第19話 私が全て正しいのだ!

 今年も元気に出勤よ!

 佐藤さんと鈴木さんに挨拶して最寄り駅に向かうと……

 あれっ、モッチャリロウスァがいる。

 1か月ぶりかな。

 一応知り合いだから挨拶しよう。


「おはよう」

「おはよう、モッチャさん!」

「ごきげんよう」

「おはよう……召喚士の娘」


 モッチャリロウスァ元気がないわね。

 法改正のショックから立ち直っていないのかしら?

 で、晦冥は何で挨拶が『ごきげんよう』なの?


「ちょっと、晦冥かいめい。何でごきげんようって言ってるの?」

「上流階級の言語だからだ。魔王である我に相応しい」

「僕にも教えてよ! 恋人のエヴリンは姫だから、上流階級の言語をマスターしたい!」


 晦冥かいめいは何処から知識を得ているのよ。

 明らかに間違った方向に進化してるわよね。

 二人の知り合いと言えば、佐藤さんと鈴木さんだけど、あの二人が教えたとは思えないのよね。


「何を目指しているのだ、この二人は? 止めなくて良いのか?」


 モッチャリロウスァ……もっと気合を入れツッコんでよ!

 元気だと迷惑だけど、落ち込んでるのも調子が狂うわね。


「元気がないですね。お腹が空いているのですか?」

「アレクシスは天然か? まぁ、天然と言うのも上級言語でな、言葉通りの意味ではないのだよ」

「へぇ、人工物じゃない自然界の物ではないのですね」

「いかにも」


 何をしているのよアレクシスと晦冥かいめい

 心配する振りして、謎の言葉教室始まってるのだけど……

 それ、完全に間違っているから!

 このまま話を続けても時間の無駄だから早く駅に向かおう。

 新年早々に遅刻なんてしたくないもの。


「立ち話してないで早く行きましょ」


 駅に向かおうとする私をアレクシスが止める。


「放置したら可哀そうだよ。勇者として見捨てられない」

「駄目、絶対迷惑だから」

「莉子殿の言う通りだ。拾っても育てられないだろ? 食費はどうするのだ?」


 何でペットみたいな扱いになってるのよ!

 そもそも晦冥かいめい自身、食費出してないでしょ!


「元気出して下さい。生きていれば良い事ありますよ。」

「ないさ……私が愛した次元警察は法改正で終わったのだ」


 アレクシスが肩に手を乗せて励ますが、モッチャさんはうなだれたままだ。


「法律なんて関係ない! モッチャリロウスァさんは誰の為に、何の為に戦おうと願ったんですか? この世の理不尽を打ち破るのが勇者だ! それが法律であっても同じだよ」


 アレクシスが必死にモッチャさんに語り掛ける。

 彼が感情をむき出しにして励ますなんて驚きね。


「法律なんて関係ない。願った物……召喚によって発生した次元のゆがみを初めて正した最初の次元警察官みたいになりたい。そう、法律が決めたから正しいのではない。私が全て正しいのだ!」

「その調子ですよ。モッチャさん!」


 ん、モッチャさん。

 なんだか嫌な感じに元気になったような……これは駄目だわ!


「逃げるわよ晦冥かいめい

「承知した」

「止ーまーれー。召喚士の娘!」


 ガガガガッ!

 モッチャリロウスァがアサルトライフルを6挺取り出して乱射した。

 通常の2本の腕と、背中の4本の腕があるから出来る芸当だけど、もう遅い。

 とっくに逃げてるわよ……アレクシスを残して!

 後はモッチャリロウスァを元気にした責任取って一人で頑張ってね。

 いつも通り、恋人の名前を叫びながら吹き飛ぶのだろうけどーー

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