第八話 『神の知に至りし者/空気を支配する者』
午後からは、この学校の説明がタブレット端末のモニター越しに行われた。
この説明会の光景を外部から見ている人がいたら、何をしているのかとハテナマークを浮かべるかもしれない。何故なら、端末からは、一切音が聞こえず静かなのにも関わらず、教室の中の生徒はイヤホンすらつけずにただ、無音の液晶画面をじっと見つめているだけに見えるからだ。
だが、実際は、
『…ということで、皆さんもスプリーム4になれるよう…』
といった声を教室にいる者たちは聞いていたはずだ。
俺も例に漏れず聞いている。前の席にいる奏君の耳を見るとほんの少しだけ耳元の部分の髪が浮いていた。
この正体は『空気を使った最新鋭のイヤホン』らしい。らしいという表現になっているのはAIジーニによって装着すら(音響反射などを利用した位置情報の取得により)してもらっており、実感としては耳くそか何かが詰まっているような感じになっているだけで、いまいちイヤホンを装着している実感がわかないからだ。
イヤホンに思いを馳せていると、ちょうど画面上の教師のありがたーい説明会(別名:くそ長い説明会)が終わった。
よくよく周りを見ると、自前のスマホで動画を見ている人もいて俺もそうすればよかったなと後悔に包まれる。
しかし、後悔しても仕方ない。スプリーム4についての説明も出たし、奏君にスプリーム4の実態を聞くちょうどいい機会だろう。
「奏君、スプリーム4ってどういう人たちなのか知っている?」
説明会が終わり、ジーニが空気型イヤホンを外してくれた後、俺は奏君の席――といっても目の前の席なのだが――に行きつぶらな瞳を浮かべる彼に尋ねてみた。
「知っているよ、でもどう説明すればいいのかなぁ」
「別に興味が湧いただけだし適当でいいよ」
「うーん、じゃあまずは生徒会長でもあり、『
随分と、黒髪が似合いそうな名前の日本人もいたもんだな。名前だけで和風美人だとわかる。
「『
「うーんと、確か黒川沙耶香さんは、
陰口のようになってしまうからか、奏君は遠慮がちに声を潜めて言う。
にしても、触れることができない程に周囲に壁を作り、空気を支配するほどにどぎつい性格を持つ女と対峙するとか嫌になるな。
まあ、ペテン的には頑固ものほどカモとなるからいいのだけれど…。
「でも、すっごく美人さんだから人気は高いんだよ」
奏君は取り繕うような言葉を早口言葉のように付け足す。
「別に陰口だなんて思ってないから安心しな」
そっか、といいながら奏君は二人目の説明をしてくれる。
「二人目は雉野雪野。神に知ると書いて『神知』とも呼ばれているんだ、それに、…。ううんやっぱり何でもないや」
奏君は言い淀んで続く言葉を発さなかった。続く言葉は気になったものの、それよりも気になった『神知』という言葉について聞いてみた。
「『神知』っていうのはその名の通り、“神が知るように未来を知ることができる”って意味なんだよ」
「なんだ、その分かりやすいペテンは?」
ペテン師の前でいい度胸だな。
「いやいや、彼女の能力はペテンなんかじゃないよ。現に彼女は、高校に入ってから1敗しかしていないんだから」
「スプリーム4が負けたのか?無敗じゃないのか?」
「え?スプリーム4は、奴隷勝負以外はたまーにだけど負けているよ?」
サイから聞いた話と違うのだが…。
まあ、あいつの適当なところは今に始まったことじゃねーし、それよりも誰に負けたのかの方が重要だ。
「1敗?誰にだ?」
何だったらそいつに攻略法を教えてもらうのもありかもしれない。
「もちろん、同じスプリーム4の『触れることのできない女王』にだよ」
「なるほどな。じゃあ、最強は『触れることのできない女王』なのか?それとも、残りの二人なのか?」
うーん、と奏君は陶器のような白指を顎に当てて考えながら
「分からない。というのが正直なところかな。他の二人に関しては情報もあまりないしね。異名くらいしか知らないかな。"支配する姫"と、"反転少女"。それくらいしか知らないんだ」
と答えてくれた。
いくら奏君が情報通とはいえ、流石に入学早々スプリーム4全員のデータを手に入れていたわけではないらしい。否定とも肯定ともつかない言葉を俺に示した。
そこで俺は少しだけ考える。
誰から奴隷支配をするべきか。
考えた末に俺の口から言葉が滑り出す。
「生徒会長ってのは生真面目で学園を愛しているタイプか?」
「うん。根っからの真面目で不正は許さないし、いじめっ子がいたら正面からぶつかって倒しちゃうタイプ」
奏君の笑顔から告げられる怖い言葉に震えながらも俺は方針を決める。
(まずは生徒会長 黒川沙耶香を標的にする。)
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