第16話 まどかとさとる(6)

 チャイムが鳴り、昼休みの始まりを告げた。

 生徒たちは、おもいおもいの場所に散っていく。


「まどか」


 さとるもまどかのもとへやってきた。

 付き合い始めてからほとんど毎日、二人は一緒に昼食をとっているのだ。


 しかしさとるが目の前に来ても、まどかは鞄をのぞき込んだまま顔をあげない。神妙な面持ちで、なんだか様子が変だ。


「おーい、まどか?」

「ひゃ!?」


 もう一度声をかけながら顔の前で手を振ると、悲鳴をあげてとびあがった。



「びっくりした~、さとるか」

「ごめん。大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと考え事してただけ」


 あはは、と笑ってみせるまどか。

 やはり少しおかしいその様子に、さとるはひょいと鞄の中をのぞいた。


「タッパー?」

「わぁ!!」


 そこには見慣れたまどかの弁当箱の他に、タッパーが一つ入っていた。しかし声に出すと、まどかは大慌てでそれを隠してしまう。


「お菓子でも作ってきたの?」

「いや、お菓子じゃなくて」


 口を滑らせそうになり、はっと口もとをおさえるまどか。

 さとるはくすくすと笑いながら近くの椅子に座った。


「飼ってるコオロギでも連れてきちゃった?」

「連れてきてないし、そもそも飼ってないよ!」


「じゃあどうしたの?」


 まどかの机に腕を置き、上目遣いでまどかを見る。

 まどかは、さとるのこの顔に弱い。


「う……」


 まどかは言葉につまり、やがておずおずと鞄を開けた。

 中からタッパーを取り出し、小さな声で言う。


「栗ごはん。作ったんだけど、ちょっと失敗しちゃって」


 ふたを開けると、つややかな栗がごろごろ入ったごはんが顔をのぞかせた。しかし、黄金色の栗ごはんにはところどころ焦げも目立つ。


「せっかく作ったから持ってきたけど、いざってなったら、不安になっちゃって……」


 うつむいてぽつりぽつりと語るまどか。


 そんな恋人をぽかんとした表情で見つめていて、さとるはやがてぱっと笑った。


「すごいよ。めっちゃおいしそう」


 自分の箸を取り出し、食べていい?とたずねる。

 まどかが頷くと、タッパーの中のごはんを一口食べた。


「うん、おいしい。ありがとう、まどか」

 にこりと笑う。


「ほんとに?」

「もちろん」


 さとるはもう一口頬張って言った。



「まどかが心をこめて作ってくれたんだもん。おいしいに決まってる」



 その言葉にまどかの表情もようやく明るくなる。



「ありがとう、さとる」



「どういたしまして。さ、一緒に食べよ」


 二人のランチタイムは、今日も穏やかに過ぎていった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る