2nd Fight! VSゴーレム格闘魔術師! 世界解放プロレス、爆誕!
監獄長ヴェルニ! 非道な支配を打ち砕くため、立ち上がれ【世界解放】!
ヴェルニ監獄。そこは魔国の犯罪者だけではなく、戦争でとらえられた捕虜や奴隷もこの監獄で収容されていた。
四方を巨大な壁で囲まれた難攻不落と言われた監獄で、各所に設置されたゴーレムは不眠不休で外敵に備えている。空中や地中にもゴーレムを始めとした防衛策が設置されており、正規の道を通らずに入るものは皆ヴェルニのゴーレムに殺され、そして殺されていた。
それだけのゴーレムを生み出す魔力をヴェルニはどこから調達しているのか?
簡単である。捕らえた囚人たちから奪っているのだ。ピーチタイフーンは首輪の跡を軽く摩る。
「ヴェルニ監獄長は、魔力のある囚人に首輪をつけて、そこから魔力を奪っていくだ。その魔力をゴーレム作成と意地に変換するだ」
「そんな……。俺たちの魔力をゴーレム用に変換するだと? そんなことが可能なのか?」
「毛色の違う様々な囚人の魔力を束ね、自分が使いやすいように変化させるだと。しかも囚人の数は100人を軽く超えるというのに……」
「そもそも、それだけ膨大な魔力量をコントロールし、ゴーレムに配分するしているなんて……。そんなことが可能なのか?」
スマシャの説明に、驚きの声をあげるエルフ達。様々な色の水をいったんろ過し、自分が使いやすいように染め上げ、分配する。その発想やシステム構築は魔術に長けたエルフでも舌を巻くほどだ。
「うろたえるな! それができるからこその、監獄長。敵として不足なし!」
疑うのも無理はない。しかしピーチタイフーンはざわめくエルフ達を一喝した。
その姿は囚われた奴隷の姿ではない。『Peach♡Typhoon!』とロゴの入った桃色と白のカラーで彩られたレオタード風水着のようなコスチューム衣装に丈夫な白のブーツ。まごうことなき、レスラー姿だ。
魔力封じの首輪が解放されたからか、はたまたレスラーとして勝利したから格が上がったか。理由はわからない。いつの間にかピーチタイフーンはこの姿になっていた。何故か、と問いかけた者はいたがそれにピーチタイフーンはこう返す。
「レスラーが戦いに赴くなら、コスチュームを着るのは道理だからだ」
よくわからないが、そういう事らしい。
「行くぞ!」
言って先導するピーチタイフーン。その姿に鼓舞されるように、その後をついていくエルフとオーク。スマシャ達オークが管理する牢屋エリアの出口。ここから外は安全の保障はない。その扉を蹴り破った。
「ナニゴト、ダ!」
「【
言って近くにいたゴーレムに向かい、跳躍するピーチタイフーン。跳躍の瞬間に背中を向け、ゴーレムの顔部分に自分の臀部をぶつけた。
開幕直後のヒップアタック! 岩でできているロックゴーレムは、その攻撃を受けて倒れこみ、動かなくなる。
「姉さんに続け!」
「ルミルナの援護を!」
その勢いのままに動き出すオークとエルフ達。オークの拳がゴーレムを押さえ、エルフの魔力が解き放たれる。物理と魔力。協力することで、その効力は相乗される!
「おめぇらを助けてやるぜ」
「な、何故オークが! いや、エルフもいる!?」
「へっ、俺たちはオークだが、世界解放プロレス団体なんだ」
「お前らを助けて、一人前のレスラーになるんだよ」
「れ、れすらー?」
囚人のケンタウロスは初めて聞く単語に眉をひそめた。実際のところ、言っているオークもレスラーが何なのかはよくわかっていない。
だが、ピーチタイフーンのほうを輝かしい目で見ていた。遠く輝く星を見上げるような、純粋な目。その目が、邪悪なはずがない。そのケンタウロスはそう感じ取っていた。
「このエリアは解放した!」
「次はこっちだ!」
ピーチタイフーンを筆頭に、囚人を解放していく【
「穴ヲ掘レ! ソシテ埋メロ!」
「うう……」
とある広場では、4時間かけて穴を掘り、それを4時間かけて埋める作業を強いられている囚人達がいた。意味を見出せない作業を繰り返し、反抗する意思はもう粉々に砕け散っている。
土を柔らかくすることでゴーレム作成を容易にする意味があるのだが、それはあえて囚人に伝えられていない。伝えることで手を抜かれても困るし、作業者の心を折って反抗心を奪うことは監獄側としてもメリットになる。
「手ヲ休メルナ! 何モ考エズニ、彫レ!」
「考えることを奪い、ただ労働を強いるとは! そのような人を人と思わぬ行為、断じて許さん!」
そんな鋼鉄製のゴーレムたちにピーチタイフーンの怒声が投げかけられる。その声は……上からだ! 広場に建てられた柱の上にピーチタイフーンは立ち、ゴーレムを見下ろすように腕を組んでいた。
「何者ダ!」
「何者だと問われれば応えよう! 私の名前はピーチタイフーン! この監獄長ヴェルニを倒し、そしてこの魔国を解放するものだ!」
「情報確認。P地区デ発生シタ、反乱者! 一級武装デ、確保スル!」
「殺害モ、仕方ナシ!」
アイアンゴーレムたちは内蔵してある兵器を解放し、ピーチタイフーンに向きなおる。複数の腕が生え、巨大な斧やクロスボウが展開される。魔道プログラムに従い、最適な位置に移動しての攻撃が開始される。
だが、その前にピーチタイフーンは跳躍する!
柱の上から前方に開店するようにゴーレムに向かい跳躍し、その体にピーチタイフーンのお尻を当てる。高さ! 回転! そして美尻! 三位一体の空中殺法。トペ・コンヒーロ!
しかし、その美しさと威力。それに敬意を表しピーチタイフーンが使うこの技はこう呼ばれる!
「うおおおおおおおおおおお!」
一撃で戦闘態勢のゴーレムを破壊し、そのままもう一体のゴーレムも返すヒップアタックで破壊する。一撃! ピーチタイフーンの尻が鋼鉄製の戦闘ゴーレムを一撃で打ち砕いていく!
「貴様が反逆者の指導者か」
快進撃を続けるピーチタイフーンの前に、一人の男が現れる。頭髪のない40を超えたあたりの人間種族。ひげを生やし、高位魔法使いの証であるミスリルで作られた杖を持っている。
その姿を見た瞬間に、ピーチタイフーンの脳裏に音楽が聞こえてくる。それはヴェルニのテーマソング! 選手入場の音楽だ!
『ドミネーション! ドミネーション!(馬鹿どもよ集まれ!)
ドミネーション! ドミネーション!(我が元に集まれ!)
ドミネーション! ドミネーション!(馬鹿どもよ集まれ!)
ドミネーション! ドミネーション!(俺の奴隷になれ!)』
「その通り! 私の名前はピーチタイフーン! 【
すでにこの監獄施設のいくつかは解放してある! 戦争奴隷を7棟! 刑罰施設! そして囚人に回させている謎の回転櫓もだ!」
「ほほう。あの回転櫓を止めたか。あれこの監獄におけるゴーレム量産の基礎となっていることに気づくとは。さすがはエルフ、慧眼だな」
実際は強制労働のようなのでとりあえずぶっ壊しただけだが、相手がこちらを称賛するターンなので何も言わずに頷くピーチタイフーン。
「監獄の施設を止めて、してやったりというつもりだろうが残念だな。魔力の貯蔵は十分だ。貴様を倒して騒動を止めて、貴様らを無理やり働かせて強力な魔力を生産するのみよ」
「やれるものならやってみろ! このピーチタイフーンは逃げも隠れもしない!」
「そんな口がいつまで叩けるかな? この広場は今囚人たちが掘り返し、適度な柔らかさの土が大量にある。ワシの能力が最大限に発揮できる場所だ」
「そうか。むしろ好都合!」
ヴェルニの言葉に笑みを浮かべるピーチタイフーン。
「弱った相手を打ち倒しても、つまらぬだけ。最大限の強さを持った相手と戦い、勝利する。そうでなければ意味はない!」
「言いおったな、エルフ。ならばとくと味わうがいい。我がゴーレム秘術を!」
ヴェルニの言葉と共に土が隆起し、大きさ4mほどの人間の姿を取る。圧縮された土塊のゴーレムは、頑丈な城壁すら壊すほどの重量を持っている。
「先ずは前哨戦か。すべて勝ち抜いて、貴様を倒す!」
その巨躯や質量に臆することなく、ピーチタイフーンはゴーレムに向かって走り出した。
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