第23話 禁忌の召喚

 ロウスァが私に駆け寄る。

 すかさずアレクシスが聖剣を突き出し、ロウスァの胸に突き刺さった。

 何で?! どうして避けなかったの?

 ロウスァの傷口から青い血が流れ出る。

 アレクシスも想定外だったのだろう。

 聖剣を手放して後ずさった。

 晦冥かいめいも放とうとしていた魔法を止めてよろけている。

 そして、その僅かな隙を狙ってロウスァの放った弾丸が私の胸に打ち込まれた。

 死んだ……いや、生きている。

 そうだよね、死んだのは私じゃない……私の両親なのだから……


 全て思い出した。

 私は両親を事故で亡くしたのだ。

 悲しみに明け暮れた。

 この悲しみを表す言葉なんて無かった、この淀んだ暗い気持ちを。

 だから辞書で調べた。

 闇、漆黒、暗黒、そして晦冥かいめい……

 私が見つけた、闇と力の象徴である魔王。


 希望が欲しかった。

 大好きな課長……シュガーリィポエム先生の作品を読み漁った。

 作品に出てきた勇者アレクシス。

 私の傍にもアレクシスの様な素敵な勇者様がいたら良かったのにと願った。

 私が見つけた、光と希望の象徴である勇者。


 そして、大好きな星座占いのラッキーアイテムに願いを込めた。


『私を一人にしないで!』


 そうだよ、二人は私が召喚したの……小説や辞書の言葉から。

 そして、真実を知って理解した、何でこんな簡単な事に気付かなかったのだろうと。

 小説や辞書から召喚出来るなら、私の両親だって……

 存在しない二人と違って、元々存在していたのだから!

 ぐっ!

 急に体の力が抜けて倒れそうになる。

 アレクシスと晦冥かいめいが支えてくれたお陰で倒れずに済んだけど。

 だけど、なんだか二人が弱々しく感じる。

 消えかかっている?!


「何をしたのロウスァ?」

「禁忌を犯す前に召喚の力を封じた」

「禁忌?」

「そうだ、死者の召喚……いや、死者蘇生は世界の在り方を歪める最大の禁忌だ」


 そうか、だからロウスァは私を狙っていたのね。

 こうなる事が分かっていて……


「何だ莉子さんに危害を加えないなら初めから言ってくれれば良かったのに」

「我も敵対しているのだと思ったぞ」


 突然、アレクシスと晦冥かいめいが笑い出す。


「何を言っている? 敵対しているだろう! 召喚の力を奪えば貴様ら二人は消滅するのだぞ! そこの召喚士だって孤独になるのだぞ! 世界の為に犠牲になれなど言えるか! 私は敵なんだ! 死ねと言われて受け入れられるのか!?」

「僕は勇者だ。自身の犠牲を問わないね。話してくれれば受け入れたよ」


 アレクシスがウインクをする。


「我は魔王だ。人の敵として消えるが定め。最後くらい自分で決められるさ」


 晦冥かいめいが不敵に笑う。


「それで良いのか……私は……」


 目的を果たしたのに、うなだれるロウスァ。

 そんな彼に今の気持ちを伝える。


「まだ気持ちの整理がつかないけど言っておくね、ありがとうロウスァ」

「私に礼を受け取る資格はない……モッチャリ1番と言いながら何も出来なかった……」


 直後、空が震え、大量のゆがみが発生したーー

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