第3話
酔っ払って豪快なイビキをかいている陽ちゃんをすぐ隣で眺める。アレから陽ちゃんを布団に入れて、側を離れようとしたら「一緒に寝て欲しい」なんて駄々を捏ねられて今に至る。陽ちゃんはとっくの昔に深い眠りの底に落ちていて、私の腕を掴んだ手も解けているので移動しようと思えば出来るのだが、なんとなく私はこうやってずっと陽ちゃんの顔を眺めていた。横に長まっている間に酔いもすっかり冷めてしまったが、どういうわけか眠ることも出来なかった。
「陽ちゃん--陽一」
呼んでみた。
なんとなく、純ちゃんの専売特許のような気がして呼ばなかった陽ちゃんの本名。口に出してみるとやっぱり呼び慣れなくて、どこかこそばゆい。
もう一度、陽ちゃんの髪の毛を触る。それから、額を触って鼻を触って、頬を伝って、唇に。彫りの深い顔に似合わない薄い唇。この唇を純ちゃんは自分のものにしている。唇だけじゃない。身体も心も全部純ちゃんのものだ。
そう思ったら、少しだけ悔しくなった。
別に陽ちゃんに恋愛感情があるわけじゃない。
女であるはずの自分が、男である純也に勝てないのが悔しいのだ。
陽ちゃんは、私が布団の上で股を開いて誘惑したところできっと私に手を出してなんかこないだろう。陽ちゃんの中では、純ちゃんが恋人で性対象で大切な人で、私なんかどう頑張ったってそこら辺の有象無象よりもちょっとマシなだけの『幼馴染』というポジションなのだ。
陽ちゃんにとって、私は女じゃない。
それは純ちゃんにとっても同じ。
私はおもむろに起き上がった。そして、気持ち良く寝ている陽ちゃんにそっと口づけをした。
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