第18話 ちなつとけいし(6)

「失礼しまーす」


 夕暮れ時の図書室。ガラリ、と無遠慮に扉が開けられた。


「けいしくん?」


 入ってきた少年の姿を確認したちなつは、驚いてその名を呼ぶ。

 作業の手を止めて立ち上がると、けいしはその正面に立って、ふてくされた顔で言った。


「それ、いつまでかかる?」


 顎でしゃくって示したのは、机の上の画用紙やハサミ、ペンなどの道具の数々。


 ちなつは現在図書委員として、来週から始まる「秋の読書フェア」の準備の真っ最中だ。


「まだしばらくかかるよ。どうしたの?今日は遅くなるから先に帰っててって言ったのに」


 幼子をあやすように言うと、けいしはいっそう顔をしかめた。

「それ、昨日も一昨日も言ってた」

 事実を告げられ、ちなつはうっと言葉につまる。


「ていうか他の奴らは?図書委員って一人なの?」


「今日はみんなの部活とか用事が重なっちゃったの。いつもはみんなでやってるのよ」


 けいしはふーん、と唸りながら、疑うような目で積み重ねられた画用紙を見やった。


 嘘はついていない。帰宅部のちなつが仕事を押し付けられがちなのも事実ではあるが。


 けいしは大きなため息を一つつき、ちなつの隣の椅子を引いた。勢いよく腰掛けると、何したらいい?とちなつを見上げる。


「え、いいよ。これは私の仕事だし」

 慌てて遠慮したちなつだが、

「ちげーよ。これはオレのため」

 と、けいしは不敵に笑った。



「ここんとこずっと一人で寂しかったの。二人で早く終わらせて、一緒に帰ろ」



 その言葉に、ちなつの頬がぽっと赤くなる。

 けいしの隣に座り、作りかけのポップを差し出した。

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