第4話

 俺も身構えてしまっているが、女性も声を掛けるのに緊張した様子であった。まぁログインしてきて何から始めたらいいか分からないってことなんだろうな…俺もチュートリアルに気づかなかったら途方に暮れていたと思う。

 女性って苦手なんだよな…高校時代に付き合っていた同級生が違う大学に行ってサークルの人に寝取られていたことを知ったら仕方ないと思うが…遠距離になると気付きにくいよな…わざわざやってる最中に通話かけさせてくるとかAVかよって思った。そこから女性らしい女の人が苦手になった。ま、苦手になったからって女を感じさせない年齢が恋愛対象になるわけではないがな。年齢が同じくらいでそういう見た目だったら分からんが…


 俺が挙動不審になって反応がなかったから女性はもう一度言い直した。


「私、初めてゲームを起動したんだけど何をすればいいのかしら?」


「えっと…画面端のほうにチュートリアルを開始しますかってでていないかな?あ、目線だけで大丈夫。それで開始するって思考すれば始まるよ。チュートリアルは別階層って感じで他に人がいないから混んでいる国だと便利そうって思ったかな。」


 最初、どもりながら答えてが相手はきちんと理解してくれたらしく色々と視線を動かして「おーっ」など関心をしていた。


「サンキュー!助かったわ。チュートリアルに行ってくるわ!」


「良いゲームライフを。」


 そして女性は目の前から消えていった。初対面の人にいきなり話しかけられるのは緊張するな…というか、すっごいネイティブな挨拶だったから海外の人かも?あまりじろじろ見るのは失礼かと思って注視していなかったが山羊っぽい角と尻尾があったような?肌も少し青白くてすごく悪魔らしい感じだった。


 出鼻を挫かれた形になったが、広場に向かうか。


 広場に着くとそこでは子供たちが走り回り、奥様方が井戸端会議をしていた。距離があるから会話は聞こえないけれど、仕草で不安そうな感じがしたからプレイヤーが来ることを心配している?すごく良く出来ているな…最近のゲームは好感度が設定されているって飯塚さんも言っていたから接し方に注意しないとだ。色々と重要な情報を教えてくれたりアイテムをくれたりするらしい。俺としても一緒にほのぼのと日向ぼっこできる相手が欲しいから見つかると良いな。


 広場にはベンチがいくつか設置されているが俺としては噴水の縁で寝っ転がるのを推したい。水飛沫は飛ばず澄んでいて綺麗だしなんだかマイナスイオンが出ているのか居心地が良い。これで日差しもぽかぽかしているから最高だ。ということでお休み…


システム:【昼寝】を習得しました。


 どれくらい時間が経っただろうか。小鳥の囀りさえずが止み、罵声が聞こえていた。俺は目を擦りながら何事かと辺りを見回すと、チュートリアルへ案内した女性が男達に絡まれている。こう…悪魔女子がスケルトン、ゾンビ、ゴブリン?小鬼?の3人に囲まれていると絵面がすごいな…というかここまで声が聞こえるって何を言い争っているんだろ?


「しつこいって言ってるの!ああもう!翻訳ちゃんとされているでしょ!私はあなた達のPTに入らないって言ってるの!」


「デュフフ。そんなこと言わないで欲しいでござる。」とゾンビが


「そうそう。君みたいな綺麗な女性が一人で行動するなんて危ないじゃないか。僕達は善意で言っているんだよ?」 スケルトンが


「俺達、もう外にでて冒険してきたんだ。だから手取り足取り教えられると思う。」ゴブリンが


 …うん、翻訳があるからどこの国か分かりづらいけどあれは分かりやすいな…というか騒ぎになっているから人が集まってきているな…俺もまだ寝足りないしここは介入すべきか…


「ちょっといい?ここで騒いでいたら他の人の迷惑だしそちらの女性が断っているんだから諦めたほうが良いんじゃない?」


 俺、というか男が介入してきたことが気に食わないのか男達は一気に不機嫌になった。


「なんだてめぇ?関係ないやつがしゃしゃり出てくんな。」


「そうでござるよ。吾輩たちは単にPTへ誘っているだけでござる。」


「君のほうこそ彼女のなんだい?答えによっては僕達と争うことになるよ?」


 武器に手をかけて威嚇をしてきた…話が分かる相手じゃなかったようだ…俺はため息をつきながら言った。


「周りに迷惑だから辞めとけ。それと、始まってすぐ退場になるのは嫌だろ?」


 俺が言った言葉が気に食わなかったのか3人は激怒した。


「舐めてんのか!?俺達が負けるってか?」


「思い上がりも甚だしいでござるよ。」


「実力を測る事が出来ていないのに干渉してくる君の行動は蛮勇であることを教えてあげよう。」


 そう言い、男3人は武器を抜いた。あー…武器を抜いちゃったか。ほら、さっきから向こうで様子を見ていた上半身が人、下半身が馬の、いわゆるケンタウロスの男性達がこっちに来るじゃないか。これ、俺も話を聞くために拘束されるのかね…


「おい、お前たち!街中で武器を構えるとは何を考えてる!法に則り拘束させてもらう!」


 女性に言い寄っていた3人の男を素早く拘束し連れ去っていった。チュートリアルを受けたら禁止事項とか教えてくれるのにあいつらは知らんかったのか…?


「なんで俺達だけ!?」


「美しい女性に話かけるのは義務なんですよ!」


「あいつが煽ってきたんでござるよ!」


「経緯は言い合いを見ていた者達から聞いている!誰が見てもお前たちが悪い!ほら!きちんと歩け!」



 連れ去られながら何か叫んでいるけど…こっちに被害ないならいいや。逆恨みされても困るからしっかり拘束してください。


 やっと広場が静かになったか。それじゃもうひと眠り…


「ね、ねぇ君!助けてくれてありがと。」


 おおう…まだこの女性が残っていたか…自分の為にやったことだからお礼を言われるような事じゃないんだが…


「君はあいつらみたいに言い寄ってこないのね。私、これでも人並以上かなって自覚しているんだけど?」


 えぇぇ…言い寄ってくるのは迷惑だけど、興味を持たれないのは女性としてのプライドが許さないってことなのか…


「単に目的の違いかな。このゲームで俺は最高の日向ぼっこや寝る環境を求めて、あいつらは出会いを求めてたってことだろ。それじゃ俺はこの辺で。」


 そう言い残し俺は去ろうとしたんだが、女性が急に近づいてきてハグをしながら頬に顔を寄せ耳元でチュッと2度ほど音を残し、悪戯が成功したような顔をして「助かったわ、ありがと」と言い人混みに消えていった。


 いきなりの事で思考停止してしまったがなんとか再起動した。あぁ…そういう習慣のある国の人だったか…チークキスなんて初めて見た…というかされたのも初めてだが、普通にキスするよりなんか恥ずかしいぞ。これを日常的にしているって凄いな…あ、名前聞いてないや…


 目線を下げて時間を確認するとまだ15時だった。うん、もうひと眠り出来るな。



 俺はまた先ほど寝ていた所で横になった。



 ゆさゆさ…ゆさゆさ


 ん?体が揺らされている?地震か?体を動かそうとしても動かないんだが…金縛り!?ファンタジーの世界だしありえそうなんだが…


「…ねぇ、ねぇ。」


 声まで聞こえてきた。体は動かないことに慌てたが目を開ければいいだけか。


 目を擦りながら開けると目の前には髪が肩口までありショートパンツを穿いた美少年?いや…黒いマントの隙間から胸がちょっと膨らんでいるから少女?が俺に馬乗りになりながら顔を覗き込んでいた。俺が目を開けて自分を見ているのに気づいた少女が言葉を発した。


「ねぇ、なんでここで寝ているの?」


 とりあえず、腰辺りに座っているのは周りに誤解を与えるので退いてください…

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