第15話 給湯室のラグナロク

 出社して直ぐ課長と目が合う。

 言葉を交わさなくても分かる。

 昨日は邪魔が入ったから、今日決着をつけるのね。

 私達の決戦の地……給湯室に無言で向かう。


「デュフフフ、昨日は邪魔が入ったけど、今日は決着をつけるわよ」


 早速、課長が最終形態を晒す。

 普段のクールな表情を崩して、不気味な笑いを給湯室に響かせる。

 予想通りだから準備していたで倒してみせる。

 目指せ1ターンキル!


「そんな不気味な笑いをして良いんですか? 甘ったるい詩を書いているシュガーリィポエム先生のイメージが崩壊してますよ!」

「そうね……『私の乙女心にキュンキュン来ましたって』感想くれるファンに失礼よね」

「えっ……」


 どこかで聞いた事がある言葉ね……まままままさか!!!


「高橋莉子……またの名を『らぶきゅん作品大好き』さーん! いつも感想ありがとうございまーす。毎話コメントしてくれるけど、どんだけ私の事が好きなのよ」


 がぁーっ、なんで特定されてるのよぉー!

 毎話100人くらいからコメント貰ってるでしょ。

 なんでその中で私が『らぶきゅん作品大好き』の名前でコメント送ったって分かったのよ!


「驚いて何も言えないようね。普段の文章や発言で判別出来たわよ。私を甘く見てたようね、デュフッ!」

「そ、そんなの知らない! 黙ったのは心当たりが無かったから!」

「嘘よ! 毎日毎日好きだって言ってくれたじゃないの!!」

「言ってない! 課長が一方的にネットで愛を囁いていただけでしょ!」

「でも莉子ちゃんには届いたんでしょう? だから好きだって言ってくれたのでしょ?」

「言いました! 言いましたけど、課長じゃなくて作品にですぅ!」

「ほらっ、好きなんでしょ! 同じだからっ! 作品は私と一心同体なんだからっ!」

「好きですよ! 好きだったらなんだっていうんですか!!」


 ガチャッ。

 突然、扉が開き男性社員が最終決戦の地給湯室に足を踏み入れた。

 ああっ、部長!!


「おーい、業務中だぞぉ。そういうのはプライベートでやっといてくれんかね?」


 そう言って部長は去っていった。

 慌てて課長と二人で戻ると……


「課長と高橋さん付き合ってたんですかぁ?」

「二人は毎日好きって言い合う仲だったのですね。気づきませんでしたよ」

「痴話げんかは帰宅後にして下さいよ」

「もしかして同棲してますぅ?」

「素敵だと思います。私応援してますからっ」


 何でこうなったのよーっ!

 思いっきり総務課の全員に誤解されてるじゃないのぉー!

 良く分からないけど……私達の最終戦争は共倒れエンドね。

 隣の運命共同体を見る。

 無様に口を開けて放心してる……申し訳御座いませんでしたっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る