第二話 親友との連絡

 僕は翌朝、6:00頃に目を覚ました気がした。ぼんやりと宙に浮く風船のような思考が昨日は思い出すこともなかった同じ高校に進学した親友の事へと吸い付いた。「そういえば、幼稚園の頃から小学校、中学校と一緒に進学してきた親友は同じ高校の入学式についてどう感じたのか。」ということだけに。なぜ普通の高校生なら気にもせず「ダルかったな。」で済むことに対して高校生になった彼(親友)に考えを求めることにしたのかというと、彼も僕と同じように同学年の人より変わった考え方を持つ人間だからだったからだ。すぐさま僕はLINEを彼に投げつけた。決して"スマートフォン"を投げたわけではない。"テキストを"だ。もちろんインターネット空間で


 僕が暖かい布団から出る前に彼は冷静に返事をしてくれた。彼の考えまとめるとこうだった。

「つまんない。無駄な時間だった。あの時間にコンテストで優良賞をとるための絵を描けるくらいには。」

単純な言葉に思えるかもしれないが、彼は小学生のころから僕と一緒に絵画教室に毎週金曜日に通っており、小学を卒業するころには20ほど、中学を卒業するころには50ほどの優秀賞などを全国の中で受けるほどに才能があふれていた。僕が見せてもらった彼の龍はまるでうろこの一つ一つが呼吸をしているのではないかというほどに繊細でかつ、生きるために無駄なものは除去したにも関わらず、迫力にあふれていた。僕はそれを見ていることしかできなくなり、次第に絵を描くことから離れていった。そんな彼が"無駄"というのだから本当に無駄だったのだろう。そんな考えを共有している間に家を出る時間になっていた。


 僕は自転車のペダルをがむしゃらに回した。駅の前のまっすぐな道では速度メーターは40km/hを超えていた。寝起きの僕の体にぶつかる、太陽で暖まった風が乱暴に包み込んできたが僕にとっては心地良かった。が、それも疲れによりすぐに終わってしまった。すでに下りホームに止まっていた電車に僕は少しワクワクして乗り込んだ。なぜワクワクしたのかわからないが、その時までは特に暗い気持ちはなかった。というか作る時間を意図的に設けさせなかった。しかし、電車に乗ると不思議と学校が嫌だという不安とは違う感情がジワジワと襲ってきた。忘れ物に関してだった。今日は恐ろしいと噂の体育の授業があったためすぐさまバッグを確認した。幸運なことに忘れ物はなかった。僕はその後安心して買ってもらったばかりのスマートフォンを中学の時の古い学ランから格好よく取り出した。続いてイヤホンで耳に蓋をしてかけた曲は古い洋楽の明るい曲だった。電車の車窓から流れてくる緑にあふれた景色のコース料理は僕の心を満たした。


 乗換駅に到着した僕は2、3回しか来たことのない駅で新鮮さを感じていた。もちろん次に来る電車を待ちながら。電車が来ると話したこともない同じくらいの歳の人たちが続々と乗り込んでいった。僕も遅れてだが乗り込んだ。そこから3分で学校の最寄り駅に着いた。それからは10分ほど何も考えないように学校へと早歩きをした。


 今日の朝不安だった、体育の授業が始まった。体育館に集合して2クラス同時に授業を行っていたため、もう一つのクラスのほうを見てみた。するとなんと親友がいた。しかし、彼は先生に私物への名前の書き方や提出物を忘れたことへの説教をされていた。さらに、その説教をしている先生は僕の担任だった。「終わった。僕の担任体育担当かよ。昨日は話を聞いていなかったから気づかなかったのか。」と担任を変えられもしないのに強く後悔する僕と同時に彼の行く末が気になってしまい、凝視してしまった。しかし、それはすぐに焦りへと変わった。先生が僕のほうへ来たのだ

 「おい、お前は大丈夫だろうな。私物見せろ。」

 担任は厳しい態度で こちらへ問いかけた。

 「大丈夫です。ほら。」

 「ほらじゃねぇだろ。体育靴の名前反対じゃないか。」

 「これは先生方へ名前が読みやすいようにですので。」

 「お、そうか。ならしょうがない。」

 先生はとっさについた僕のミスを隠したウソに納得してそのまま生徒の前へと帰っていった。


 正直ほっとした。すこし経って、親友のほうを見てみると彼は半泣きだった。それもそのはず、あまりにも威圧的な説教だったからだ。後で慰めてやろう。彼を慰めるための言葉を考えているうちにその日の授業は終わった。


 帰りの電車の中、日課にしようと思っていたフォークソング鑑賞の前に彼へ慰めの言葉のつもりで"今日は大変だったな。あの先生はあそこまで怒る必要はない。でも俺の担任だから僕よりは'まし'さと送信した。しかし、これもまずかった。後の彼の人生を変えてしまった出来事かもしれないのだ。しかし、僕はフォークソングを少しでも早く聞くために、彼という変わった思考の相手から、この文章がどう受け取られるかを考えもせずに送ってしまっていた。僕はそんなことにも気にせずに、すぐさまスマートフォンとイヤホンを取り出した。

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シルクハットと少年 芸無 大隙 @soyboy

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