その名はスマシャ! 互いに譲れない正義が今、ぶつかり合う!

 反社会的なロックテーマソングと共に現れた隻眼のオーク、スマシャ!


 その実力を示すかのように、ほかのオーク達は花道を作る。スマシャに任せれば問題ない。そんな信頼を行動で示していた。


「たいしたエルフだ。魔法を封じているのは間違いないのに、オラの部下たちをここまであっさり倒すとはな」

「貴様がこのオーク達の長か」

「長って程じゃねぇだよ。いろいろあって世話してるだけだ。そういう意味じゃ、トップだな」

「私は止まるつもりはない。ここを出て、悪を討つ!」

「そいつは無理なんだ。オラがここでお前を止めるからだ」


 互いの呼吸音さえ聞こえそうなほどに顔を近づけ、啖呵を切るピーチタイフーンとスマシャ。妥協点はない。ピーチタイフーンは己の正義のために。スマシャは部下のオークのために。


 ぶつかり合う闘気。その瞬間、ピーチタイフーンの脳裏に映像が流れ込んでくる。自分の経験ではない、何かの経験が。そう、これは――


(このスマシャの、物語エピソード……)


 そう。ピーチタイフーンの脳裏に浮かび上がってきたのは、スマシャと呼ばれるオークの過去。彼が何故ここに立つのか。それまでの物語。


 魔国<ガルドバ>。魔王を頂点とする様々な種族が住まう国だが、その実態は弱肉強食。強き種族が強い発言権と富を持ち、弱い種族は細々と過ごしていく。多民族ならざる多種族国家。


 そしてオークという種族はその中でも低い序列だった。人間よりも強いオークだが、魔国という中で見れば魔力も低く特殊な能力もなく、ただ力と繁殖力が強いだけの種族。そして戦の要である力さえも一番とは言えない程度。


 その結果、与えられた土地は日照りが続く荒野。水の確保すら困難な劣悪な土地。そこを開墾するだけの技術もなく、獲物さえも少ない土地。そうなれば、高い繁殖力はむしろマイナスに働く。多数のオークを養うだけの食料がないのだ。


 これを解決するオークの策は、口減らし。長男以外は他国に売り飛ばし、数を減らして生き延びるしかない。売られたオークは体のいい労働力や兵士として何とか生きていくしかない。


 スマシャもまた、そう言って売られたオークの一人だった。スマシャは闘技場に売られ、命を懸けた戦いを強いられていた。自分よりも大きな魔物に殺されそうになることなど、日常茶飯事だ。


 そんなスマシャが生き残ったのは、自らを縛る鎖を武器にして戦い始めてからだ。足かせの鎖で相手の足を引っかけて転ばしたり、手錠の鎖で首を締めて落としたり。そんな戦い方が客に受けたことから、彼の雇い主は鎖を武器にするように命令する。


 それはスマシャの持っていた才能か。はたまた数多の死闘を潜り抜けて獲得した経験か。スマシャの格闘センスは一流と言っても過言ではないレベルとなっていた。鎖とオークの肉体、そしてその格闘センスが重なり合う。


 勝利! 勝利! また勝利! 破竹の勢いで勝ち抜いたスマシャは闘技場の中でも頭角を示す。その噂を聞いた魔国の軍隊が彼をスカウトするに至った。スマシャは魔軍スカウトの条件として、こう提言した。


「この国にいるオークの兵士達を束ねさせてほしいだ! オラがオーク全てを率いるだ!」


 魔国軍隊にオークの部隊を作りたい。それを束ねる長になりたい。スマシャはそう言った。役立たずの種族と言われたオーク。その価値を軍の兵士として示す。魔国の現状を知る者からすれば、一笑に付す提案だ。


「好きにしろ。だが結果を出さねば皆殺しだ」


 だがその提案は魔国の王ガルドバの一言で実現した。そしてスマシャは力と数で圧倒するオーク部隊を結成する。戦闘力で彼らを『説得』し、兵士としても軍隊としても結果を出したのだ!


 そう。彼は勝ち続けることでオークを守るオーク達の守護者! このオーク兵団最強の兵士にして、最上位の存在!


「オラは負けるわけにはいかないだ。オークの種族にかけて! この力ですべてをねじ伏せ、オークの意地を見せるだ!」


 力こそ正義。力こそ法律。


 スマシャにとって正義とはオークを守り通すこと!

 スマシャにとって法律とはオークを統括すること!


 冷遇されていた種族を守るため、スマシャは自らの強さをもって立ち上がった。ほかの種族の横槍を持ち前の力と戦闘経験でねじ伏せ、魔軍の一角を担うまでのし上がった!


 スマシャは勝ち続けることで、オーク達を守る。それがこの国でオークが認められる唯一の手段。負ければ堕ちるのみ。元の虐げられる生活に、あるいは魔王の言葉通りに皆殺しにされ、死体すら利用する魔軍の最底辺に。


 人格や尊厳すらなく、歴史や時代から種族そのものを抹消されるやもしれない。それだけの力が、魔王ガルドバにはあるのだ。ガルドバに逆らい消えていった国や種族は数知れない。


 オークも敗北すれば、その一つになるかもしれないのだ!


「貴様が背負うものは理解した」


 ピーチタイフーンは頷き、構えを取る。同胞を守りたい。彼女がそれを察することができたのは、彼女がプロレスラーだからだ。試合前にアナウンサーが語るように、魂でスマシャの過去を理解したのだ!


「だが、その上で貴様を倒す! 私の中に流れるピーチタイフーンの鼓動が、正義を為せと告げるのだ!」

「正義? お前の正義は何だ? エルフの同胞を守ることだか? それとも滅ぼされた村の復讐か」

「無論、この魔国<ガルドバ>を滅ぼすこと! 故郷に力をもって攻め入ったのなら、力をもって報復すべし! それがレスラーの正義だ!」


 力には力を返す! 挑戦されたのなら徹底的に戦う!


 それがレスラー。それがピーチタイフーン!


 国が国を攻め入り滅ぼす。それは歴史の流れだ。それを悪と断ずるつもりはない。滅びは守りを怠った故郷の責任。敗北は素直に認めるしかない。それがエルフの、ルミルナの故郷の運命なのだ。


 だが、それはそれ!


 レスラーが挑戦を受け、それに応じないなど許されない! 魔国が攻めたのなら、戦う。ただそれだけが、ピーチタイフーンの……レスラーの正義なのだ!


「喧嘩売られたから買う? とてもエルフとは思えないだな……」

「なんつーバーサーカーソウル……!」

「蛮族もびっくりだ……」


 オークの反応は様々だが、おおむね『なんだよその理由は』で統一されていた。


「臆したか」


 その空気の中、ピーチタイフーンは誇らしげに問いかける。否、それは問いではない。スマシャの瞳と笑みは、すでに答えを返している。


「まさか。むしろ気持ちいい理由だ。れすらーってのはわかんねぇけど、闘技場時代を思い出すだよ」


 互いの戦う理由がぶつかり合い、そして互いの戦意がぶつかり合う。互いが互いを好感に思う。エルフとオーク。異なる種族なれど、思いは一つ。


「「お前をぶっ潰す!!」」


 赤コーナー! オークの鎖使い、スマシャ!


 青コーナー! エルフのレスラー、ピーチタイフーン!


 二人は叫び声と共にぶつかり合った! 


 

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