、

止めどなく流れる涙を拭き続けている。


燈にいたっては……



「うわぁぁぁぁーーんっ!!!」



子供の様に大声を上げて泣き崩れていた。


二人の結果が分からない以上、

下手な声掛けは出来ない。


だからと言ってこのまま涙を流し続ける

二人をいつまでも放置するのはまずい。


俺は考えた結果、先ず絵梨に問いかける。



「……絵梨っ……どうだったんだ?」



「…グスッ…う、受かってましたわ蘭丸っ」



俺はその言葉にホッと安堵の表情を漏らす。


さて残るは燈だ。

……………………頼む。



「………燈っ……どうだったんだ?」



「グスッ……うぅ…………ら…蘭丸ぅ……」



燈のぐしゃぐしゃになった泣き顔を見た瞬間

喉の奥が乾き、目が熱くなる。

胸が……痛いっ!……


まさか……嫌だ…………落ちたのかっ……



「うぅ……やったよ…やったよ蘭丸ぅっ…

わたしっ……受かってたよーっ!!!」



「…………………………………マジか?」



「……う、んっ……うん、うんっ!!」



燈の言葉に反応出来ずに固まっていると、

バッと勢いよく前から俺に

抱き付いてくる燈。


そして背後からも俺に抱きつく絵梨。



「……受かったのよ私達…。

……三人とも、……合格したの……よ…」



二人からサンドイッチの状態で抱き付かれる

という状況下になっているが、

今の俺には恥ずかしいなどの羞恥心は

一切無かった。


グスグスと涙を流し抱き付く彼女達から、

確かな安心感を感じ、先程の胸の痛みは

消えていく。


胸の痛みが消えると同時に

熱くなった俺の目には涙が溢れ出していた。



「………………よかった……」



それから俺達三人は、涙が止まるまで

動く事は出来なかった。




四月、春の暖かい風が舞い散る桜を

陽気に運ぶこの季節。


私立成南高校の入学式を俺達は

迎えていた。


体育館にて校長先生の有難く長い言葉を

いただいている俺達。


俺はあまりにも長過ぎる話に飽きてしまい、

周りを見渡す。


離れた席に燈と絵梨。


金髪の男、化粧をばっちり決めてる女性。

俺と同じくらい目つきの悪い男に、

ゴリラのようにガタイの良い男。


あれ?……陽キャっぽい奴多くね?

……気のせいだよね?


そして最後に入学式で話した口髭を生す

ダンディなスーツのおっさんを見かけた。


若干不安を覚えると同時に校長の話が

終わった。


そしてすぐ様指定された教室へと

移動する事になった。


指定された教室に入った俺は燈と絵梨が

いない事から違うクラスになった事を

理解する。


担任の先生が教室に入ってきた事で

指定された席に着いた俺。


担任の簡単な連絡事項を受け、

本日の行事終了を教えられた。


帰宅許可が出たので、

俺は帰るために昇降口を目指して

足を進めた。



「やぁ、入学おめでとう岩谷蘭丸君」



急に正面に現れた口髭のダンディーな

スーツ姿のおっさん。


……長いな、口髭のおっさんでいいか。



「……うっす…ありがとうございます」



何故俺に声を掛けたのか?

何故ここにいるのか?

何なんだこの人は?


確かに顔見知りではあるものの、

別に一度会話しただけで知人でも知り合い

でもなんでもない…いや、おっさんは俺の事を

知っている様だったな。



「そんな警戒しないでくれたまえ、

ちょっと話したい事があってね。

少し時間をくれないか?」



「…………あまり時間をとらないなら」



「約束しよう」



「…………わかりました」



「よしっ、ではさっそく行こう。

着いてきてくれ」



笑顔で先導するおっさんに、

俺は警戒を緩めず付いて行った。


案内された場所は三階の端に位置する部屋。

扉には空白のネームプレートが付いており

無人を示していた。


おっさんの後に続き、扉を開けて中に

入室すると大手社長がよく座っている様な

大きな机。


電気ポットやコップなどの小物。

そして長机を挟んだ大きめのソファー。


まるで校長室のような部屋である。



「座ってくれ」



おっさんに促されてお互い対面する様に

俺はソファーに腰掛けた。



「……それで、話はなんですか?」



「ふむ、その前に君は

何の部活に入るつもりなのかね?」



「え?部活に入るつもりはありませんよ?」



「…………む?」



「はい?」



俺の返答に驚いた表情を表すおっさん。

え?別に変な事言ってないよね?



「……君は校長の話をしっかり

聞いていなかったようだね」



「…はい……すいません」



「いや、まぁ確かに殆どがありきたりな

話だっから飽きてしまうよね。

重要な事は最後に少し話してたからさ」



「重要な事?」



「うむ、この学校の絶対ルールとして

何かしら部活に入ってもらうのだよ」



「……は、はぁー?!

そ、それは絶対なんですか?」



「我が高校は文武両道をモットーにしている

からね。そのため学力だけで無くスポーツ

にも力を入れているのだよ。

だからスポーツ推薦でこの学校に来る生徒も

いるよ?」



「……もしかしてさっき見た金髪の生徒や

ガタイの良い生徒は……」



「おそらくスポーツ推薦の生徒だろうね。

彼らは優秀な成績を収めていれば

多少の学力は免除されるからね」



「…………マジですか……」



俺はその話を聞き、

思わずガックリと勢いよく肩を落とす。


俺は学力がない奴は入れない高校と思い、

勉強して入学したのに、運動さえ出来れば

バカでも入学できるという事。


中学時代、大半の陽キャは運動部に

所属していた。


つまり陽キャも入学しているのだ。


……最悪だ。



「?何をそんなに落ち込んでるいるのかい?

君は合格したんだから大丈夫だよ?」



「……俺は騒がしい陽キャ共は嫌いなんです。

だから勉強して高い倍率を誇るこの学校に

入学したのに…………うぅ……」



「……なるほど。

まぁ君がそういう子達を苦手とするなら

話は早い。」



「……はい?」



「岩谷蘭丸君……生徒会へ入らないかい?」



「………………はい?」




………………何言ってんだこのおっさん?



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