第七話 『天然』
昼休憩になる。
この学校では、自動給膳という機能がある。
有り体に言えば、机からびっくり玉手箱のように、指定された給食が音もなく出てくるのだ。
「まあ、この機能使う人は段々と減るらしいけどね。多分、入学以来ずっと使っているのは、スプリーム4であり、我が校の生徒会長でもある“触れることのできない
にこやかに微笑みながら奏君が俺の驚いた様子に反応してくれる。
「奏君、よくそんなこと知っているのな」
俺は、スプリーム4の話を聞きたい欲求に駆られながらも奏君の情報量に舌をまく。
「実はね、兄がこの学校の先輩なんだ。僕は
てへへ、と恥ずかし気に笑いながら兄の自慢をする天然な様子の奏君に俺は少しだけ身体の緊張を覚えた。
大丈夫。
あの頃ほど、ここは殺伐としていない。ぬるま湯のような環境だ。彼が“天然”だったとしても恐らくは大丈夫。
俺は心の中で自分に言い聞かせた。
「んなことねぇって。ここの学長は才能至上主義だから、奏君にも光る才能があったんだよ」
俺は、クリームのように滑らかな鈍色の髪を自分の懸念を払うように少しだけ雑に撫でる。
「ありがとね」
奏君は、俺のその雑な激励を、ともすれば嫌味になってしまう激励を素直に受け入れてくれた。
*
昼ごはんも食べ終わった頃、改めて奏君に質問した。
「そういや、さっき言っていた自動給膳機能を使わなくなるってのはどうしてだ?」
「さっきのご飯が僕と香川君で違っていたのは気付いている?」
奏君は俺の質問に別の質問を重ねてきた。
俺は、少しの間腕を組んで考え込んだ。
確か、俺の方は野菜たっぷりのサラダに鮭の焼いたもの。それに玄米があった。
奏君の方は、鮭の塩焼きが出たのは同じだったが、それ以外は違った。オリーブオイルで炒めた野菜炒めに、蜂蜜たっぷりのヨーグルト、更には少し硬そうな白米だったか。
俺が、しばらく黙ってしまっていると、奏君は俺が思い出せないと思ったのか話を続ける。
「例えば、僕が食べていた野菜炒めだと、ビタミンとかの吸収が香川君が食べていた生野菜よりも良かったりするんだ」
ビタミンにもよるらしいけどね、と笑いながら続ける。
「ヨーグルトは、僕の喉を気遣ってだったりしているってわけで、それぞれ個別にその日の状態、遺伝子情報、能力によって最適な食事を世界中の遍く論文を元にジーニが出してくれるだ」
「それなら、最高じゃないか?栄養面が完璧な上に食事を選ぶ面倒も減って一石二鳥だろ」
「そっか、それならいいんだ」
俯いた後、不自然に話を切って奏君は次の授業の支度し始める。――と言っても旧時代的な教科書はないからタブレットを開くくらいしか準備することはないのだが――
仕方ない、フォローをするか。
「でも、ランク5になったら、たまには、政治家連中が通っているっていう美味しい店ってやつに行きたいけどな」
ジーニの食事管理を肯定したとたんに背を向けてしまった奏君に聞こえるように独り言を言う。
遺伝子レベルで最適な食事を出してくれて、おまけに能力――俺でいう“詐欺師”――の能力をより発揮させてくれる食事ということだろう。まさに渡りに船だと個人的には思う。
だが、奏君はそうではないらしい。
俺はどういう行動をするかを悩んだ。だが、みすみす情報源ともなりうる奏君との交流の機会をこんなことで失うのだけは失態だ。
それに、俺は別にこのシステムを批判しても問題はない。
何故なら、俺個人に関して言えば、そのシステムが俺に適用されているのかというと疑問が残るからだ。
俺は、正規の方法でこの学園に入学していない。サイのコネというコネを使ってここまで来た上に、才能の面においても噓偽りの経歴を提出している。
詐称。
これが仇になっていたら俺の食事には何の意味もない。そもそも、本来の才能に合わせた食事が俺にも出ていたとして、詐欺師に最適な食事などというものも存在しないだろう。
A『詐欺に失敗した食事=ミートボール』
B『詐欺に成功した食事=バナナ』
みたいな論文データがあったらドン引きする。それを実験した奴も、実験された側も等しくバカだ。一流詐欺師の自負のある俺としては、同じ詐欺師としてカウントしないでほしいと切に思う。
そういったことを踏まえると、俺がジーニの食事を食べる有効性は他の人とは違い、得られないに等しいだろう。
「ふふふ。別に怒っていないよ。ただ、モルモットみたいな食事は嫌だなぁって思っちゃっただけ」
奏君は、俺の独り言を聞いた後、少しだけ振り返るように姿勢を斜めにして俺に話しかける。
どうやら思っていたよりも“天然”ではないのかもしれない。
俺は、安堵のため息を吐く。
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