荒れ狂う人形の腕! 全てを支配するゴーレム格闘術、爆誕!
「ワシのゴーレム術の前にひれ伏すがいい!」
言うと同時にヴェルニに土がまとわりつく。土が圧縮され、ヴェルニの背中に集まった。それは背中から生える人間の腕を形どる。まるで6本の腕が生えているかのような姿となった。
「それが貴様のリングコスチュームか」
リングコスチューム。それは戦いの姿。その言葉は理解できないが、その意味は理解できた。ヴェルニは頷き、持っていた杖を地面に突き刺す。この姿になったのなら、もはや杖に意味はない。
「来るがいい、ピーチタイフーン。ゴーレム術の先を見せてやる!」
「ならば行こう。真正面から!」
宣言し、ヴェルニに向かって走り出すピーチタイフーン。小細工なしフェイントなしの正面突破。散歩前で跳躍し、自らの尻をヴェルニにぶつけるヒップアタック! ピーチタイフーンの代名詞ともいえる尻をぶつける彼女の得意技!
「障壁展開」
その突撃に合わせるように、ヴェルニ本人の腕が印を切る。魔力と適切な術式が世界に作用し、ヴェルニを守る五芒星の盾となった。魔力の盾が、ピーチタイフーンのヒップアタックを受け止める!
「四元素顕現」
言語と共にゴーレムの腕に四つの力が宿る。火、水、風、土。この世界を構築すると言われる最小単位。その力をゴーレムの腕に宿し、動きが止まったピーチタイフーンに殴りかかる。
「先ずは火! 破壊と再生の
暴力的な熱を伴った拳!
「次は風! すべてを切り裂く
不可視の刃が肌を割く!
「そして水! 抗うことを許さぬ
全身を包み込み、流されるように投げ飛ばされる!
「最後に土! 圧壊して眠れ
ダウンした相手に容赦なく叩き込まれる重い一撃!
火風水土! 火風水土! 火風土水! 風火水土! 火水風土! 風水火土! 火水土風! 風火水土! 風火土水! 水火土風! 水火土風! 風土火水! 風水火土! 水土風火! 水土火風! 火風水土!
連続で叩き込まれる四元素の拳。ゴーレムの腕の力強い一撃と、世界根幹ともいえる元素の力。それを絶え間なく叩き込まれる。複数のパターンを組み合わせ、相手に反応させる間も与えない。
「複数の腕による魔術を乗せた攻撃。これぞゴーレム格闘術! 巨人さえも地に付してきた我が腕。その力を敗北と共に刻むがいい!」
6本の腕を組み、仁王立ちするヴェルニ。だがしかし!
「確かに身には刻んだ。しかし、敗北を刻むにはまだ足りぬ!」
ヴェルニの拳を受けたピーチタイフーンは血を流しながら立ち上がる。魔力防御も物理防御も何もない。ただ鍛えられた肉体だけでヴェルニの魔力がこもった拳の殴打に耐えたのだ。
「思ったよりタフだな」
「当然だ。レスラーのタフネスをなめるな。ここで倒れるわけにはいかない!」
「ふん。他人の希望を背負うとは大変なことだな。矢面に立ち、苦痛を受けねばならぬとは。いらぬ苦労をしょい込んでいるのではないか?」
「なんだと?」
「今からでも遅くはない。信じるものを裏切り、魔国に与せよ。ワシが魔王に口をきいてやる。その力、その技術、葬るには惜しい」
余裕か、あるいは戦意を折るためか、はたまた本気でそう思っているのか。ヴェルニはピーチタイフーンを説得する。オークやエルフを裏切り、軍門に下れと。
「自分より弱い奴のために戦ってなんになる? いや、他人のために戦ってなんになる? 自分のために戦い、勝利してほしいものを得る。それが一番ではないか」
「魔国に仕えているとは思えない言葉だな。貴様もこの魔国のために監獄を支配しているのではないか?」
「まさか。ワシをはじめ四天王は全て、魔王の寝首をかこうとするものばかりだ。隙あらば挑む。この監獄の支配も力を蓄えるために効率がいいからにすぎぬ」
拳を握り、野心を込めた顔を浮かべるヴェルニ。
「そうとも、この国は力ある者が統べる魔の国。貴様のような蛮族の血こそふさわしい。その力も技も、この国では最も貴ばれる。弱気を捨てて独り強さを求め、頂上を目指す。
連中を守ってどうする? 安寧を得ればその力は疎まれる。民意によって弾かれて、貴様も社会から追放される。そうなる前に、見限ってしまえ」
人間は愚かだ。自分を慕ってくれた存在であっても、いつかは裏切る。分不相応に相手を見て、自分の都合のいいように場を支配する。当然だ。誰だって、自分自身が大事だ。自分自身がやりたいように環境を整え、不要なものは切り捨てる。
そこに正義などあるはずがない。そこに理想郷などあるはずがない。そんなありもしない幻想よりも、快楽や安寧と言ったわかりやすい現実があるならそれにすがるのは当然だ。たとえそれが、他人を傷つけることだとしても。
それもまた戦い。拳に依らない、自らの欲するものを得るための行為。
「貴様の言っていることは正しい」
ヴェルニの言葉にうなずくピーチタイフーン。
「平時に力は不要。疎まれていずれは消えゆくだろう。今は力に頼っているとしても、いずれ力を必要としない時代が来るだろう。そしてまた、争い初めて新たな力を求める。それは歴史が証明しているとも。
だが、それがどうした!?」
ヴェルニの言っていることは正しい。だけど、それを認めたうえで反論するピーチタイフーン。
「この世に絶対はない! 人の心は移り変わり、価値観は容易に覆り、世界は絶え間なく変動している! いずれこの大地の重力の束縛から逃れ、天空に旅立つ時も来るのだろう! いつかは不老不死の領域にまで医術は発達するのだろう!
大衆が見限る? 世間に追放される? だからどうした! そんなことは織り込み済み! それでも、私には私を慕う声が聞こえてきたのだ!」
瞑目し、地下牢での声援を思い出すピーチタイフーン。救い出したオークとエルフ。その二種族の期待の声。それは確かにあることなのだ。
「その声がある限り、私は戦う! 戦いを求める声ある限り、私は戦う! たとえその後に、敗北や破滅が待っていようとも戦いを求める声と場所がある限り戦う!
それが、レスラーだ!」
いずれ裏切られ、不要と烙印を押されることがあると分かっていても。
今その声があるのならそのために戦う。その声に、期待に、希望に、背を向けることなどできやしない。
なぜならレスラーとは、皆の希望を背負って戦う者だからだ!
「没落を予測しながら、裏切られるまで戦うか。愚か者が。それだけの力があれば、魔国四天王の座を奪うこともできるやもしれぬのに。望むまま戦い、望むまま争うこともできように」
「不要と言われたのなら、別の場を探すのみ。それもまた時代の流れだ」
これ以上の会話は無意味、とばかりに構えなおす二人。言葉を交わしても意味はない。ピーチタイフーンの戦意は砕けず、ヴェルニも拳を納めるつもりはない。互いの譲れない理由のために、ぶつかり合うのだ。
「強いて言えば、望むままに戦える場所というのは惹かれたな」
「蛮族が。
言って互いに笑みを浮かべる。
レスラーと魔術師。エルフの尻とゴーレムの腕が再び交差する!
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