第2話

 春休みが明け、俺は無事2年に進級することができた。講義は途中で寝てしまうが、席が一番前なことを利用して授業風景を録画し、復習も出来たのでテストでは問題がなかった。だから単位は1年の時に取れるだけ取ったので今年は少し楽が出来る。


 そして、今日は俺の誕生日。ということは【かみ転】のサービス開始日なんだが、開始が17時からなので大学へ普通に登校している。俺の周りが静かな事に疑問を抱いたのか飯塚さんが声をかけて来た。


「あ、青木君久しぶり…春休みはどこか出掛けたの?」


「お、同じ講義取ってたんだ、飯塚さんも元気そうだね。休みは特に出掛けてないな…春って言ってもまだ寒いから家の中でコタツに入りながらミカンを食べたりアイス食ってた。飯塚さんは…休み前に比べて化粧とか服装が馴染んでる気がするけど、なにか心境の変化とかあった?」


 俺が質問すると何やらアワアワしているんだけど?夏休みくらい長期休暇ならかなり人って変わるんだけど、春休みは短いもんなぁ。もしかして恋人と過ごしていたのかも?


 俺が下世話な想像をしたのか気づいた飯塚さんは首を横にブンブンと振った。


「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!それに、私には恋人なんていないし…」


 後半、何やら声が小さくて聞こえづらかったんだが…多分恋人がいないってことかな?


「ただ、今年で成人するんだから落ち着いて行こうかなって…」


「なるほど、前までは着せられていた感があったからな、良い変化だと思う。」


「ありがと。それにしても、いつもしゃべりにくるあの人がいないみたいだけどどうしたのかな?」


 飯塚さんの言っている人物はあいつかな?まぁ、俺から当選枠もらえなかったからあまり絡みに来なくなったが…あいつ、やらかしたんだよな。


「あー…あいつ、捕まったんだよね…ほら、春休み中に結構【かみ転】のハード関連のニュース多かったでしょ?」


「え、えぇ…確か壊れていたとかソフトをDL出来ないとか不具合があったみたいだけど…私の所に届いたハードは問題なかったからびっくりしちゃった。」


「それ全部会社側の問題じゃなく受け取った人が分解したり転売したっぽい。分解しても大丈夫だろうとか安易にやったんだろうな、注釈書いてあるのに。んで、件のあいつは転売ヤーから買ったらしいが情報入力のとこで引っかかったらしい。んで売った側も買った側も捕まったとさ。」


「確かCMでも個人情報やセキュリティに力を入れてますってやってたもんね…小説でよくあるデスゲームにならないようにしましたとか。」


 ユーザーからすると怖いのは情報流出とゲームからログアウト出来ないことだしな…だからこそ当選した人のことを把握して万が一に備えるためと思っている。


「ま、自業自得だな。ゲームを全然してきてなかったが、今日からサービス開始と思うと結構興奮するな。」


「ふふ、青木君も心構えは一人前のゲーマーだね。ひと昔前はサービス開始日に学校や会社休んでログインするための戦争があったみたいだよ。」


「コアユーザーはすごいな…時間の使い方が偏ると生活に支障が出るだろ…」


 俺は大学の傍に一人暮らししているから買い物以外、学校と家の往復だから時間は余裕あるけどな。普段のんびりしている時間をゲームの中でのんびりするだけだし、そこまで生活に影響は出ないと思いたい。のめり込んだ場合がやばいけどな…


「私もそんなのは無理だよ…でも楽しみだね。青木君はどの国でスタートするか決めているの?」


「ん-…特に希望はないんだよな。出来ればのんびりと日向ぼっこできる国がいい。」


「あはは、青木君らしいな。私も特に希望はないんだよね…」


「確かアンケートみたいなのなかったか?どの国でやってみたいかっていう。」


「あれはあてになるのかなぁ…人族>エルフ族>獣人族>魔族の順番だったでしょ?」


「そうそう、確かそんな感じ。理由としては身体的特徴が変わるけど、普段の体と同じ方が動けるとかで人族が人気だっけか。ま、顔とか一緒だが獣人になったら匂いに敏感になりすぎて不都合があったりしそうだよな…」


「私としては獣人族が一番人気だと思ったんだけどね。ほらケモミミとか肉球とかあったらーって思っちゃう。」


 それは自分がなるより触ったり見たりしたいってことで人気なんじゃないかな…?NPCの姿を見るためなら我慢するんだろうなぁ。あと、獣人族は人に近いか獣に近いか割合を決められるらしい。四足歩行は難しいだろうな…


「俺からすると獣人族は見たいってだけでなりたいとは思わんぞ…動きも慣れるまで時間がかかりそうだ。」


「私も獣人族はそんな感じ…可愛いの好きだけどね。エルフ族は綺麗な感じだったね。魔族はイメージ的にどんよりとした世界っぽいんだけど…」


 まぁ、魔族はイメージからするとそうだな。エルフ族や獣人族は自然豊かな感じで人族は街並みがしっかりしているとか。


「それなら俺は魔族にしてみるか。少数なら静かで外でも寝易いかもしれん。」


「種族選びは結構重要だと思うのに、そんな理由で決めるのは青木君くらいだと思うよ…」


 どの種族にしてものんびりとしたいだけだからな。騒がしい環境よりは静かなほうが俺にとっては都合がいいし。


「あ、そうだ。オンラインゲームする上で注意すべき事ってあるか?」


「んー…漠然としているけど、とりあえずリアルの情報を不用意に言わない事かな?年齢とか。名前も本名じゃなくもじったり、別の名前を付けたりしたほうがいいかも?ただ、海外の人達は本名を付けることが多いけどね。あとは…誰かを批判しないことかな、聞いていてもちょっと辛いし自分に返ってきたら嫌だし。」


 ネットリテラシーっていうやつだっけか。悪いことをしたら自分に跳ね返ってくるってよく言われているし、気を付けないと。


「ま、同じ国で始めるか分からんが何かあったら相談に乗ってくれ。っと、教授が来たから寝るわ、またな。」




奈央視点


「あ、ってもう寝ちゃってる…」


 青木君、こんなに寝ててなんで成績良いんだろ…私なんて一生懸命講義聞いていてもそこそこなのに。今度、コツとか教えてもらえないかな?ゲームの話もその後にしてみたいし。うーん…どの国にしようかな…青木君にはそこまでコアじゃないって言ったけど私って結構ゲームをするとのめりこんじゃうんだよね…人族が一番人口が多くなりそうならそっちかな。一緒にプレイはしなそうだもんねぇ青木君…ほんと自由な感じで私とは違う。


 私は大学に入った今でこそ好きに時間を使えるけれど、小さい頃は習い事に追われて友達と遊ぶ機会もなかった。言われた事をこなして、それが当然と思っていたんだけど高校に入ってから友達付き合いが悪いって言われて陰口を叩かれた。その反動でゲームにのめり込んじゃったし、言われた習い事じゃなく私が興味ある事をさせて欲しいって親に言ったんだよね。両親の言う、やりたいことが見つかったときの為の経験を積ませたかったっていうのも分かるし。お互い上手く擦り合わせ出来て良かったと思う。

 

 青木君は私が出会った中でも結構変わっている。私もそれなりに容姿が良いほうだと思うし、告白もされたことある。ガツガツ来られて今だに付き合ったことないんだけど…青木君は私の容姿とか特に気にした様子ではなく、なんていうか自然体なんだよね。だから私も緊張せずに話していて楽しいし会話も弾む。けど恋愛には発展しないと思う…なんだか怖がられている気もするし。だから男女の友情が成立するかは分からないけど普通に趣味の話とかできたら嬉しいな。あと私のちょっとした変化に気づいてくれたのはビックリしたなぁ…寝ているように見えて周りを結構観察しているっぽい?ゲームでは必要なことでもあるからもしかしたらトリックスターとして騒がせちゃうかもね。

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