第13話 勇者メシと魔王グルメ

 今日は課長の裏の姿とバトルして、いつも以上に疲れたわね。

 夕食作るの面倒だなと思いながら帰宅する。


「莉子さんおかえり、今日の夕食は何かな?」

「莉子殿、今日も我の為に料理を作るがいい」


 帰宅早々にアレクシスと晦冥かいめいの二人に夕食をせがまれて苛立つ。

 私は仕事して帰って来たばかりなのよ!


「仕事してないんだから、たまには二人で夕食作ってよ! 私は仕事で疲れてるんだから!」

「御免なさい莉子さん。気を使うべきでした。勇者として今夜の食事を作って見せます」

「我に料理を望むか……我が魔力に不可能はない。魔王の力を見せてやろう!」


 そう言って、二人は食材の買い出しに行った。

 二人共素直なのね。

 苛立たず、素直に手伝って欲しいって言えばよかったな。

 反省しながら、二人の夕食が完成するのを待つことにした。


 *


「な、何なの……コレ?」


 目の前に置かれたアレクシスの料理を見て絶句する。


「何なのって、莉子さんは驚いた振りが上手いなぁ。食事に決まってるでしょう」

「汚泥の中に魚が浮いてる様に見えるのだけど……なんて名前の料理なの? アレクシスの故郷の料理?」

「この世界で習った料理ですよ。『馬炒って鰯タル泥美味いって言わしたるでぃ』です」

「そんな料理存在しないわよ!」

「えっ、そうなんですか? 佐藤さんに疲れてるなら馬肉が良いと聞いたので炒ってみました。あと、鈴木さんからおすそ分けでイワシを頂いたのでタルタルソースに漬けたんですよ。更に、食欲がわくように女性が好きな泥パックみたいな外観にしたコダワリの一品。みんなの力を一つにした勇者の料理です!」


 みんなの力を一つにか……そういうのは魔王との最終決戦だけにしておいてよ!

 無駄に食材を集結させてどうするのよ?

 戦士と魔法使いは連携出来るけど、馬肉とイワシは連携しないわよ!!


「アレクシス……お腹空いてるみたいだから先に食べて」

「うん、お腹空いたからお先に、ボォゲッ」


 アレクシスが変な声を出したが、忘れて晦冥かいめいの料理に期待しよう。


晦冥かいめいは大丈夫よね」

「無論だ。我が雷の魔力で『いんたぁねっと』とやらに接続して調べた家庭料理……カレーライスだ!」


 流石、出来る大人ね。出てきたのは、どう見ても普通のカレー。

 やれば出来るじゃない! さっそく一口食べる。


「ぼぉえっ、何この味! これの何処がカレーなのよ」

「何故だ?! どう見ても正しい外観だろう?」


 正しい外観? その通りよ。

 でも見た目はカレーでも味が違う。


「何なのよこの甘いルーは? あとコレ、お米じゃないよね?」

「甘いカレーもあるだろう? それに米とはなんだ?」

「甘さの質が違うのよ! 一体何を入れたの? それにお米も知らずに、何でカレーを作ろうと思ったのよ!」

「これでは駄目だったのか」


 晦冥かいめいが手にしているのはカボチャ。

 色だけでカボチャを使ったのね……


「ハイハイ、手に持ってるのはカボチャね。色は似てるけどカレールーじゃないわよ。このお米もどきは団子ね。よく細かく粒上に出来たわね」

「凄いだろ?」

「凄い不味かったわよ! 全部自分で食べなさい」


 晦冥かいめいが一人でカレーの様な物を不味そうに食べ始めた。

 二人に料理を任せるのは難しいようね。

 結局、自分で作るしかないのね……

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