第27話

 ただの民家の一室に見えるが、窓が一切ない。地下だろうか。


 拉致されたと判断した僕はベッドから起き上がり、動き出そうとするが両手と両足を鎖で縛られていた。


「くそっ!」


 鎖が留められている箇所が木材だったためどうにかならないかと全力で引っ張ってみたが無駄だった。


「あらあら、目が覚めたのね」


 そんなことをしていると、扉から女性が3人入ってきた。


「何をする気ですか?」


 武器や道具を一切持たない女性たちは、妖艶な笑みを浮かべる。


「何って……勿論そういうことよ」


 女性たちは来ていた服をスルスルと脱ぎ始める。


 下着姿になった女性たちは僕の捉えられているベッドに座った。


「別に無理矢理何かしようというわけではないのよ。強引にというのは禁じられているから」


「ただ、応じるまでここから出す気はないのだけれど」


 合意が無ければ何もしないと言っているけれど、合意しなければ外に出さないというのは最早強制なのではないか。


「他はどこに?」


「詳しいことは知らないけれど、一人別の子達が攫って行ったわ」


「好みの男の子だって喜んでいたわ」


「あの子は途中で起きたらしいけれど、弱かったから簡単だったって言っていたわね」


 弱いってことはジョニー君か。残るはレヴィさんだけど、話しぶり的に3人は知らないらしい。


「そうですか」


「それよりも、どうかしら?」


「美女3人に言い寄られて悪い気はしないでしょ?」


「別に何か失うわけじゃないんだから、ほら」


 そんなことはどうでも良いと3人が僕にさらに近づいてきた。肌と肌がくっついており、相手の吐息が体にかかる。


 抵抗しようにも、鎖が付いた状態で3人が相手だからどうしようもない。


 それに気が変わってこちらに害してくる可能性も完全に否定することは出来ない。


 僕は誘惑に耐えつつ、助けを待つ以外の選択肢が無かった。



「僕としたことが!」


 焦った表情で街を駆け回るレヴィ。冷静沈着に仕事をこなす彼の姿はここには無かった。


「どこにいるんだ……?」


 ペトロとジョニーが攫われている間、初めて訪れる街だったため大天使による影響は無いかと調べていた。


 大学もある二人に長居をさせるわけにはいかないという純粋な親切心から生まれた隙だった。


 知らない場所で一人部屋を強要された時点で気付いておくべきだったと後悔した彼だが、既に遅かった。


 宿の人間を叩き起こし何か知らないかと問い詰めてみたが、本人は自宅で寝ていたらしく大した成果を得ることは叶わない。


 一切の当てもなく街を探し続けたが、3000人の人口を誇るこの街では成果が上がるわけが無い。いくら他人の家に潜入する能力に長けたレヴィといえど無理があった。


 3時間程探し回った結果、日が昇ってきた。


 街の人達が次々に起床し、家の中に潜入することが出来なくなった。


「どうすれば良いんだ……」


 けれどやれることをやるしかないと聞き込みを始める。


「知らないわね」


「見たこと無いわ」


「初耳ね」


 しかし攫われた二人の居場所が聞き込みで出てくるわけもない。


「ただ、街の住民は何かを知っている気がする」


 聞き込みをした住民は本当に何も知らない様子だった。


 しかし、男が攫われること自体は知っているように感じられた。


「いったい何の為に……?」


 その理由が居場所を特定するカギになるのではないか。


 一旦部屋に戻ったレヴィは、昨日二人が攫われた部屋に潜入した。


「どちらとも窓から潜入したみたいだね」


 二人の部屋は鍵がしっかりとかかっており、外から開けるには破壊する以外の手段は無かった。


 そして窓が丁寧に外されていた。


「手荷物は何も盗まれていない。完全に二人を攫うためだけに侵入したみたいだ」


 売り払う目的であれば金目になるものを取っているはず。特にジョニーの手荷物は高価な物が揃っており、売れば金になる事は明白だった。


「これは……」


 見つけたのは数本の髪。金色や青等バリエーション豊かで、明らかに二人以外の髪が混じっている。


「女性数人に攫われたのか?」


「街の様子も考えると、そういうことか」


 レヴィは一つの結論に辿り着いた。


 そしてペトロの視点に戻る。


 突然爆発音と共に扉が吹っ飛ばされた。


「一体何?」


「助けに来たよ」


「レヴィさん……!」


 爆発音の正体はレヴィさんだった。珍しく息を上げている様子から、全力で探し出してくれたのだと察する。


 僕を攫った女性たちは、レヴィさんの手によって叩きのめされていた。


「とりあえず脱出しよう」


「はい」


 レヴィさんによって鎖は切断され、自由の身となった僕は脱出した。


 その後レヴィさんと共にジョニー君の元へ行き、僕同様に開放した。


「ありがとうございます」


「いや、完全にこちらのミスだよ。注意が足りなかった」


「どうやって居場所が特定できたんですか?」


「いや、ははは。何だろうね」


 何故かレヴィさんは申し訳なさそうに頭を掻く。露骨に何かを隠している。


「それは後で問い詰めることにしよう。それより先にやる事があるんだろ?」


「うん。堕天使を元に戻さなきゃ」


「いたぞ!あいつらだ!」


 これからの方針を確認していると、大量に街の方々が押し寄せてきた。どうやら僕たちを狙っているらしい。


「かかれ!」


 住人は僕たちを見つけるなり、有無を言わさずに襲い掛かってくる。中には鉄パイプなどの武器を持っている人もおり、穏便な話し合いを望めるはずも無かった。


「とりあえず逃げるよ!」


「はい!」



 相手が集団で行動していたことが幸いし、ジョニー君の足に合わせても余裕で逃げることができた。


 一旦人の来なさそうな路地に身を隠し、これからの作戦について考えることに。


「あいつらはどこだ?」


「早く探せ!」


「まだ見つかっていないけど時間の問題だろうね」


 街の住人は僕たちの近くを探し回っており、未だに諦める様子は無かった。


「ですね……」


「とりあえず何故こうなったかを考える必要があるね。何か悪いことでもした?」


 レヴィさんに言われ、この街に来てからの思い当たる節を考えてみる。


「いや何も無いですね……」


 天に誓って悪いことをした記憶がない。


「全くだ……」


 ジョニー君もそれに同意していた。


「僕も無いんだよね。家に不法侵入はしたけど見つからないように注意はしてたし」


 レヴィさんがまさかの犯罪歴を告白した。ならそれじゃない?


「レヴィはどうせ俺たちの国でも似たようなことをやっているはずだ。見つかるんなら既に指名手配でもされているだろ」


 と思っていたけれど確かにそうだ。ただの一般市民が気付く位バレバレの不法侵入なら既に見つかっているよね。


「そういうこと。だから犯罪で追われているわけじゃない。となるとやっぱりアレかな」


「僕たちが攫われた場所から脱出したことですね」


 誘拐犯は何かしらの形で街に繋がっており、獲物が逃げられたことに怒り、捜索を始めたという可能性だ。


「自分の物にならないなら殺すか。なんとも物騒な街だな」


「ただ、それはおかしいんだよね。あの子達は倒した後に元に戻したわけだし」


「確かに」


 言われてみれば、ルーシーさんと違って相手を叩きのめすことが出来れば元に戻すことが出来るのか。


「恐らく大天使がこの街に潜んでいて堕天使の消失を確認したことに気付き、犯人は他所からやってきた僕たちだと断定して消しに来ているってことだと思う」


「ってことは大天使がどこかに?」


「そういうことになるね」


「どうなるかは分からねえが俺たち3人でどうにかするしかないか」


「そうだね」


 僕たちはたった3人でを相手に戦うことになった。


「後は頼む!」


「分かった」


 一旦追手を減らす為に、僕たちを追いかけている方々を少しずつ倒していった。


 基本的にレヴィさんが殆ど倒しているけれど、僕たちも二対一に持ち込むことで安全に倒していく。


 レヴィさんが言うには自分自身で倒さなければいけないというルールは無いらしく、単に自分で倒すのが一番早いからそうしているだけとのこと。


「これで結構な数を削れましたね」


「うん。これなら割と安全に街を捜索できそうだよ」


 最初に僕たちを発見し、襲ってきた方々の8割程度を倒していた。


 これで捜索に移行できると思ったが、


「いたぞ!」


 最初に出会ったものと同じくらいの集団が僕たちを見つけ、襲い掛かってくる。


「やり直しかよ……」


 まさかさらに補充されると思っていなかった僕たちは、再び避難することにした。

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