第5話 変革の前兆
生徒会長宮口華南、美術部空北美鈴。歳は違うものの普通に話せた。正直楽しかった。入れ替わっても、だ。これが友達というやつか?
「雫、さん?帰りますよ」
「う、うん…」
美鈴の話し方難しいな。
「今日も家に?」
「駄目…かな?」
「このことってなんていうんですか?」
「居候かな」
居候というのか。私も友達ができたらやってみたいな。
「今日は美鈴ちゃんが料理?」
料理を作る?そんなこと考えたことなかったな。
「楽しいの?」
「美鈴ちゃんみたいにうまくなりたいな」
美鈴は上手いのか。包丁で手を切りそうだ。私たちの世界では包丁を人に向けて使ってくるやつが多いからな。あまり握りたくないな。
私は料理したこともないんだ。まあ、美鈴の料理センスが染み付いてるから作れないことはないのか。
野菜を切っていく。本来包丁は凶器じゃなくて野菜を切る道具だということを忘れるところだったな。
当たり前のように食べていたが結構作るのは大変なんだな。
美鈴の料理センスによって私が作り上げた食べ物は野菜を焼いた食べ物。名前がわからない。
「野菜炒めだね」
野菜炒めというのか。魚も肉もない。私には合わないだろうな。と思ったが、美鈴の料理センスが一級品なのか美味しかった。魚とはまた違うおいしさ。美鈴の体だからなのか?どうせなら私の、美亜自身の体でこの野菜炒めを食べてみたかったな。
美鈴に料理を教わろう。これは普通なのか?私はもっと普通が知りたい。でも、それ以上にこの体から戻りたい。
宮口華南さん。貴方は誰とメッセージをしているのですか。そこは華南さんの一人部屋です。一人暮らしの華南さん。
「携帯にメッセージは…」
ありませんね、ほっとしました。あったら怖いですよ。
気づきませんでしたが机の下にPCがありました。開いてみます。
「そういうことですか…貴方はどこまで狂ってるんですか…」
結論から言うと生徒会長は生徒会長とメッセージのやり取りをしていました。自分で自分に携帯とPCで送受信していたんです。一方は生徒会長の口調で、そしてもう一方は、もうここには…。
最後のやり取りは昨日の夜11時。つまりこの時間までは入れ替わっていなかった。私と雫さんは寝ていましたね。
クマのぬいぐるみに意思があるなんて思いましたが置き位置は変わっていませんでしたね。
「貴方にとっての友達は一人だけですか、貴方はその方に何かあったと知ったとき、どうするんですか?」
そろそろ生徒会終わるかなー。来た来たー。
「お疲れー結ちゃん」
「お疲れ様ですね、家わかるのですか?」
「うん、会えたからね」
美鈴ちゃんは結ちゃんとあたし二人に乗り移ってることになるけどまあいっか。
「なるほど、こっちの道ですか。横断歩道がありますね」
「そうだねー」
「わたくしはこっちからでも帰れるのでいいですが懐かしいですね横断歩道とは、わたくしは苦手ですが」
「電車とかがほとんどだもんねー。それにしても嫌だなぁ」
「何がですか?」
「あの屋敷に行きたくないよー、元のあたしに戻って元に戻ってる結ちゃんといたいよー」
「そういうことですか、強くない華南に戻っても心配ですけどね」
「あたしは強いよ!美亜ちゃんの体じゃないあたしの体でもね」
「わたくしがいないと何もできないくせによく言えますね」
「結ちゃんがいなくてもあたしは強いよ、その気になればね」
「その言葉を信じてみましょうか、そろそろお別れですね。空北美鈴がいるから大丈夫なんでしょうね」
「ねぇ結ちゃん?それどういう意味?」
「三年生でわかる人間とわからない人間がいます。残念ながらわたくしはよく意味が分かってませんがどうせなら空北美鈴がいなくても大丈夫になってほしいですね」
「うん、分かった。結ちゃんとの約束だからね。意味は分からないけどあたしは空北美鈴がいなくても大丈夫って約束する」
「なら安心ですね、わたくしはあっちなんで。さようなら、華南さん」
「うん、じゃーねー」
空北美鈴がいるから安心する。結ちゃん曰く三年生の中でも知ってる人と知らない人がいたのかー。
ガサガサ声が聞こえる。風かな?
「あの赤髪、見つけたぜ美亜ー」
いきなり凶器を持って男が三人。うわぁ、怖いなぁ。美亜ってそういえばあたしか。あたしは結ちゃんと約束しちゃったしまさかここで助けを呼ぶなんてことしないよー。それに今のあたしは美亜ちゃんの力があるからねー。でも暴力振るうのはどうなのかなー。
「逃げよーっと」
「お前さえ仕留めれば、お前さえ仕留めれば」
新たに二人追加、合計五人。美亜ちゃん速いなぁ。逃げるのは得意だからねー。
あれ?今の凶器を持った人間以上に恐ろしい存在から立ち向かわずに逃げ続けているのは誰だっただろう?
んん?美亜ちゃんの圧倒的以上の存在に守られていたのは誰だっただろう?
なんだろうこれ…おそらくヤクザ、不良と呼ばれるその連中以上の圧倒的存在なのは誰だっただろう?
よくわからないけどあたしは立ち向かってみた。その五人に。勝負は一瞬。美亜ちゃんの力により全員撃退した。でも何かを思い出したような気がする。
「ここでお前をやっとかないと和平が決まっちまうんだよ」
最後に現れたのは里区だー。この人苦手だなー。
「強さってのは力でも権力でもねぇ、心だ、今のお前なら俺でもやれるかもしれねぇ」
そうだった。あたしは逃げていたんだ。あらゆることから。
この残酷な現実に向き合わないといけないんだね。ありがとう。君はいい人じゃないかー。あたしという人間を救いに来たのはある意味姫路結でも空北美鈴でもない。片岡里区だ!
「美亜、お前の後ろにいる邪魔なやつを消してやる」
あたしはあくまで美亜ちゃんだ。
「ふん、邪魔なやつは成仏したぜ」
「言うようになれたな」
あたしは今、美亜ちゃんの思考とあたしの思考、二つの思考を兼ね備えた美亜ちゃん以上の存在になれた。でもそれも今日までだろうね。
これが強さ、前のあたしなら泣いていただろう。今のあたしには美亜ちゃんがついている。明日のあたしが本当のあたし。進化するか、退化するか。試される。
「明日、確かめさせてもらう」
里区はそれだけ言うと立ち去った。攻撃はしてこなかった。
玄関だ、もうこの程度何も怖くない。
「おかえりなさい。お嬢」
「頭をあげろ」
「お嬢、片岡の連中が和平を申し出てきましたがどうしますか」
「保留にしておけ」
今日のご飯は魚だ!
水族館、懐かしいね。あたしが魚を嫌いになったのも水族館が原因かもね。前までのあたしは魚は嫌いだった。でもこれからのあたしはもう魚を克服できるだろうね。
あたしは恐怖に打ち勝てた。
急に部下の一人が慌てながらあたしの元へと現れた。
「お嬢、大変です」
私は料理をしようと思い買い物に出かけていると黒服を着た人物に捕まってしまいました。
「な、なんですか?」
「お前、雄島といたやつだなぁ。それにその面、生徒会長だな。ちょっと来い」
私は数分気絶させられていたのか着いた先は大きな屋敷です。
「人質ですか、おそらく和平反対組の残党ですね、どうしましょう、お嬢」
「里区の指示じゃないな」
あれ、この声って、この容姿って、美亜さん?つまり中身は生徒会長?のはずなんですがこんな口調でしたっけ?もっとフレンドリーな気がしたんですけどね。
「なるほどな、空北美鈴がいるから大丈夫ってのはこういうことか」
私がいるから大丈夫?よくわかりませんが私は人質に取られてしまいました。
謎は解けた!空北美鈴がいるから大丈夫。それはここであたしの容姿の宮口華南が殺されても死ぬのは空北美鈴の魂。
「よく聞け残党。お前らは人の死を間近で見たことがあるか?」
「雄島の娘、その気になればこの生徒会長やってもいいんだぜ?俺たちは和平する気なんてねぇ」
ふーん、この人たちはまるで前のあたしみたいだ。あたしは構わず一歩ずつ踏み出す。
「危険です」
「私のことはいいので逃げてください。えーと生徒会ちょ、美亜さん?」
もしその人質がいなかったら?
もしあの時、水族館じゃなくて遊園地に行っていたらこうはならなかったのかなぁ。
「あたしは人一人とっくに殺してる存在だ、そんなもんでビビらねぇぜ」
あたしの黒服たちは脅しだと思って動揺していない。美鈴ちゃんと残党たちは少し動揺し始める。
美亜さんなのか生徒会長なのかわからない彼女は何を言っているのでしょう。
私は刃を首に向けられたまま胸ぐらをつかまれています。
「あたしは案外足には自信があってな、例えば足で相手を転ばせたりな。コツは足の裏を使うことだ」
このセリフ、もしかして私に言っている?確かに生徒会長は速いです。人質に取られることがわかっていたなら逃げられるスピードがあると自覚できる速さでした。
私が入れ替わっていないということはこの美亜さんは生徒会長。このセリフを私に言っているに賭けてみましょう。行動しないと始まらないときもありますから。
私は人質を取っている男の足を引っかけて思いっきり転ばせました。
「おい、お前」
生徒会長の速さならこのまま美亜さんのところまで逃げ込める。
捕まる前に美亜さん、生徒会長の元へ駆けつけました。
それからは美亜さんの一人演出。押さえてください、押さえてください、やりすぎです。
「お嬢、手抜きすぎじゃないですか」
え、あれで手抜いてたんですか?恐ろしい方ですね。
「おい、こいつはあたしの友達だ」
「お嬢に友達が?」
珍しいことなんでしょうか?
「今日はもう遅い、送ってやれ、車でな」
「あ、ありがとうございます。あの、どっちですか?」
「え?華南だよー」
「本物の美亜さんかと思いました」
こうして私は黒い車で家に届けられるのでした。今日は家から出ないほうがいいですね。
雫は寝たか。
「お姉ちゃん…」
ん?お兄ちゃんの聞き間違いか?確かこいつの兄は私らのせいで怪我を負って今はあってないらしかったな。
急にドアをドンドン叩く音がした。誰だこんな夜に。
「いるんだろ、雫」
もう夜だぞ、大声出すなこの男は何なんだ。私より年上っぽいな。
「なんだ、もう夜中だ、うるさい、です」
「俺だ、俺だよ」
知らねぇよ。
「雫の兄だ」
なるほど、雫を起こしたほうがいいのか?
「助けてくれ、匿ってくれ」
なんだ?私らの組が手出してんのか?
「おい見つけたぞ旗野。余計なことしてくれたな」
もう一人の男の声、里区か。
「ん?お前あの時の一年じゃねぇか」
「そうですけど、どうしたんですか?」
残念ながら美鈴の体では武力的に勝てない。
雫の兄を掴む里区。
「こいつが生徒会長を人質とか余計なこと考えやがって、まあ美亜に返り討ちにあったがな」
手出したのか、生徒会長。
「美亜さんが手を出したんですか?」
「いい具合に手を抜いてるけどな、俺がこいつをわからせた」
なんだよお前かよ。いい具合に手を抜いてるって、生徒会長も生徒会長で何者だ?私の扱いに慣れてきたのか?
「さて、こいつをどうしてやるか」
今の私はヤクザではない。規則なんてない。普通だ、自由だ。いろんな選択権がある。見逃す。雫を起こす。勝てない美鈴の体で里区に反抗する。里区に従う。話し合いで解決する。
今の私は美亜でありながらも美鈴でもある。そしてこの自由に選べる選択権の中でも美鈴という人物を私は実際になって見極めている。美鈴は作るのが得意だ。ならば作ってやる。
「三年前、あの事故を起こしたのは貴方たち片岡の連中ですよね?」
ん?違う、創るのが上手いのは美鈴じゃない。それにこれは全て本当の話。なぜ忘れていたんだ。時間が経つたびにみるみる思い出していく。
「待て、違う、あれは俺の運転手がやったことだ」
「もし思い出したら恨むでしょうね、隣にいる雫さんの兄も同様」
「悪いのは運転手だ…俺じゃない」
「責任逃れですか?私はあの方と友達なのですが?」
「なっ…こ、こいつ」
「あの時貴方が好きな方は誰でしたか?里区さん、言ってくださいよ」
雫の兄も気が付き始めた。
「なんで俺は忘れていたんだ…」
「里区さん、貴方も乗っていたのですよ?お前が変えてしまった…だからお前も変わってしまった」
なんで私は知っているんだ?私は遊園地組だったのに。
そうか、私は美鈴だからか。美鈴は水族館に行ったんだ、あの中学の遠足の日。見ていたんだ。おおよそ三年前。
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