第9話 失望の翻訳魔法、絶望の思念魔法

「高橋さん、昨日提出してくれた資料を15時までに修正しておいて」


 課長に昨日提出した資料を手渡される。

 嫌な予感がする……


「修正内容は付箋を付けておいたから。頼んだよ」


 そう言って課長が去っていった後、手元に残った資料に貼られた付箋を見る。

 

『けーーはねーー&まぬ??%』


 はぁ、いつも通りね……心が折れそうになる。

 私は考古学者じゃないの! 象形文字なんて読めないわ!!

 付箋に描かれた、辛うじて文字と認識出来る何かを暫く眺めた。

 やっぱり分からない……

 迷惑をかけたくないけど、先輩の松村さんに翻訳してもらうしか方法がない。

 席を立ち、松村先輩に声をかける。


「あのぉ、松村先輩。その……」

「どうしたの莉子ちゃん? 相談?」


 私は周りの同僚に気付かれない様に、手にした資料を見せて付箋部分を指差す。


「あぁ、そういう事ね。日本人が書いた文字なのに、翻訳が必要なんて不思議よね」

「はい、いつも済みません」

「いいのよ。総務課でこれを読めるのは私だけだからね」

「ありがとう御座います」


 松村先輩に翻訳してもらい、無事に資料の修正を終える事が出来た。

 でも、いつも松村先輩に頼るのは申し訳ないなぁ。

 そういえばアレクシスと晦冥かいめいはどうして日本語が読めるのだろう。

 帰って聞いてみよう!

 会社の資料は持ち帰れないので、課長が書いた忘年会の案内状を実験用に持ち帰る。

 帰宅早速、アレクシスと晦冥に日本語が読める理由を問う。


「二人は何で日本語が読めるの?」

「魔法だよ!」

「魔法だ!」


 二人共、口をそろえて魔法という。

 そうだよね。

 二人共魔法が使えるから、知らない文字を読むなんて簡単な事なんだよね。


「ねぇ、その魔法は私にも使えるのかな?」

「大丈夫ですよ。莉子さんに翻訳魔法を付与しますね」


 そうアレクシスが言った直後、柔らかい光に包まれる。

 これが翻訳魔法なのね。

 読める、私にも松村先輩の様に読め……ない……

 何よコレ! 全く読めないじゃない!!


「ねぇ、アレクシス。全く読めないのだけど。失敗してない?」

「おかしいな。これは読めますか?」


 アレクシスが英文を見せる。あれっ、英文は読める。

 私は英語が読めないのに、自然に意味が理解出来る。

 なら、どうして課長文字は読めないの?!


「どうやら莉子さんが持ってきたのは、文字ではないようですね」


 そんな事はないでしょ! 松村先輩は読んでたもん!!

 ふっ。突如、晦冥かいめいが鼻で笑った。


「何が可笑しいのだ?」

「アレクシスが未熟だからだ」

「なんだと?!」 

「文字を翻訳するなど二流のやる事だ」

「それなら晦冥はどういう方法で文字を読むのさ」

「思念魔法だ。残留思念を読む事で、翻訳しなくても意味が分かるのだ!」

「凄いよ晦冥かいめい!」

「当然だ。いくぞ莉子殿!!」


 晦冥かいめいが放つ静かな闇に包まれる。

 これで、私も残留思念が読めるのね!!

 思念を読むために、忘年会の案内状を手に取る。


『今日も莉子ちゃん、かぁわぁいぃぃぃぃぃっ。デュフッ!』


 うっ、なにコレ……デュフッ?

 何か気持ち悪い声が聞こえたけど気のせいよね。

 もう一度、案内状を手に取る。


『忘年会の案内メンドクサイなー。それより、魔法少女ワンダルフル桜の次回更新どうしよう。そうだ、敵のコスカシバンが味方になる展開にしてみようかな』


 イヤァァァァァァッ!

 私が楽しみにしているWEB小説『魔法少女ワンダフル桜』、通称ワンサクの作者が課長だったなんて!!!

 しかも盛大にネタバレしてるじゃない。

 し、知りたくなかったよ……色々な意味で。

 これが魔法に頼った罰なのね。

 だから、どうか、誰でも良いので……この記憶を消してぇぇぇぇぇっ!!!

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