第7話 試される時

 私は今美鈴だったな。


「おはよう、ございます」


 ん?私の声だ。ここは私の屋敷だ。戻ったのか?


「お嬢、おはようございます」


 間違いない、私だな。


「おい、昨日どうなった?」


「昨日の件ですか?お嬢の友達は家まで送りましたよ」


「友達か…今は違うんだろうな」


「お嬢?」


「さ、飯でも食って学校行くか」


 私は飯を食べて学校へ向かう準備をした。

 特に変わってないな。他の二人も戻ったってことか?


「お嬢、大変です。屋敷の前に片岡のやつが」


「なんだ、私が行く」


「危険です」


「大丈夫だ」


 何があったんだ昨日。屋敷から出ると里区だった。


「めんどくさいな」


「美亜だな、昨日ほど落ちた目つきかと思ったが昨日ほど恐ろしくなった目でもねぇ、いつもの美亜だな」


「なんだ?」


 恐ろしい?私に入れ替わっていたのは生徒会長だな。どういうことだ?


「いつもの美亜だな、何か取りついているように見えたがな」


 ある意味正解だな。


「何しに来た」


「昨日のお前が本当の意味で恐怖だっただけだ」


「お前が私に恐怖するなんて言うなんてな」


 生徒会長が恐怖、ということか?こいつと生徒会長は何か関係でもあるのか?


「まあいい、落ちためなら和平なんて取り下げに来ただけだ、正直安心したぜ」


 意味が分からねぇな。結局生徒会長は落ちたのか恐怖した目なのかどっちなんだ。



 朝ですか、確か私は生徒会長の体になってしまったのですね。それにしては雫がいますね?違和感もなくなったような?


「雫さん?」


 声も戻っています。もしかして、私は戻れたんですか。


「おはよう…美鈴ちゃん」


「そうです、私は美鈴です」


「どうしたの…」


 そうですか、私は戻れたのですか。ですが華南さんのいろいろなことがわかってはいます。華南さんと美亜さんも戻れたのでしょうか?


「雫さん、何か変わったことはありませんでしたか?」


「特に…今日は機嫌がいいのかな?」


 機嫌が悪い感じになってたんですね、私。


「はい、昨日はすごく機嫌が悪かったですからね、昨日のことは忘れてください」


「うん…そうする」


「貴方は、華南さんを恨んでいますか?」


「え?」


 これは私が華南さんになって華南さんが恐れていた思考。私が聞いてみました。


「貴方の姉は結さんですよね?」


「うん、でもお姉ちゃんはあの変な生徒会長の話ばかりしてたよ、お姉ちゃんの一番の親友だから」


「そう、なんでしょうね」


「お姉ちゃんの死は生徒会長をかばって身代わりになって死んだって言ってるけどわたしが原因なのかもしれない」


「なぜですか?なぜ雫さんが出てくるのですか、あの時は私と雫さんは特に仲は良くなかったですが貴方が遊園地を選んでいたのは知っています。貴方が遊園地を選んでしまったからですか?」


「違うよ、お姉ちゃんが死んだのもあの人を変な生徒会長にしたのもわたしという妹がお姉ちゃんに吹き込んだから…」


「吹き込んだ?何をですか?」


「華南さん、そんなに絶対に届かない存在がいるなら弱みを握ってしまえばいいんじゃないかなって…わたしはお兄ちゃんとはあまりだけどお姉ちゃんとはよく喋れるから…」


「弱みと死に何の関係があるというのですか?」


「わたしはその時小学生、華南さんをお姉ちゃんの話でしか聞いたことがなかったけど華南さんという生徒会長を友達にすること自体恨みを買って当たり前なんだなって…中学生に入って気づいたよ…」


「私が華南さんと友達になったら恨まれるでしょうね」


「だからわたしが友達にする口実を与えてしまったこと自体が罪なのかな…」


「ですが、誰かいないと生涯孤独ですよ」


「そうなんだけど…わたしは恨む立場でもないのかもしれない…わたしも泣いていたけどあの人も泣いてた…お葬式でも、人が変わったかのように…」



 あたしがお葬式に出席している。今のあたしには誰のお葬式かはっきりわかる。結ちゃんだ。この時のあたしは誰のお葬式かも忘れてしまうほど泣いてたんだろうなぁ。なんで泣いてるのかわからなくなるくらいだよ。

 ここで弁当食べたねー。押し込んでしまっちゃってるねー。あたしはここで魚の骨が詰まって死ぬかと思ったからねー。あたしが魚を嫌いな理由、このお葬式のほうが大きかったかなー。魚の骨という恐怖感がね。この後思いっきり腰を叩かれる。何とか骨が口から吐き出て危機一髪だったよー。あれ?肩を叩かれるはず、あれ?叩いてくれない。誰もいない。駄目だ、このままでは死ぬー。

 でもあたしは結ちゃんがいたから助かった。自業自得かな。あたしの罰かな。



「がはっ…、なんだ夢かー」


 現実は過酷で辛い。でもあたしは結ちゃんが救ってくれた命と多分、結ちゃんの最後の悪戯だったのかな?もう結ちゃんは成仏したよ。結ちゃんの居場所はこの世じゃない。

 あたしはもう美亜ちゃんの姿ではない。あたしは宮口華南だ!

 もう結ちゃんは戻らない。またあたしは結ちゃんのような親友ができるのかな?もしそんな親友がまた同じような死に方をしたら?

 その考えを捨てろ!

 今度はあたしが守る番だ!あたしが犠牲になってやる。

 その考えも捨てろ!

 そもそも死ぬ前提で生きるなあたし!

 結ちゃんの家族には恨まれてるだろうけどね。

 もう後ろを振り返るな!

 恨まれてようと恨まれてなかろうとあたしはあたしを貫き通す!クールで素っ気無い態度で人を寄せ付けない。その割には怖がり。怖がりは変えられないかな。苦手なものはあるからね。



 なんで私は里区と登校する羽目になるんだ?めんどくさいやつだな。昨日の件、聞いておきたいな。

 里区と共に校門に到着。ん?あれは雫、そして美鈴。美鈴には会いたいが雫に関してはあたしのやつらが雫の兄に手出してるみたいだしな。


「おい、美亜、なに止まってる。ん?あいつは威勢のいい一年じゃねぇか」


 里区は美鈴のところに向かった。

 昨日の美鈴のことなら私だけどな。


「おい、美亜の下のやつだな」


「美鈴ちゃん…そうだったの?」


「いえ、違いますよ。でも私は雫さんに隠していたことがありました。私は美亜さんの友達です。実はあの人良い方なんですよ」


「え、え?」


「おかしいな、昨日の目じゃねぇな、もっと威勢のいい目をしていたがな」


 なんだこいつの目で決めつけるのは。


「おう、美鈴か、戻ったな」


「戻りましたね」


 雫は怯えている。どうするか。


「私の下の連中が勝手に手を出すからなぁ、おい里区、和平するか。そうすればもう雄島は一生手を出さない。お前らが破らない限りな」


「は?保留じゃなかったのか」


「私もそれなりに考えてみたんだよ、やられる側の気持ちをな」


 雫はどこか安心しているように見える。


「昨日は俺の馬鹿どもが人質取った真似したからなぁ、反論できねぇか」


 それだよなぁ。昨日何の騒動があったんだ?


「誰を人質にしたんだ?」



 私は雫さんと里区さん、そして戻った美亜さんと会話しています。すると急に里区さんが異変を起こし始めました。


「そ、そうだ、違う。俺じゃない…俺は人質の件も交通事故の件も命令していない。なぜ忘れていたんだ。くっ、美鈴、違うんだ」


 なぜここで私に振ってきたのでしょう。確かに事故の件では私はいましたが、私になった美亜さんと里区さんは何か遭遇している?


「邪魔だ…」


 この聞きなれた声は、この憧れた声は生徒会長?ですが様子が違います、もっと明るいキャラだったはずです。まるであの時に戻ったようではないですか。事故が起きる前のあの憧れの生徒会長に。それとも生徒会長の中身は別人?


「生徒会長、ですよね?」


「あたしは宮口華南だ!」


 美亜さんも思った以上に昨日の美亜さんの時の生徒会長と態度が変わっているので困惑しています。

 雫さんはそのオーラに惹かれてしまったかのように目に焼き付けています。

 そして里区さん、なぜか生徒会長、華南さんを恐れています。


「その目は昨日の美亜、じゃなくて生徒会長…」


「なに?」


 私には生徒会長が里区さんを見下しているようにしか見えません。貴方はあの時の、結さんが亡くなられる前の結さん以外どんな人物にも心を開かない私の理想の生徒会長。


「戻ったな、生徒会長」


「そうだね、友達ができてよかったんじゃない?空北美鈴っていう友達が」


 他人行儀で返されるその言動に美亜さんは戸惑っています。

 里区さんは何か言いたげそうに。


「そ、その、親友を」


「親友はもういない、でも、親友の家族はまだいる。あたしはあたしの罪を一生背負う」


 それだけ言うと生徒会長は行ってしまいました。

 家族はまだいる。その言葉に威圧的空気から解放された里区さんは雫さんを見ます。


「そう、か。妹だったな」


「わ、わたしは自分の罪を背負っていきますから。それに片岡さんは助手席ですから…」


「ま、まあなんだ。あの生徒会長は敵に回さないほうがいいな」


「そうですね、私の憧れの存在ですよ」


「私の目指すべき存在かもな」


「俺にとっては償う存在かもな」


「わたしにとってお姉ちゃんのような存在なのかも…」


 憧れの存在が復活してしまいました。そうですね、次はあの方の笑った姿でも描くことになりそうです。



 生徒会長は変わった。もう変な生徒会長と馬鹿にする人物はいないだろうな。そして気づく。生徒会長と違う中学から来た生徒はなぜ宮口華南が生徒会長になれる人物だったのか。

 あたしも変わらないとな。友達か。悪くない響きだな。


「美鈴、私たちは本当の友達ってやつか?」


「はい、もう友達も同然じゃないですか」


 美鈴は笑顔で返した。

 それにしても生徒会長とは近寄り難いな。あの性格の生徒会長と親友になった旗野結もなかなかのやつなんだろうな。ということはその妹の雫ももしかすると大物かもな。意外な弱点があったりしない限りな。

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