孤独が生んだ最強魔人形師ヴェルニ! 愛を忘れた悲しき魔力が荒れ狂う!
「ヴェルニ、人形に頼るお前は勇者パーティにはふさわしくない。出て行ってくれ」
それはヴェルニがまだ若かりし頃。まだ人間の国に属していたヴェルニが魔物と相対していた頃の話だ。
「何故だ!? 俺のゴーレムは攻撃防御をこなし、パーティの足りない部分を補ってきたじゃないか!」
当時人間国の希望ともいわれた『勇者』パーティ。そこに集う人間は最高の剣技と最高の魔力を持つ存在だった。ヴェルニもそれに比肩するほどの実力で、人形を用いた戦術は攻撃に特化していたパーティの穴を程よく埋めていた。
「ふん! それはお前ではなくゴーレムが強いに過ぎない! 貴様自身は人形を生み出し命令している木偶の坊だ! 人形を扱うお前が木偶とはお笑い草だな!」
「そんな……!」
「数の穴など人を多く雇えば済む話だ! 役立たずは装備を置いて消えろ!」
口論の末、ヴェルニは勇者パーティを追放される。その際に様々な汚名を着せられ、人間の社会から追放された。勇者パーティのお荷物。命令するしかできない愚図。頭でっかちのうるさい男。お情けで勇者のお供をしていたのに空気が読めない無能。
勇者はヴェルニが抜けた穴を埋めるように多くの女性をパーティに加え、自分以外が女性のハーレムパーティを結成した。旅の行く先々で女性を口説いては算入させていく。
多くの人間は勇者の言葉を信じた。多くの人間は人形師を卑劣と罵った。役立たずは追放され、勇者はさらなる力を得る。その事実に沸き上がり、罪人を攻める快楽を得た人間はヴェルニをさらに貶める。いつしか人間社会にヴェルニの居場所はなくなっていた。
追放されたヴェルニは人間社会を見限り、魔国へとたどり着く。人間という種族は魔物に比べればぜい弱だ。オークに劣る肉体。悪魔に劣る魔力。しかしヴェルニは智謀を駆使してのし上がる。そして数多の戦いを経て、ゴーレム式格闘術を生み出した。
ゴーレム式格闘術。寿命数秒のゴーレムの四肢を作り出し、それを用いて行う格闘術だ。腕の数が増えれば、その分攻撃手段も増す。足の数が増えれば、その分移動範囲も増す。数はどのような状況においても、力となりうるのだ。
ヴェルニの強さは魔国での戦いで精錬されていく。ゴーレムそのものの強さ。ゴーレムの指揮能力。多対多における戦術眼。なによりもヴェルニ当人の強さそのもの。『弱い』とされる人間だからこそ多くの敵に狙われ、そして生き延びてきた。勝ち抜いてきた。
「これを使えば、あいつを……」
そしてヴェルニは人間女性そのものともいえる人形を作り出し、勇者の元に送り出す。偶然を装い勇者の懐に潜り込ませ、パーティを崩壊させるように流言飛語を撒く。もともと嫉妬が渦巻いていた勇者のハーレムパーティは、わずかな針の一刺しで破裂するように崩れ去っていく。その様子をみて、ヴェルニは薄く笑った。
「ざまあ」
そしてヴェルニは自分を追放した勇者の末路を見て、美酒に浸る。そんなヴェルニのもとに、魔国の王ガルドバがやってくる。
「勇者を滅ぼした手腕、見事だ。わが国で重鎮として雇ってやろう」
「望むなら、地位にふさわしい魔族の女を授けるが」
血縁を結ぶ意図を含んだ魔王の言葉。しかしヴェルニはそれを鼻で笑った。
「断る。私は誰も信じない。貴様が私の能力を買ってくれることに免じて、軍門に下ろう」
女で身を崩した勇者を知っているのか、はたまた信じた勇者に裏切られたからか。ヴェルニは頑なに他人を信じようとしなかった。魔国の環境で戦いに生き、復讐に生きた結果、ヴェルニの心は他人を近づけぬトゲが形成されていた。
孤独! ただ一人、だれも近づけることなく厳しい魔国を生き抜いてきたヴェルニは、人を信じる心を失っていた。それは荒波に岩が削られるがごとく。削られた岩は環境に適するように鋭くなっていた!
この苛烈な環境の中、
かくしてヴェルニは徹底的な支配を行う。命令を聞くゴーレムを用いた監獄の支配! 収容している者の心を折る非道の作業! 暴力を容認し、弱き存在を虐げる支配構造! すべては自らが支配するため!
愛などいらぬ! 心などいらぬ!
自らが生み出した人形こそがすべて。自らが作り出した支配こそがすべて。信じる者は、自分のみ! 逆らう者は、屈服させて支配するのみ!
「――そうか、貴様はそんな過去が」
流れ込んでくるヴェルニの
ピーチタイフーンはそれを理解し、そして一歩踏み込んだ。
「ワシの過去を知ったか、エルフ。しかしだからどうした? まさかまさか、同情して涙を流すとでもいうのか?」
「まさか」
「ならばつまらぬと唾棄するか。復讐など無意味。孤独に生きるなど無意味。高い場所から説教するか?」
「まさか」
ヴェルニの問いかけに首を横に振るピーチタイフーン。
ヴェルニの人生はヴェルニのものだ。それを感じてどう思うかはピーチタイフーンの意見だが、他人の人生を批評することなどできやしない。奴は生きた。その結果敵対している。それ以外に意味はない。
「人間に裏切られ、その復讐を果たした人形師。その思いから生まれた技術はこの魔国で役職を得るに至った。その努力、その研鑚、その執念。それを見事と褒めたたえよう」
「ほほう。暗き炎から生まれた我が技を褒めるのか? この技術こそが、この監獄を難攻不落にして多くのモノを苦しめているというのに」
「無論。如何なる技術、如何なる武器、如何なる魔術。その出自に善悪はない。使い手の行動こそが、善悪だ。
正しく人を導こうとする神の教えが支配に利用されるように、人を殺そうとする刃が街を守るための抑止力になるように」
真正面からヴェルニを見据え、言葉をぶつけるピーチタイフーン。そして、
「そもそも善悪にすら意味がない。それは社会の価値観で、ルールを裁定するものが変わればそれに合わせて変化する。故に私は貴様の行動に異議を唱えるつもりはない。あるのはただ、今相対している事実のみ。
貴様はここにいる。私の前に立ちふさがる敵として。敵ならば戦い、潰す。強敵なら挑み、勝利する。ただそれだけだ!」
同情はしない。蔑視はしない。ただ、敵ならば戦うのみ。ただそれだけだ。
「ならば問おう。貴様は何故ワシと敵対する? 魔国に捕らわれた復讐か? 悪に対する義憤か?」
「否。私は強き者と戦うためにここにいる。そして弱き者の希望となるためここに立つ。
153名のエルフの同胞と、287名のオークの同胞。それら440名の想いと、今解放されつつあるこの監獄の者たち!
それらの希望となるために、私はここに立つ!」
「希望。希望と言ったか。かつての勇者と同じことを。
しかし貴様もいずれは見限る。名誉を得て、慢心してついてきたものを裏切る。我欲に負け、気に入らぬものを追放するだろう!」
かつて自分がそうされたように。その言葉を飲み込むヴェルニ。
「かも知れぬ。生きるということは戦いだ。自分自身に負けて、私がそうならないとも限らない」
ヴェルニの言葉を否定しない。そうなる可能性はゼロではない。いずれ自分をコントロールできずに、堕ちていくかもしれない。
「その時はただ堕ちるのみ! 克己することを怠れば敗北するのは必至!
故に私は戦い続ける! 肉体を鍛え、心を鍛え、技を鍛え。レスラーとして、戦い続けるのだ!」
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