第10話
帰宅中、
「何故最後にあの話を付け加えたんですか?」
「金に困っている奴がいるって聞いたろ?その中には広告効果があってもそのメリットを理解しない奴は多いからな。明確に展覧会から直の仕事を受けられると明言して置いたら理解しやすくなるんじゃないかと思ってな。色んな奴らに見てもらうことで名声を上げることが目的とはいえ、金持ちも結局は見に来るだろうしな」
確かに。いくら有名になって人々からの名声を得ても、仕事相手は金持ちだ。だからこそそのメリットは提示しておいた方が良い。
「ま、奴らが受け入れるかどうかは分かんねえけどな」
結局は相手の機嫌次第。待つ以外に術はないのだ。
返事が返ってきたのは3日後だった。
「この間の話じゃが、それならやってみても良いという声が一部上がっていた」
結果はオッケーだった。
「後はそれを事業としてやってくれる人間がいるかって話だな」
ルーシーさんがそう言った。
「そうですね。とりあえず頼んでみます」
僕はその案を出した張本人、ジョニー君に聞いてみることにした。
「確かに俺はこの間そういう話をしたけれど、まさか本当に持ってくるとは思わなかった。知り合いでもいるのか?」
「ちょっとね。もしよかったらジョニー君の所の商会でやってみてくれないかな?」
「ちょっと待ってくれ」
ジョニー君は、ペンを手に取り、授業に使うノートに何やら計算をしていた。数式を見るに、予算と利益率、見込まれる集客数について考えているのだろう。
そして数分間経ち、持っているペンを机に置いた。
「オッケーだ。契約の中身についてその芸術家と話をさせてくれ」
そう言われた通りに、ジョニー君を連れて行った。
「本当にお主が取引相手なのか?」
マルティンさんは、連れてきた相手が僕と同じ若者だったことに心配していた。
「そうだよ。一応親から在学中に何かしらの商売に挑戦するようにって資金をある程度貰っているから問題ない」
「それに、ジョニー君は大学の中でもかなり優秀な生徒ですから安心してください」
何度も助けてもらっている僕が優秀ではないにしても、ジョニー君は明らかに優秀だった。
「まあ、こちらとしては取引して一定期間展覧会が開催出来るのであればあまり問題は無いだろうし、お主の事はある程度信頼しているからの。まあそこにいる男は分からんが」
案外僕の事を信頼していてくれているようだった。
「何で俺が信頼できないんだ。こうも誠実で出来る男を」
と、昼間から酒飲んで推理小説を呼んでいる男が憤慨している。
「お主に関しては何しているのかすら分からんからの。どうやったら信頼できると思えるのだ」
確かに。僕もあの時助けてもらえなかったとしたらこの人を信用できるわけがない。
「とりあえず次の話をしましょうか」
ジョニー君は話を続けようと次の話題を出す。後ろでルーシーさんが何か言っているが、他の3人は華麗にスルーしていた。
「絵についてだけれど、正直な所1枚1枚が馬鹿みたいに高すぎる。大量展示する上で現実的な額がこれなんだが、流石に安すぎるだろ?」
想定される額をジョニー君は示した。
「確かに。一枚にかかる時間や絵の具の費用のことを考えると、そこらへんで軽く手伝いをして駄賃でも貰った方がマシじゃな」
指定された額は結構な額に見えるが、それでも少なすぎるらしい。
あの絵が相当な時間をかけて作られていたのだと思い知った。
「ってことで提案なんだが、一枚一枚の絵のサイズを小さくしねえか?大体この位を想定しているのだが」
そう言いながらジョニー君は紙を取り出した。それは、ノートより少し大きい程度の者だった。普通絵というのは貴族の大きな家に展示するということもあり、小さくても1m位はある。
「確かに、このサイズならこの額でも足りるかもしれぬな。寧ろこれならかかる時間とかの分普通の仕事よりも利益率は高いかもしれぬ」
「それなら良かった。こちらとしても、通常サイズの絵だった場合建物を作るための代金が馬鹿にならなかったからな」
確かに、あのサイズの絵を複数展示するのは大変だよな。一般的な商会の店の場合、ちゃんとスペースを開けることを考慮した場合10枚くらいが限度だしな。
恐らく30枚以上の絵を展示することになるのだ。それだけの額を子供に任せるとはいくら儲かっていたとしても到底思えない。
「これで絵に関係する者の場合は解決しそうじゃな。貴族の間で人気になってくれば1枚当たりの単価も余計に取れるしの」
そう。解決したのはあくまで絵関係の芸術家。最初の段階であれば完全解決で大団円だったのだが、今はそれ以外の文化的活動を行う者達が集まっているのだ。
「ここまでは絵のみの話だったが、これからはそれ以外も込みの話をするか」
ジョニー君はそれについても考えてくれていたようだ。
「これは絵の展示スペースを少なく出来たから出来る話なんだ。先程の話のお陰である程度省スペースで展示できるようになった。それにより平屋で運営できるようになった」
「そうじゃの。あのサイズだと50枚くらいあっても一フロアで事足りる」
「ただ、ここは国の中心、ノウドルだ。そんな場所で商会が平屋とかいうみみっちい商売したら勿体ないし、名が廃るってもんだ」
でも、子供がするにはそれで十分な気がするが。それに、50枚絵を集めるだけでも結構な商売じゃないか。
「なら、どうするのじゃ?」
「建物はを4階建てにして、絵の展示を行う1階以外のフロアにそういった職業の奴らを日替わり、週替わりとかでぶち込む。大規模商業施設ならぬ、大規模文化施設の爆誕ってわけだ」
それは、あまりにも壮大な計画だった。
「それだと、あまりにも金額がかかりすぎないか?」
その計画では、普通サイズの絵を50枚展示した方がマシな計画だった。金がかかりすぎるって何だったのか。
「ああそれか。金がかかりすぎるってのはこの計画を実行に移したかったからだ。流石に絵を通常サイズで展示しちまった場合、土地がそもそも存在しないんだ。その場合どこかの土地を住人や店から買い取らなきゃいけない羽目になる。それだと流石に無理だ。それに、絵を通常サイズにした場合、他もフルサイズでやらせないといけなくなる」
確かに、誰かが使っている土地を買い取る場合は、相場の5倍はかかると言われているから真っ当な話だった。
「なるほど、よく分かった。私達としても断る理由の無い良い話じゃ」
「最後に、うちの計画に参加した奴の中で、希望者がいればだが、この先の全ての仕事にて契約の手伝いをウチの商会の構成員が手伝ってやる。利益の一部を取ることにはなるが、結果的に以前より大きな金をとれることを約束してやる」
「今回の話は、きちんと伝えておく。ここまで準備してくれて、非常にありがたかった」
「問題ないさ。こちらとしても美味しい話だったからな」
ジョニー君とマルティンさんは熱い握手を交わした。
「そこの二人、その代わりにデモを止めろという話だったな?」
突然僕達に話が飛んできた。
「ああ、そうだ。でなきゃいずれ警官が出てきて面倒なことになるだろうからな」
あのデモを強引に鎮圧した場合、誰かしら暴走者が出るのは間違いないだろうしな。
「分かっておる。ちゃんと責任を持って止めることを宣言する」
家を出た後、ルーシーさんは気分を納めるためにダンデさんの酒場に向かったので、ジョニー君と二人になった。
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