シルクハットと少年

芸無 大隙

第一話 少し変わった高校生。

 僕はつい先ほど入学式を終えたばかりの「外面だけ高校生になった中学生」というような中途半端な人間である。今は勝手に家へと歩いていきそうな身勝手な足を引きずるようにして、体育館から隣の棟の三階にある教室へと向かった。階段を上るときも高さ10mもあろうかという角度60度の板を登るような感覚にとらわれるほど、いや、そう感じるほど強い嫌悪と不安が頭の中を占めていた。その板を登り切ると反対側には階段が見えた。どうやらその一つ手前の教室が僕を収容する「刑務所」のようであった。


 しかし、そんな「刑務所」に入った僕だが、先ほどの暗い気持ちとは違って明るさが目の前を通り過ぎようとしていた。僕は頭がくらくらするような感覚とともになぜあんなことを考えていたのかという不思議さが襲ってきた。だって目の前には新しい先生に知らない人たち。みんなが希望や夢を目指して突っ走った人の集まりがあったからだ。圧倒された僕はすぐにみんなから元気をもらった気になり、少し無理をした明るさで自己紹介をしてその日は教室を後にした。不思議さは「少し恥ずかしかったが自分の存在を感じれてうれしかった。」という感想でかき消されていた。


 帰りの電車ではいろいろなことを考えた。昼間、自分の感じていた嫌悪の正体や明るいクラスメイトの自己紹介。先生が帰りのあいさつをしたときに見えた髪の毛の薄さなど自分にとって不安なことでも楽しいことでも笑えることでもなんでも。考えていると抽象的な考えがまとまったような純粋で単純な達成感が感じられた。新しいスマートフォンで古いフォークソングを聞きながらそんな達成感を味わう感情は自分をより良いものへと変えているような気がした。しかし、その感情をまた味わうためには明日の「学校」という壁を乗り越えなければいけないという絶望で、すぐに楽しさのような感情は打ち消された。


 電車から降りた僕は急いで自転車に乗り換えた。特に急ぎの用事はなかったが、家に帰ることで電車の中からまとわりついてくる絶望が消えると考えたからだ。家についてからは軽くご飯を食べ、中学時代の仲間とボイスチャットでくだらない話をし、協力型のマルチプレイゲームをみんなでプレイした。不思議なことにプレイしている間は不安と明日への絶望は全部吹き飛んで、勝つことへの執念と負けた時の怒りのみの感情に置き換わっていた。


 楽しい時間はすぐに過ぎ、決められた就寝時間になった。うちはそういうところは厳しいのだ。興奮と親へ向けた敵意を抑えてせんべい布団へと体を放り投げた。布団の中はひんやりとして先ほどまでの高揚感はなくなり冷静になっていた。しかし、冷静になると先ほどまで忘れていた明日への絶望と不安が鮮明によみがえってきた。「もう、どうでもいいや。」そう頭の中で呟いてから数十分後には寝た。僕は精神面では案外タフなのかもしれない。それかマヒしているか逆に敏感なのか。もうわからなくなってきた。そんなことを考えながら夢の中でも思考を続けていた。

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