第3話

 寝て起きたらすでに講義が終盤だったのでノートに書けるだけ書いておく。俺は講義中に書くノートと見返す用のノートを作っている。講師によってはすっごい勢いで黒板に書く人もいるからな…そのまま取っても意味が分からないというのが多い。


 講義が終わり、俺は飯塚さんに声を掛けて講義室から出た。お互い、今日は早めに用事を済ませなければいけないから挨拶もそこそこだけどな。今日が金曜日で土曜の講義は取っていないから日曜まではある程度ゲームをすることが可能だが…そうだな、春先だしカレーでも煮込んでおけばいつでもログアウトして食べれるだろう。


 一度家に帰りバスに乗って駅前へ向かう。大学の傍に住んでいると荷物をすぐおけるのはいいんだがスーパーは遠いんだよな…大学に通うには良い立地の物件で部屋もそれなりに広く防音もしっかりしているから、これ以上を求めても仕方がないけど。高校の時は大学傍の物件はサークルのたまり場になったり壁が薄くて怒鳴られる印象を持っていたし。


 夕食を作り、風呂に入って講義のまとめをしていたらサービス開始時間が迫っていた。時間配分、ちょうどよかったみたいだな。待っている時のワクワクも好きなんだが、そういう状態だと時間が経つのが遅く感じてしまう。それもまた醍醐味ではあるがな…


 それじゃ…接続コネクト




 光に覆われたため、目を瞑ったんだが気づいたら見渡す限り真っ白の空間にいた。目の前にはコンソールが用意されていて、これでキャラクターを作るとな?ふむふむ…現実から乖離した体型は無理っと…異性も選べんのか。20歳以上しか出来ないゲームだからアダルト方面も対応しているんだなぁ。ナニも設定できるし…


 VR空間で異性体に慣れすぎると現実に影響が出るっていう報告もあるし、体型に関しても歩く歩幅や目線などの違いで現実で事故が起きたというのも見たことがある。その為の措置ってことか。連続ログイン時間に関しては仕事や学校へ通っていれば問題がない範囲だな…ちゃんとリアルを優先できないとアウトになっているのはコアユーザーにとっては厳しいのか?ま、その辺り分別するための18歳以上なのかもしれん。


 よく漫画にある案内人みたいなのはいないんだな。まぁ始める前から差をつけるのも不満が出る可能性があるから取っ払ったのか。超常存在に名前を聞いたり付けるのがお約束ではあるが、ファンタジーで言えば名前というのは重要で真名となると縛られるっていうのもあるし。


 キャラクター作成を押すと目の前にキャラが表れた。なるほど…投影しながら設定が出来るのね。んー…髪色変えるだけじゃリアル情報やばいかな?髪だけでも印象変わると思うんだけど…世界でも1万…いや、犯罪に関わったのも多く8000人くらいか、近場の知り合いがいる可能性のが低いからいっか。それなら髪も変えなくていいや、別の自分になりたいってワケじゃないし。


 あと設定出来る所は…国か。これ、どれだけの人数がどの国を選んでいるのか分かる仕様になっているのかぁ…偏り過ぎた場合はもしや選べなくなる?案の定というか、今のところ人数が多い順で人族>エルフ族>獣人族となっており、魔族はまだ0となっている。あ、種族を変えるとお試しでキャラ動かせるのか…うお、獣人の4足歩行はむっずいな…立つこともできるが猫背みたいになる…割合を変えれば通常になるとはいえ操作が難しすぎる。エルフ族は癖もないし美麗な感じになるんだな。


 ま、最初に考えた通り魔族にするか。特徴としてはエルフは尖った長い耳だが魔族は小さく耳が尖っている。また、角も付けることが出来るとな?見慣れた顔に角がああるとすっごく似合わんのだが…お?魔族の中でも更に細分化がある。龍、骸、魔人、鬼、魔獣、妖魔、夢魔って多いな!?何々…その人に合ったものが選ばれるというランダム仕様なのか。これは確かに魔族を避ける人が出てきてもおかしくないな。その人に合ったものってことは性格などで判断される可能性あるし。魔獣が選ばれた場合はほんと獣人よりか獣に近いなこれ…ここまでキャラクリしてきた意味よ…


 何になるかは楽しみだ。それじゃ名前をナオヤにしてキャラクリ終わったしスタート!



 目を開けるとすでに石畳が引かれた街が広がっていた。魔族の国だからっておどろおどろしい感じがないのは嬉しい。遠くには大きな城をVの字で挟んだような高い壁があった。壁の向こうには違う国があるけど、その間には裂け目が広がっていたからこの壁は裂け目に人が落ちないようにしているのか?なるほど、裂け目が交わるところから外側に向かって冒険をしようってことなのか!それと、獣じゃなく普通の人っぽいんだけど…あ、魔人か!癖がなくてよかった。…おっと、チュートリアルを始めますか?とな。ぽちっと


 元々人の気配が希釈だったけれど今は全くない…まだ空を見る限り明るいけれど、チュートリアル用の空間に来たって事なのか。まずは案内に従ってギルドへ向かうのか。


 大通りを進んでいくと周りより大きめの建物が見えてきた。その中に入るといかにもギルドっていう形で、併設されている酒場とクエストボード、2階には資料室の案内、目の前に受付カウンター、奥に解体作業場の案内が出ていた。酒場併設かぁ…チュートリアル空間でよかった。これ、絶対に冒険者に絡まれるというお約束が発生したんじゃない?


 受付嬢に話を聞こうってなってるな。カウンターを見ると蛇の尻尾で手を振るみたいにしてくれてた。この人、ラミア族っていうやつなのかな?全長が大きいけれど僕の目線に高さを合わせてくれた。そういう調整出来るのかー。


「本日はお越しくださりありがとうございます。ご登録でよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします。」


「冒険者になるうえでご説明は必要でしょうか?」


「この世界に来たばかりだからお願いします。」


「はい、それではこのガイドブックを差し上げますので見ながら聞いてください。」


 うお、結構分厚いな…これ、チュートリアルで全部話すのかな?


「安心してください、ガイドブックは分厚いですが要約すると短いので。まず、冒険者カードは身分証にもなりますしお金の支払いにも使えます。ランクは生存率と到達率で換算されます。依頼もランク分けや到達度で検索できるようになっていますのでご利用ください。

 冒険者ギルドは依頼の斡旋、依頼人との仲介が主な仕事となっています。依頼を達成されましたら受付に依頼票とギルドカードを提示してください。解体をご希望でしたら奥のカウンターへどうぞ。それと、依頼には期限がありますのでそれを過ぎると違約金を支払う必要がありますので注意してください。

 また、街中で武器を抜く行為は犯罪となりますので気を付けてください。拘留期間は犯罪の重さに比例します。常習犯でしたら冒険者カードを取り上げ、罰金を支払わないと再交付されません。

 以上で説明を終わります。何かご質問はありますか?」


 詳しい説明はガイドブックに書かれているだろうから後で確認するとして…まず聞かなきゃいけないことはっと。


「お昼寝するのに良い場所ってどこかありますか?」


 僕が質問するとラミアっ子は目をぱちくりさせていた。意外な質問かな?というかギルドでするようなものじゃないか…


「え、えっと…私の主観でよろしければ…広場の噴水があるところが日当たりもよく、景観も素敵だと思います。ベンチや軽食の屋台も豊富ですよ…?」


「ありがとう、取りあえず向かってみることにするよ。」


「あ、あの!依頼は受けて行かないのでしょうか…?」


 僕の行動がおかしいのかラミアっ子が少し慌てていた。


「えっと…普通は受けていくものなのかな?」


「い、いえ…神様からこの世界に来る方々は乱暴で冒険が好きな傾向があると言われていたので…」


 あー、ファンタジーゲームが好きな人は冒険好きだもんね。フルダイブとなると戦闘好きもいるだろうからそう思われても仕方ないかも?


「そういう人が多いと思うけど俺は違うかなぁ…のんびり過ごしたくて来たって感じだから。」


「そうだったのですか…私、何か身構えて対応してしまいました…申し訳ございません。」


「いやいや、受付なんだし色んな人を対応するんだから間違ってないよ。それに、キリっとしててよかったし。」


 俺が褒めるとくねくねと体を動かした。おぉ…この動きは人がするにはギャグ路線じゃないと出来ないがラミアだと普通に出来るんだね。


「それじゃ俺はそろそろ向かうことにするよ。ありがとね。」


「はい!ご利用ありがとうございました。」



 チュートリアルクリア!場所を初期位置に戻します。



 アナウンスが頭の中に響き景色が切り替わった。

 おー、戻ってきたら普通に街の人達がいる。ラミアっ子が言っていた乱暴なっていうのが広がっていたなら様子見する人達が多くても仕方ないかもしれない。

 というか、まだ全然プレイヤーの姿を見かけないんだけど…そんなに魔族って人気がないのかな?あ、プレイヤーが来たみたい。ああやって光ってログインしてくるのか。


 えっと、広場はここだけど…あ、向こうにベンチと噴水があるな。こう、休日に鳩に餌をやるのにちょうどよさそうな場所…それじゃ向かおうか。


 俺が噴水に歩を進め始めようとした時、さっきログインした女性プレイヤーの人に声を掛けられた。


「ねえ君…私にこの世界の事教えてくれないかしら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る