第18話 ツッコミどころ満載の初詣

 無事に正月を迎えられた私は勇者アレクシスと魔王晦冥かいめいの二人を連れて初詣に行く。

 厄払いよ、厄払い!

 昨年は謎の次元・警察・宇宙人なモッチャリロウスァさんの襲撃で大変だったからね。

 召喚士ってなんなのよ!

 勇者と魔王が勝手に召喚された現場にいただけでしょ!

 私は普通のOLなんですからっ!

 神社に向かう途中でモッチャリロウスァに出会わなくて良かったわ。

 最近出てこなくなったけど、佐藤さんと鈴木さんの謎の法改正が効いたのかな?


「あの人達は何で煙を浴びてるのですか?」


アレクシスが足を止めて質問をする。

それはねーー


「神に会うのだ。自らを捧げる為に燻製になろうとしているのだろう」

「そんな訳ないでしょ! あれは穢れを落としているのよ」


 慌てて晦冥かいめいの説明を訂正する。

 燻製……せめて異世界の常識でボケてよ。


「穢れですか。それなら私の光魔法を使いましょう。ここにいる全員を浄化するくらい出来ますよ」

「ひ、必要ないから!」


 慌ててアレクシスを止める。

 急に光り出さないでよ!

 他の参拝者さんに迷惑が掛かるでしょ。


「そうだ、邪念を食らって力を得るのは魔の本質。浄化するなど勿体ないではないか」

「そういう意味じゃないから! とにかく私の真似をして」


 どうして常香炉で際限なくボケようとするのよ。

 興味深々で中々足が進まない様だから、二人の腕を取って本殿に向かった。

 私の合図に合わせて3人で参拝をした。

 動きがぎこちないけど大丈夫だったわね。

 そして、帰り始めた所でアレクシスが足を止める。


「莉子さん、この文字が書かれた木片は何ですか?」

「これは絵馬よ」

「エマ? この木片は女性なのですか?」

「何をボケている? これは願い事を書く木版だ。契約の魔導書みたいな物だと思えばよい」


 晦冥かいめいが自信満々に説明する。

 契約の魔導書?!


「そうなのか、だから願い事が沢山書いてあるのですね。色々な想いが込められていて素敵ですね」

「ふっ、名前より願い事が短い奴がいるぞ。質素な願いだな」

「素朴な願いか……叶うと良いですね」


 二人が指さす絵馬を見て絶句する。


『法改正。モッチャリロウスァ』


 他にツッコむ所あるでしょ!

 モッチャリロウスァさん初詣に来てたのね。

 本当に短い願い事ね。

 いや、単純に名前が長いだけの様な気もするけど。

 短い分、必死さが伝わってくる……見なかった事にしよう!


 折角なので、3人で絵馬を書く事にした。

 でも、二人の願いは見ない事にした。

 アレクシスは元の世界に……恋人の所に戻りたいと書くだろう。

 晦冥かいめいも元の世界に……妻と娘の元に戻りたいと書くだろう。

 二人の願いは私との別れだよね。

 例え二人が私との別れを望んでいなくても、願いが叶えば結果的に別れる事になるのだから……

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