第3話「強姦事件」

「ねぇねぇ、セイちゃんは好きなタイプとか無いの~?」


小夏はグイグイと肘で突く。夏生も興味があるようだ。


「あんまり…いたらいいなぁってぐらいかな…」

「ちぇっ、つまんないの~」

「セイちゃん、色恋沙汰にあまり興味がない?」


夏生は小首を傾げた。全く無いわけでは無いが、そこまで強くは

望まない。自分がそこまで良い容姿を持っているとは思っていない。

ほとんどの男子とはそりが合うことは無かった。


「あのお巡りさんとはどういう関係なの?」

「昔住んでた家のご近所さん。うち、共働きだったから時々近所の人に

世話になることがあって」

「で、世話になってたのがあのお巡りさんか。あの人、小さいけど

細マッチョだよね」

「夏生ちゃん、筋肉フェチ?」

「だってだって!半袖の制服から腕が見えるじゃん!」


セイラの言葉を全力で否定するように叫ぶ。そこでセイラは朱雀のことに

ついて思いついたことを教えた。


「それは多分、朱雀さんが元々ボクサーだったからじゃないかな」

「えぇ!?そうなの!?初耳…」

「そりゃあそうでしょ…初めて言ったんだから」


夏生と小夏、そしてセイラ。双子に至っては小柄な、セイラに至ってはモデル体型の

女子高生。三名は華奢。格好の餌である。


「うわっ!?―」

「セイちゃん!!」


だが近づけない。セイラは無言で首を横に振る。近づいちゃ駄目だ、交番に行け。

小夏と夏生はすぐに交番に駆け込んだ。そこには丁度、葛城朱雀がいた。話の

通じる警官は彼女たちの話を真剣に聞き、吟味したうえで行動を起こす。

別の場所では両手首を柱に巻きつけられ身動きの取れないセイラを余所に男たちが

話している。


「あの双子を逃がしたのかよ。良い売りモンになるのによォ」


苛立ちを近くの壁にぶつけるガタイの良い男。彼はこの小悪党のリーダー。

強姦事件の指導者。


「すいやせん…あのちっこい双子共めェ…」


下っ端は歯を噛み締める。セイラは長い脚を組み胡坐をかく。


「まぁいいや。さてと、どうしてやろうかなァ?」

「―どうもこうも、ここで全員逮捕だよ」


下っ端共が動揺する。警察サツが来た、と。だが喧嘩自慢の

男はよくよく見ると警官が拳銃すら手に持っていないこと、そして

小柄なことを理解して嬉々として喧嘩を売る。無謀だ。


「お巡りさんよォ、鉄砲も持たずに来たのかぁ?」

「こんな場所で拳銃を撃つのも迷惑だろ。それに、ホントは

忘れちまったのさ。…で、良いのか?下っ端は血だるまだぜ?」


警察は顎で後ろを示す。振り返るとそこには特別体格が良いわけでも無いのに

一人の青年にボコボコにされている下っ端が転がっていた。


「…和樹君、一応警察官の前でそんな暴力はNGなのでは?」


鳥羽和樹は全く気にしていないらしい。朱雀は溜息交じりにその行為を

見なかったことにしておくと告げた。話に夢中になっている警官に向けて

男はパンチを放った。


「こう見えても俺はボクシングを習ってるんだぜ。一撃でノックアウトしてやる!」

「お、奇遇だな。俺もこう見えて元―」


打ち終わりに合わせた完璧なカウンター、追い打ちをかけるように左右から

フックを放つ。正確にウィークポイントを打ち抜く。巨体がバタリと倒れる。


「―プロボクサーだったんでね」


拘束も解けて自由になったセイラ。後から他の警官も駆け付けて男たちは

現行犯逮捕された。和樹が来たのは本当に偶々らしい。


「お巡りさん、格闘家だったんだ」

「そうだけど、何か?」

「いいや?良かったらうちに遊びに来てよ」


和樹がそう誘うと朱雀は少し困ったような顔をする。


「武闘派しかいねえだろ。考えなら分かってんぞ。絶対に付き合わねえ」


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普通の日常は何処に 花道優曇華 @snow1comer

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