第28話
「この調子だったら街全員倒さなきゃ進めないまでありますよね」
「最悪そうなるかもしれないね」
「まともに相手していたら日が暮れるな」
あの集団が最後という保証もない以上、元凶を倒す以外道は無さそうに見える。
「そうだね」
「あの、良いですか?」
そんなことを話していると、背後から声がかかった。
「リアさん……!」
昨日共に食事をした少女だった。見知った顔ではあるが、街の住人であること、僕たちの居場所を突き止めてやってきたことに警戒心を強める。
「大丈夫だよ。私はあの人たちの味方じゃないから」
しかし、リアさんは僕たちを見つけても騒ぐ様子は無く、寧ろ小声で見つからないように配慮してくれていた。
「じゃあどうしてここに来たんだ?」
「お願いがあって。この街を元に戻してほしいの」
「元よりそのつもりだ」
「良かった…… ありがとう!」
リアさんは満面の笑みで喜んでいた。
「とはいっても何をしたらいいのか分からないんだよね。教えてくれるかな?」
「はい、レヴィさん。この街がおかしくなったのは7年くらい前、アズライールという貴族がやってきてからです。元々は私たちだけでこの街を回していたのですが、人口が一定数を超えたことで統治者を置くことになり、国から派遣されてきました」
「国が直々に派遣したということもあってかなり優秀で、この街はかなり発展しました。たった数年で人口が1000人から3000人になったくらいですし」
それだけ聞くとただの優秀な貴族にしか思えないけれど。
「ただ、街の人たちが少しずつおかしくなっていったんです。最初はアズライールさんに恋する人が続出するところから。この時は変だとは思えませんでした。アズライールさんは誰が見ても美しい方でしたし、先程も話した通り優秀な方でしたから」
「気付いたのはその次の段階で、この街の性犯罪が一気に増えたんです」
「性犯罪が?」
「はい。最初は男性の犯行ばかりでしたが、次第に女性の割合も増えてきて最終的には半々くらいになっていました」
力が強い男性が女性に対して、というパターンが多い性犯罪だが、女性の割合が高いのは確かにおかしな点だ。
「酷い時期だと路地裏を見ればかなりの確率で性犯罪の場面が見られるくらいでした」
「それなら結構な人が逮捕されたんじゃないの?」
「はい。確かにかなりの人が逮捕されていました。しかし、アズライールさんの手によってすぐに釈放されていました」
「最初は抗議する人も居たのですが、放っておけばに無くなると。そして実際に性犯罪は一気に終息を見せました。一見は」
「もしかして」
「はい。お察しの通りだと思います。街の中に向いていた手はこの街を訪れた人達に及びました」
それで今のような状態に⋯⋯
リアさんは人間だったから運良く堕天使化を逃れ、こうして助けを求めに来てくれたのか。
「大体の事情は把握したよ。まずはアズライールを倒さないといけないみたいだね。案内してもらえるかな?」
「はい!」
リアさんの案内の元、アズライールの所へ向かうことに。
「こっちです」
長年この街に住んでいるであろうリアさんは、街の方々に見つからないように路地裏を選んで目的地に向かう。
「あいつら一切路地裏を探そうとしないんだな」
ジョニー君の言う通り、僕たちを探すために街の住人が路地裏を探す事は無かった。
「この街に初めてきた方が路地裏という町特有の場所を逃げ道に使うわけ無いですからね。もしそこに隠れ続けていたとしてもいずれ外に出る必要がありますし」
「それもそうか」
納得の理由だった。街の外から訪れた人間の勝利条件は基本的に街の脱出だ。そう考えるとわざわざそこまで入念に探す必要は無いのか。
「それに、路地裏は性犯罪の温床というイメージが根強いですから避けたいんですよ」
いくら犯罪はもう起きないと言われていても過去数多くの犯罪が行われていた場所に行きたいとは思わないか。
今回はそれに救われた形か。
「そろそろ着きますよ。あれです」
リアさんが指差したのは少し高台に立てられているレンガで作られたであろう邸宅。
「これか。確かに巨大な建物ではあるが貴族らしくはねえな」
「そうだね」
ジョニー君の言う通り目の前にある屋敷は一般的な貴族のものとはかけ離れていた。
巨大な噴水や豪華な花壇などは存在せず、ただ広い庭に建物が一つ立っているだけだった。
貴族の豪邸というよりは普通の家を拡大したというイメージの方が正しい。
「誰か貴族を外から連れてくることが無いのなら別に普通で良いとのことです」
「そういうことね」
誰かを誘う予定が無いのであれば、美しい庭を造る必要は無いか。理由の9割は権力の誇示だし。
「ひとまず中に入ろうぜ」
「そうだね」
ジョニー君の提案にレヴィさんは頷き、アズライール邸の扉を開いた。
「流石にあのでかさだと家の中も庶民的とはいかねえってわけか」
庶民的な室内をイメージしていたけれど、玄関はかなり豪華なもので、普通の貴族と遜色ないものだった。
「アズライールさんは住人に大人気だったから。貢物として高級な家具が頻繁に届けられていたの」
美形だって言っていたならそういうことがあっても変では無いか。ノウドルでも人気な女優や俳優には高級品が送られることがあるって聞くし。
「んで、どこに行けばいいんだ?」
「2階です」
リアさんは、目の前にある階段を指し示す。
「じゃあ行こうぜ」
言われた通りに2階に上がると、大量の住人が待ち構えていた。
「待ち伏せされていたか!」
逃げようと階段下を見たが、そちらにも大量の住人が。完全に退路を塞がれる形となってしまった。
「すみません!まさかここを守らせているとは……」
心から申し訳なさそうに謝るリアさん。
「大丈夫だよ。どの道戦わないといけなかったんだし」
それにここにボスが居るのなら避けては通れなかった。
「階段上をレヴィさんはお願いします!」
「了解だよ」
「リアさんはここで待っていて。僕たちがどうにかするから」
「はい」
「じゃあ僕たちは下をやろう」
「そうだな」
とはいっても30人を超える堕天使を相手に勝てるほど強いわけではない。
やることは後ろで戦っているレヴィさんが上を全て倒すまでの時間稼ぎ。
「来るな!落ちろ!」
「離してください!」
集団の内部に引きずり込もうとする堕天使たちを全力で引き剝がし、蹴落とす。やることはそれだけだ。
普通なら一人でも階段から落下したら全員落ちてくれるのだけれど、目の前に居る堕天使は僕たちが蹴落としてくることを知っている。
そのため、一人が蹴落とされても後ろの堕天使が支えることで体制を強引に戻してくるのだ。
だからこちらから決定打を与えることは叶わず、ただ掴まれて引き剝がしての繰り返しとなる。
ただ、
「流石に疲れてきた……」
こちらは二人がずっと相手するのに対して、相手は50人以上。しかもまだこれで全員では無いらしい。
道幅は二人でガードできるくらいには狭く、階段の上という圧倒的な地の利はある。
相手は完全な素人ということもあり、戦闘で負けることは恐らくないだろう。
しかし、代えが効かない僕たちは体力という面で圧倒的に不利だったのだ。
「ジョニー君、頑張って!あと少しだから!」
二人で必死に励ましあい、ひたすらに抵抗を続けた。
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