第17話 クリスマスイブに響き渡るアンコール
今日は楽しいクリスマスイブ……な訳ないわよね。
残念ながら今年のクリスマスイブは仕事なのよ。
時計を見ると16:30分だった。
いつものアレが始まる時間ね。
そう思ったと同時に、想像通りの元気な声が響き渡る。
「アンコール! アンコールッ!」
声の主は課長。
我らが総務課名物、残業の合図よ……
「えーっ、クリスマスイブなのに残業ですか?!」
「今日くらい早く帰りましょうよ!」
総務課の皆から不満の声が上がる。
クリスマスイブに残業したくないわよね。
「我が社のカレンダーにクリスマスイブはありませーん」
「課長に予定がないだけだと思いまーす!」
「そんな事はないわよ! 私だって早く帰ってクリスマスイブを満喫したいんだから」
「高橋さんとデートですかぁ?」
「違うわよ!」
開き直る課長と皆の掛け合いは、いつ聞いても楽しいわね。
私と課長が付き合ってる設定以外はね。
後輩の千春ちゃんが「尊い、尊い」と呟いているけど、どうしたら良いのかしら?
「仕方ないから頑張りますか」
「でも、アンコールは止めて欲しいですよね」
「なんでよ。アンコールの方が盛り上がるでしょ? でしょ?」
「アンコールだと残業代出なそうなイメージだしー」
「そうよねぇー」
「私のは残業代が出るアンコールなの! 大丈夫なアンコールだから安心して!」
必死に「アンコール」の弁明をする課長を見て、微笑ましいと思いながら仕事に戻る。
悪ふざけしているようだけど、仕事に集中すると決めた後の結束は固いのよね。
皆が残業に納得した後、課長が私と松村先輩の前に来た。
「高橋さんと松村さんは昨日残業してるし、お願いしていた仕事が終わっているから定時で大丈夫よ」
それは想定外だったわね。
定時を迎え、松村先輩と退社する。
さて、どうしよう。
帰り道はクリスマス一色。
毎年恒例のイルミネーションが色々な意味で眩しく感じる。
『あの二人に見せたら面白そうね』
そう思った直後ーー
「凄いっ! 光の精霊がこんなにも沢山舞っているなんて!」
「光の拘束魔法かっ! こんなちっぽけな光で我を拘束出来ると思ったか!」
突如、勇者アレクシスと魔王
何を言ってるのよ二人共、そして何でいるのよ!
「今日はクリスマスイブだから光る飾りを沢山つけてるのよ」
自分で言っておきながら、いまいちな説明だと思う。
「クリスマスイブとやらは分からないが、蛍光灯を沢山飾る祭りなのだな」
この世界の常識を知らない相手にクリスマスを説明するのって難しいわね。
「莉子さん、仲良く歩いてる男女二人組が多いけど何でですか?」
「本来は違うけど、この国では好きな人と過ごす祭りなのよ」
「姫花を連れてきたら喜んだだろうな」
「私もエヴリンと過ごしたかったですね」
晦冥は娘さんがいるし、アレクシスは恋人がいるのよね。
一緒にいるのが独り身の私ですみませんね!
「来年は好きな人と過ごせると良いですね」
「莉子殿なら我らより素敵な伴侶を捕まえられるだろうよ」
えっ、心を読まれたのかな。少し焦る。
「呼ばれたのが恋人がいる私達だった事には意味があると思いますよ」
「我らはいずれ元の世界に帰るのだ。一生莉子殿の傍にはいられない」
そうよね。
理由は分からないけど、二人は召喚されてきた存在なのよね。
永遠にこの世界で過ごす事はない。
二人がいなくなったら寂しくなるなぁ。
寂しく? なんでだろう? 言い知れぬ不安を感じた。
だけど、二人を見ていたら悩みが一気に吹き飛んだ。
売店のサンタさんは新手の魔王じゃありません!!!
私は暴走する二人を止める為に走ったーー
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