第5話

 寝て起きたら美少女に馬乗りにされていた…いや、ほんとなんでこんな状況になっているんだ…というか、今日はやけに女の人に絡まれるな…


「ねぇねぇ、なんで?」


 とりあえず、答えないとずっと聞いてきそう…


「…天気が良くて暖かかったからかな…?」


 回答が気に入ったのか少女はテンションが上がった。


「そうだよね!ここ、すっごく居心地が良いよね!僕もここお気に入りなんだ!近くから甘い匂いもするし、小腹が空いたら買い食い出来るからね!今日、来たら先客がいたもんだから観察しちゃってたよ!」


 なるほど…普段は少女がのんびりする所に俺がいたから気になったということか…ということは俺がここで寝ていたからこの状況になっているのか。


「そうだったのか。まず腰の上からどいてくれないか?幼い子とこんな状況だと周りに誤解を招きそうなんで…」


 俺が言った内容にピンとこなかったようだが、だんだんと納得といった顔になった。


「あー…確かにそうかも?でも大丈夫だよ。僕はオトナだからね!それに僕の姿も周りから見ると違う人に見えるようにしているから問題ないと思うな!」


「それは助かる…いやそういう問題じゃない!違う人に見えてもこの体勢はまずい!」


 俺が文句をいうとぶーぶー言いながらなんとか退いてくれた。


「ちぇ、残念。なんだか暖かくて気持ちよく寝れそうなのに…」


 それは乗られる直前まで陽だまりで暖まっていたからだと思うぞ。行動がなんだか猫っぽい気がするが…というか少女は魔族なのか?改めて少女を観察しても目立った特徴はないのだが…いや、プレイヤーが分かりやすすぎるだけか。俺の種族だと特徴は特にないしな。年齢と見た目が合わないのは長命の種族特有のものだし…獣人や人は見た目通りだろう。


「僕の名前はオジュハル、あんまり可愛い名前じゃないからオージュもしくはハルって呼んで欲しいな。」


 名前は普通自分では選べないからな。俺達プレイヤーは選べるが…卍とか☆とか他のゲームで入れている人はこのゲームではどう呼ばれるんだろうか?


「…俺はナオヤ。それでハル、お気に入りの場所が取られていたから文句を言いに来たのか?」


「違う違う、ナオヤって外の国の人だよね?他の人は街の外に探索しに向かっているのに寝ているから2重の意味でビックリしたんだ。」


 外の国…ああ、プレイヤーの呼び方か!ゲーム内からすると確かに外の国から来ているから俺達は外国人ってことになるな。


「もしやこの国に来たからには探索をきちんとしろっていうお咎めなのか?確かに主旨としてはそうなんだろうが…俺としてはのんびり寝られる環境を模索したいんだよな…」


 俺の答えがずれていたのか首を傾げた。


「え?探索は急いでないから気にしなくて平気だよ?そもそも安全圏を広げるにも他と連携しないと一時的なものにしかならないんだから腰を据えて構えないとね!外の国の人…ん-言いにくい!外国人でいっか!創造神様からは野蛮で男だったら女に見境がないとかえーゆー願望?とか冒険好きって聞いてたからさ、ナオヤの行動が気になったんだよね。」


 俺達の国ってそんなふうに思われているのか!?創造神ってお偉いさんだろうからなにか闇を抱えていそうなんだが…過去に嫌な事でもあったのかね。


「どうだろ?人それぞれじゃないか?同じ国にいたとしても考え方は人それぞれだからな。全体でみると傾向はあるだろうが個人を知っていくには当てにならんと思うぞ?」


 友人や恋人という仲になったとしても相手が何を考えているのか分からんからな…だからといって考えが分かる能力が欲しいわけじゃないが…ただ、仲良くなるのが怖くて壁を作ってしまうようになっただけ…


「なるほど!確かにそうかも?ということはナオヤって変わり者なんだね!」


「そういうハルも変わり者じゃないか?他の人達は俺達、外国人を遠巻きに見ているぐらいだったのに積極的に関わろうとするんだからな。」


「あはは!そうだね!僕としては気になったことは確かめたくなっちゃうんだよね。ねぇねぇ、外国の事とか知りたいな!ナオヤは向こうではどんなことしているの?」


 おぉ?違う国の事って気になるよな。俺もこの国の事とか聞いてみたいし…こういうのって情報収集っていうんだよな。


「俺もこの国…というか世界について知りたいからいいぞ。向こうでの俺か…学生だな。将来、どんな職に就きたいのかで学ぶ事が変わる学校ってとこかな。」


「へぇ!学び舎ってことかな?向こうでは誰でも通えるの?こっちだと貴族階級の人か、もしくは貴族と繋がりがある専門家になりたい人が学べるだけだよ。」


 貴族がいるってことは封建社会ってことか?王がいて貴族がいて平民がいて…


「授業料など払えば通えるな…能力に秀でていたら特待生という形で学校側が招待する制度もあるぞ。なるほど、貴族がいるのか…」


 貴族って漫画のイメージが付きまとってしまうから苦手意識があるな…


「あ、この国にはいないよ!人族のとこだけじゃないかなぁ…あとはブゾク社会…っていうんだっけ?この国だと王様がいて友達がいて付き従ってくれる人がいるって感じかな!」


 友達?まぁ身分関係なく付き合っているって考えていいのか?


「俺からもいくつか質問していいか?創造神って最初に言っていたけど、それ以外の存在もいるのか?あと、俺達外国人でも魔法って気軽に使えるようになるのか?」


 こういう神様とか宗教ってのはどの国でも重要なことだろうから知っておかないとな。魔法は使えたら便利かなってくらいだが…


「ん?神様について?えっとね創造神様がいて、その下に各種族担当の神様がいて天使達が仕事を手伝っているんだよ!」


 思っていたよりずっと縦社会だった…


「あとは魔法に関してだっけ?外国の人は成長が速かったり特殊な魔法を覚えるって聞いたことがあるかな?まぁ、覚えるには魔法を食らったりみっちり指導されないと感覚がつかめないみたいだけど…」


 魔法を食らう?体で覚えろってこと?やっぱりそう簡単には覚えられないものなのか。ただ、この世界の人達よりは覚える時間は短くて済みそうなのは嬉しい誤算だ。痛いのは物理的にも精神的にも食らいたくない…


「色々と教えてくれてありがとな。あ、そうだ。もう日が暮れてきそうだしお勧めの宿ってどこかあるか?予算はまだこの国に来たばかりで心元ないから厳しいかもしれんが…」


 俺が宿について聞くとなぜかハルは顔を赤らめ、もじもじとしていた。…なんでさ?


「や、宿だなんて気が早いよ…そりゃ、僕はオトナだけど、こんな堂々と聞いてくるなんて外国の人ってすごいんだね…」


「えっと…ハルの想像している宿じゃなく、探索者が泊まる宿な?俺達って肉体はこっちに残るみたいだから外で寝るわけにはいかないんで。」


 俺がそう説明するとハルはびくっとした後に早口で答え始めた。


「も、もちろんそっちの宿だって分かってたよ!?勘違いなんてしていないよ!でも、僕は家がこの場所にあるから宿を使わなくて分からないんだ…ただ、探索者用にギルド周辺に宿屋を建てたみたいなことは聞いたことあるよ。」


「それが聞けただけでも助かったよ。あまり遅くなると宿も埋まってしまうだろうしそろそろ向かう事にするよ。」


 俺がそう言って広場を後にしようとした時にハルが声をかけてきた。


「僕も楽しかったしありがとね!あ、そうだ!これをどうぞ!何かあったら手伝うからねー!」


 ハルから【フレンドカード】をもらった。これってギルドの冊子に書いてあった住人と一緒に探索や依頼を直接受けるときに必要になるやつじゃないっけ?気軽にポンって渡されたんだけど…


「あ、ありがとな?あまりフレカの仕組みが良く分かっていないからギルドで改めて教えてもらうことにするよ。」


「そのくらい僕が教えてあげるのに!まぁ…確かにもう日が暮れちゃって来てるからナオヤが宿を取れなくなったら困るし…またね!」


 俺はハルを背にしてギルドのある方角へ歩を進めた。





「ふふ、変わった人だったけど話してて楽しかったな。勢いでカードを渡しちゃったけど…ナオヤってホントに困ったときにしか使わなそう。ま、安易に頼られても外国の人は成長しにくいけど。」


 そう、アシカは住人と探索が出来るのだが成長補正がマイナスになるデメリットがある。基本的に住人のが戦闘力が高いのでバランスを取るため…しかし、プレイヤーのほうが戦闘力が高い場合は住人にとって成長補正がプラスになる。


「…オージュ様、お迎えに上がりました。」


 一人のメイドが影から現れハル…オージュに声を掛けた。


「もうそんな時間?ほんとあっという間だったね。」


 ハルは先ほどまでの時間を楽しそうに反芻していた。


「オージュ様、何やら楽しそうですね?」


「うん、とても面白い外国人にあったよ。他の人とは違う輝きを持っていたんだ。ふふ、これから先の成長が楽しみ!」


 ハルが楽しそうにしている様子をみてメイドは呟いた。


「オージュ様に気に入られるとは…幸運なのか不幸なのか判断できませんが、お気の毒に…」


「ぷーっなんでよ!僕は全然メイワクかけてないでしょー!」


「そう思うのは本人だけです…振り回される方の身になって下さい…ほら、そろそろ戻らないと皆さん心配しますよ?」


「僕は子供じゃないって!オトナだよ!まったく。」


 2人は足早に壁の交わる方向に進んでいった。

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