第五話 『政治家は大抵慢心している』
自己暗示を終えた俺は、もう一度サイの顔を見る。
「確認するが、お前が全てをこなしてしまうって方法は使えねぇのか?サイ?」
「言っただろ?永田町の連中は自分の利益を吸うことに関してはそこら辺の蚊以上に厄介な連中でね、明らかなリスクを取ることを極端に嫌がるんだよ」
ふざけた調子もなく、サイは疲れを表情ににじませる。
「で、なんで、その明らかにリスクを取らない奴らがこのルールを飲んだんだ?」
俺はサイとの秘密裏に行われる会合において前提となる最重要なルール‐‐『政治家を奴隷とできる』という部分を指し示す。
「それはねえ、それがリスク足りえるとは連中が思っていないからだよ」
サイは汚れ一つないガラス窓から、学生街の並ぶ中で異質なほどの高級住宅が並ぶ一画を見つめる。
「どういう意味だ?」
「政治家の連中を奴隷にする戦いの条件が矛盾をしているからだよ」
そう言ってサイは、電子端末を引き出しの中から取り出して、少しの間操作をした後、俺にその電子端末を渡してくる。
サイから渡された電子端末には、この学園のルールにおける奴隷ルールの欄が開かれていた。
そこには、
『学年終了時に最もポイントが多かったもの4名の同意の下で、政治家クラスへクラス単位での奴隷勝負を挑むことができる。ただし、この勝負に負けた場合そのものたちは退学として、本国の敷地を跨ぐ権利が今後永久に存在しなくなる』
と書かれてあった。
俺がその文を読むのを見計らったようにメイド服姿のサイは続ける。
「すでに、将来を確約されていて、政治家の連中を顎で使うことすら保証されている上位4人がそんな危険を冒すわけがないだろう?」
「なら、奴隷なんかにできなくてもそいつらの協力さへ仰げば任務達成にならないか?」
「ふふふ。君は人のことを読むのはうまいのに人の流れを読むことに関しては素人なんだね、安心したよ」
少年のような無邪気な笑みが俺の目の前にはあった。
「どういう意味だよ?」
「簡単だよ。そんな連中が革命なんて言うリスクが高いことをするわけがないだろう?そいつらはその集団のトップが確約されているんだから」
「まあ、そりゃそうか。ってか手詰まりじゃねぇか?」
「そこで君の出番と言う訳さ」
俺の方を指さして首をかしげるようにウインクをする。メイド服姿で幼馴染(男)がやっていることに軽くめまいがする。せめて妹がよかった。
「何をやれと?」
「奴隷制度のルールは知っているかい?」
「確か、奴隷にしたもののポイントすら搾取できるんだっけか?」
「そうそう。そこが俺が永田町の連中にぎりぎり見破られずに仕掛けることができたペテンってわけさ」
そこまで言われて、本業のペテン師である俺には意味が理解できた。だが、それはかなりの無理難題を意味していた。
「つまり、学年トップ4の奴らをポイントを持たせたまま奴隷にしろということだな」
「そういうことぉ」
ニッコリと天才兼ペテン師がピエロのようにわざとらしい笑みを浮かべる。
正確な条文は『奴隷としたもののポイントを主君となったものは、好きにできる。』というものだったか。
つまり、奴隷にさせた奴は『奴隷を好きにできる』というだけで、『ポイントを奪うこと』は義務ではないのである。
つまり、奴隷にしたままトップ4となることすら可能なのだ。
こんなことをする奴はふつういない。奴隷にしたら全ポイントを自分のものにしたいに決まっている。
その当然の行為にこそ穴がある。ペテン師はそういった人間の心理的盲点を使うことに長けているものである。
目の前の男はもはや立派なペテン師である。
それに付随してサイに教えてもらったことは、政治家のクラスの前に先生のクラスを倒さなければならないこと。最終決戦だけは、本来必要な1000万のMPを使用する必要性がなく、MPは1MPすらいらないこと。
最終のラウンドだけは、成績優秀な一クラス+トップ4(トップ4が一クラスの中にいたらその分だけ他クラスの人を呼んでもよい)がチームを組んで団体戦をしなければならないこと。
こんなことを教えてもらい着々と天才の布石を聞いていった。
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