第17話 みいことおとや(6)
「あら、雪だわ」
ふとペンを止めたみいこが窓の外を見て言った。薄暗い一月の夕空に、ちらほらと白いものが舞っている。
「げ、まじかよ」
遅れて気づいたおとやは嫌そうな顔で言った。
「雪、嫌いだったかしら?」
「嫌いじゃねぇけどさぁ」
開いていた数学の教科書を閉じ苦笑する。
「天気が悪いと、壁下りも大変なんだぜ?」
おとやは、いつもみいこの部屋がある女子寮三階まで壁を登ってきて侵入している。「王子の壁登り」として生徒の間で有名な、アモ学名物だ。運動神経抜群のおとやは毎度危なげなくこなしているが、さすがに悪天候では苦労もするらしい。
「そうねぇ。手を滑らせて落ちても困るものね。今日はもう帰ったら?」
みいこはスマホでこのあとの天気を確認し、まだ降るみたいだし、とつけ加える。
「そうすっかなぁ」
広げていた勉強道具を手早く片づけ、おとやは立ち上がった。リュックを背負って窓に向かい、大きく開け放つ。
「寒っ……!」
冷たい風が吹き抜け、みいこが身震いする。
それに気づいたおとやは窓枠から手を離し、部屋に引き返した。けげんな顔をするみいこを、そのままぎゅっと抱きしめる。
「今日もありがと。あったかくしてろよ」
耳もとでそっとささやくおとや。
みいこの顔がかぁっと赤くなる。
おとやはみいこが反応する間もなくぱっと体を離し、窓の外に身を躍らせた。
「じゃあな!」
大変だと言っていたわりに、するすると安定したペースで壁を下りていく。
みいこはそんな恋人の姿を、ただじっと見つめていた。
「ほんと、ずるい人」
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