第21話 みいことおとや(8)

 四月。


 柔らかな日が差し込みぽかぽか暖かい部屋の中で、みいこは鼻歌交じりにお湯を沸かしていた。


 優美な旋律にやかんの間の抜けた高い音が重なる。


 お気に入りのルームウェアとスリッパ。髪はゆるく巻いて、唇には新しいリップ。二枚のお皿にはクッキーが並び、クリスマスにもらったティーポットの中では、とっておきの茶葉が待機。

 春のお茶会の準備はオーケー。


 彼を迎える準備は万端だ。


「早く来ないかなぁ」


 体をひねり、大きな窓を振り返る。さっき自分で開けた数センチの隙間は、まだ広がらない。


(リップ変えたの気づくかな)


 唇にそっと触れて一人ほほえむ。


 彼は鈍いから気づかないかもしれない。そうしたら、前のリップとどう違うのか、たっぷり語って聞かせてあげよう。


 ふと、足元を暖かな風が撫でた。


 窓が大きく開いている。

 窓枠に見慣れた大きな手がかけられて、愛しい人の顔がのぞく。その前髪には、桜の花びらがついていた。


 みいこは火を止めると、かわいいおまけをつけてきた恋人のもとに駆け寄る。


「いらっしゃい。待ってたわ」


 そう言って、おとやをぎゅっと抱きしめた。


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