打!投!極! ぶつかり合う技と技! 意地と意地! 最後に立つのはどちらだ!?
「ワシの6本腕は殴るだけではない。こういうこともできるのだ!」
ヴェルニの6本腕がピーチタイフーンをつかむ。4本の腕で四肢を押さえて抵抗を封じ、そのまま肩で背負うようにして、肩と腰に手を当ててピーチタイフーンの背骨を折るように力を込める。
「四元素複合! 爆炎と疾風よ、我が体を持ち上げよ!」
ヴェルニは四元素の炎を地面で爆発させ、その勢いでピーチタイフーンを抱えたまま高く跳躍する。そして風の力を用いてさらに高く跳躍した。
「地と水よ、我が意のままに変形せよ!」
そして着地地点の地面を水で柔らかくし、土を操作しやすくする。土はヴェルニの意思に従いサメの歯を思わせる無数のトゲを形どった。
「これで終わりだ! 背骨を折られながら、全身を貫かれろ!」
空中で体を反転するヴェルニ。抱えていたピーチタイフーンを下にして、地面に向けて落下する。その先にはトゲの土盛。背骨を極めたまま、ヴェルニはピーチタイフーンをトゲの大地に叩き付ける!
相手をホールドしたまま跳躍し、相手を叩きつける。その先にはゴーレム術で変化させた凶器の床! 鍛え抜かれたピーチタイフーンの肉体とはいえ、背骨のダメージと落下ダメージ、そしてトゲの打撃には耐えられない。
「ぐっ……!」
よろめきながら立ち上がるピーチタイフーン。背骨は立とうとするだけで痛みを訴え、トゲの大地で削られた皮膚は流血が耐えない。ダメージの深さを示すように、呼吸も荒い。
「複数腕による極めと投げ技。四元素によるダメージの増幅。見事だヴェルニ。力だけの戦士には為しえず、魔力だけの魔術師には届かない。まさに力と魔の融合!
私もその研鑚に応えよう!」
叫ぶと同時にヴェルニに向かって走るピーチタイフーン。ヴェルニはピーチタイフーンの跳躍に備え、腰を下ろす。また魔力障壁で止め、迎撃する。しかし!
「消えた!?」
「下だ!」
ピーチタイフーンは跳躍せず、地面を滑るようにスライディングした。その素早さにヴェルニは虚を突かれ、消えたように錯覚したのだ。そして気付いた時にはすでに遅い。ピーチタイフーンの足がヴェルニの両足を挟み込むように迫る。
カニバサミ。立っている状態から相手を転倒させる技だ。ただ転倒させるだけの技。しかしこれはつなぎ。ここから流れるようにピーチタイフーンは動き出す。あおむけに倒れたヴェルニに跨り、足首をつかんで背骨を逸らす!
逆エビ固め。誰もが知りうるレスラーの技。背骨に苦痛を与えるピーチタイフーンのお尻より、この技はこう称される。
ピーチタイフーンの尻で抑え込まれ、そのまま背骨にダメージを受けるヴェルニ。ゴーレムの腕を使って力を籠め、ピーチタイフーンを跳ね返す。
一進一退! ヴェルニが魔術を乗せた技を仕掛けてれば、ピーチタイフーンもプロレスの技を返す。一打一打に互いの意地を乗せ、譲れない思いを乗せて!
「惜しい惜しい! 自らの欲望に忠実に生きればその技も生きよう! 他人のために使って歴史に消えるとは愚行! 自らを極めるのに、他人など不要! 愛など不要!
弱き者は足を引っ張り、強き者はその成長に嫉妬する。そして愛は精進する心を堕落させ、停滞させるのだ!」
孤独に生きることこそ、自らを鋭く尖らせると主張するヴェルニ!
「弱き者は成長し、嫉妬は克己する心に変わる! 侮るな、ヴェルニ! 生きる者の可能性を、心から生まれる熱い炎を!」
生きる者の可能性を信じ、希望を与えようとするピーチタイフーン!
「貴様にもいたのではないか。魔に堕ちる貴様を案じたものが! 孤独を生きる背中を止めることもできずに見続けた者が!」
ピーチタイフーンの言葉に、はっとするヴェルニ。
勇者パーティにいた時に、最後まで自分を案じてくれた女戦士。共に行こうと言った彼女の声を、彼女もまた裏切るのではないかという不信により拒否したことを。あの時に、頷いていればあるいは――
「否! 断じて否! 他人は足を引っ張るのみ! 愛は堕落を生むだけ! 他人のために戦うことに、意味はない! ワシはただ一人、魔道を極める!
この監獄を支配して魔力を蓄え、魔王を倒してさらなる支配を敷く! ワシを頂点とした支配国家だ! ワシの隣に誰も要らぬ!」
ヴェルニの魔力が高まる。ここで決めるつもりだ、とピーチタイフーンは理解した。
「四元素融合! 風と土! 火と水! 相反する力よ、我が体に宿れ!」
互いに異なる作用を持つ風と土、そして火と水。その二つが融合するとき爆発的なエネルギーが生まれる。四本のゴーレムの掌にある四つの力が束ねていく。手のひらで炉を作るように四元素は重ねられた。それを一点に集中して解き放つ技。その名も――
「これだけの元素を集めた一撃だ。周囲一帯を巻き込む巨大な一撃となるぞ!
この監獄ごと反乱分子を全滅させてやる。貴様の仲間もろとも、チリとなれ!」
ヴェルニを支えるように大地が盛り上がる。まさに大砲のごとく。その標準はピーチタイフーンに向けられた。その背後には、仲間たちが戦う監獄がある。
「監獄ごとか。その中には貴様の部下も含まれるぞ」
「そこまでせねば貴様は倒せまい!
それにワシに部下など不要! この破壊をもって反逆の意思を魔王に示してやる!」
ピーチタイフーンを倒す。そのためにはなりふり構わない。その決意がヴェルニにはあった。あるいは、初めから部下は見捨てるつもりだったのだろう。いずれ魔王を倒すために、すべてを利用するつもりだったのだろうか。
「ならば私もそれに応じよう! その力、真正面から打ち砕く!」
ヴェルニの覚悟を受けて、ピーチタイフーンは両足をそろえてヴェルニに向きなおる。小細工不要の真っ向勝負。持ちうるすべての力をもって、相手の攻撃を真正面から打破する!
「死ぬがいい、ピーチタイフーン! ここで戦えたことに感謝するぞ!」
「はあああああああああ!」
ヴェルニから放たれた光の束。四つの属性が螺旋状に絡まり、一直線に突き進む。その光にまっすぐに走るピーチタイフーン。
「
四元素の光に向けて背を向け、跳躍するピーチタイフーン。まっすぐにお尻を向けて、光線を受け止める形でぶつかった! ピーチタイフーンの得意技、ヒップアタックだ!
「そんなもので、ワシの攻撃を止めるつもりか!?」
「否! 貴様の技に敬意を表するからこそ、これで止めるのだ!」
お尻。
それは下半身の力を束ねる槌であり、多くの筋肉を含んだ盾でもある。そしてピーチタイフーンはその部位を中心に技術を高め、数多の勝負に勝利してきたレスラーだ。
相手の全力に応えるのに、これほど適した受け方はない!
「突破できぬ、だと!?」
拮抗する四元素の反作用力とピーチタイフーンのお尻。相手がただのエルフなら、触れた瞬間にチリになっていただろう。圧倒的な魔力の熱を前に、なすすべもなく消滅していた。
しかし、ピーチタイフーンはただのエルフではない。レスラーの魂と技を持ち、そして多くの仲間の希望を背負った存在。負けられないという思いが、ピーチタイフーンに力を与える!
「ピーチ! タイフーン!」
「ピーチ! タイフーン!」
それは魂の声。この場にはいないがピーチタイフーンを信じて戦っているオークやエルフの
「ぐはぁぁぁぁあぁ!」
必殺の魔力波を打つために地面に体を固定していたヴェルニは、ピーチタイフーンの尻を避けることもできずに、その一撃を顔に受ける。やわらかく、しかし強いピーチタイフーンの尻から与えられる衝撃を受けてヴェルニは意識を失った。
「感じたか、ヴェルニ。これが、絆の力だ!」
拳を振り上げ、ヴェルニに告げるピーチタイフーン。
カン、カン、カーン!
この時、試合終了を告げるコング音が高らかに鳴り響いた――
★試合結果!
試合場所:ヴェルニ監獄
試合時間:18分06秒
●ヴェルニ (決め技:スカイスターヒッププレス) ピーチタイフーン〇
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