第3話 矛盾

 小休憩に行く時間はなかったよ。ちょくちょく人が来るけどそんなに来ないね。まあ性格分からないから来ないほうが嬉しいんだけどね!

 テストを返されたけど40点、ひくっ!でも友達らしき人が言うにはいい点数だったねって、これが普通なの?最低80点は必要でしょ?

 狙い目の昼休み!この時を待っていた!あたしになって困ってる美亜ちゃんを救おう!

 ん?あの人は、あたしたちが頭を悩ませてる片岡里区だ。

 あたしは襟元を掴まれてしまった。正直怖いけど負ける気がしないのはなんでだろう?


「おい美亜、ん?堕ちた目だな。まだ今朝来た一年のやつのほうが好きな目をしていたな。いつもの俺のことはまるで眼中にないような目がまるでない」


 どうしよう、さんざん言われてるよ美亜ちゃん。でも正直負ける気がしないんだよね。でもあたしが手を出したらあたしが加害者、美亜ちゃんが加害者になっちゃうからねー。その前に。


「一年?三年じゃなくて?」


「お前が呼んだんだろ?青髪の一年」


 あたしになった美亜ちゃんが来たんじゃなくて青髪の一年が来た?おかしいなぁ。


「生徒会長は?」


「なんで生徒会長が来ないといけねぇんだよ」


 あれ?あたしは来てないのかぁ。


「なんかお前美亜って感じしないな。まだあの一年のほうが良かったな」


 特にあたしは突き飛ばされることもなく解放された。

 それより一年って誰だぁ。この件とは関係ないのかな?

 お、ちょうどいいところに。ご飯食べ終わったのかな?


「結ちゃん。美亜ちゃんどうだった?」


「頭を抱えてましたよ」


「それはそうだよね、いきなり入れ替わったら」


「あまり話しかけないでおきましたよ、ことがことですから」


「それが美亜ちゃんのためだよね、そういえば二年の二階の美術室に絵画飾ってるよね?美術部の」


「そうですが、それが何か?」


「うーん、気になっただけ、じゃあ向かおっか」


「行きましょう、三年生の教室へ」


 やっぱり気になるなぁ。美亜ちゃんの携帯の待ち受けを見つめる。これは間違いない!美術室の前で撮った画像だ!


「ねぇ、結ちゃん。美術室行ってもいいかな?」


「別に構いませんが」


 あたしと結ちゃんは美術室に向かった。

 あった、例の待ち受けにしていた作品だ。作品名はだいたい当たってた。さすがだね、あたし!

 つまりここで美亜ちゃんは撮ったと。なるほどね。

 待ち受けでは見えなかったけどこの作者の名前はっと。


「空北美鈴ちゃんかぁ、あれ?」


「あの髪が青い人ですね」


「ということは、結ちゃんはもともと知ってたってことかぁ」


「何がですか?」


「ねぇ君、結ちゃんじゃないでしょ?美鈴ちゃん?」


「バレましたか、そうですよ。私は空北美鈴。そして美鈴さんは結ちゃんです。私たちも入れ替わってたんですよ」


「今朝に青髪の一年が来たってことはもうそのころにはあたしと美亜ちゃんが入れ替わってることを知ってて美鈴ちゃん側はもう先に真相に到達してたってことでしょ?」


「そうですよ、もうお互いに知っています」


「あれ?でもじゃあなんであたしと美亜ちゃんが入れ替わったことを知ってるの?」


 おかしいな、何かがあってないんだよね。何が邪魔をしているんだろう?まだあたしが気づいていない何かがあるんだね。



 相談事か、悪くないな。これが友達ってやつなのか?私は今普通なのか?

 とはいっても相談内容が私が加害者過ぎて辛いな。


「なるほど、雄島勢力の人間にやられて兄が痛い目にあっていると」


 そうか、やられる側のことは考えたことなかったな。こんな罪のない人間まで知らないうちに苦しめる羽目になっていたのか。


「ならば私が何とかする」


「む、無理だよ…片岡家でも手が届かないほど強いのに」


「私に任せなさい、これが解決したら私が手を打つわ」


「これが解決したら?」


 そうか、これが解決したらと言われても雫にとっては無関係だろうな。

 私は普通に憧れていたのかもしれない。そして今世間一般の普通を体験しているのかもしれない。

 点数も高いな、60点。普通は60点が基本なのか?私には頑張っても40点行くか行かないかが限度だ。


「今日、美亜さんが来たでしょう?」


「え…美亜さんってあの雄島家の?」


「そう」


「生徒会長なら来たけど…」


 生徒会長?なんでここで生徒会長が出てくるんだ?私は美鈴と入れ替わってるんじゃないのか?まあ生徒会長は変というかおかしな生徒会長だからな。たまたま来たのかもな。もしかしてこの騒動生徒会長も関わってるのか?


「なにか生徒会長に変わりは?」


「そういえば…くまのぬいぐるみを持ってなかったような」


 生徒会長と言ったらぬいぐるみといってもいい。その生徒会長がぬいぐるみを持ってなかった?何か嫌な予感がするな。

 私は美鈴に、美鈴は私に入れ替わった理由はなんだ?あの時美鈴の描いた絵を撮ったから?もしあの時、美鈴ではなく雫の絵を撮っていたら私は雫になっていたのか?

 私の考えが正しいのなら解決法はある。私は今、空北美鈴だ。絵のセンスは美鈴並みにある。私が美鈴の描いた絵と同じ絵を絵を描いて私になった美鈴がその絵を写真で撮らせる。これで元に戻れる。あの人物にそこまでの影響力があったとは。そのために何としても自分の姿をした美鈴に会わないとな。



 生徒会長になってしまった私。三年生の教室。思ったより人が集まったりしないんですね。そういえば華南さん、変な生徒会長とか言われてますからね。

 ぬいぐるみもってこなくなったんだ?や、テストの点数見せて、と話しかけてくる人はいましたがさすが生徒会長。変な生徒会長でも95点。私には到底無理ですね。

 三年生での様々な話が耳に入ってきます。


「ねぇ、今日の朝あの跡取り娘、美亜って子が三年生の教室に殴り込みに来たらしいよ」


「え、手出したの?」


「いや、出してはないけど誰かを探してるみたいだった」


 美亜さん?美亜さんってあの美亜さんですよね?何かあったのでしょうか。


「それだけじゃないんだって、一年の美術部の子。あの人の絵を描いてる人だよ」


「あー、それでわかったわ。空北美鈴ね、あの人がどうしたの?」


「美亜みたいに今度は二年の教室に美亜さんを探しに来ましたって言ってたらしい」


「ほんと情報通だねー」


 あれ、おかしいですね。私の姿をした生徒会長なら三年生の教室に来るはずなのですがなぜ二年のそれに美亜さんに?


「生徒会長は元からおかしいから何を思ったのか一年の教室行ってたけど今日はあのぬいぐるみすら持ってきてないんだよね」


 そうです、私は一年生の教室に行きました。私という美鈴に会うために。

 もしかしてこの件に美亜さんまで関わってることになりませんか?


 美亜さんの登場により二つの可能性が見えてきました。まず一つ目。そもそも私と生徒会長二人だけの問題ではなく。

 私は生徒会長に、生徒会長は美亜さんに、美亜さんは私に入れ替わった。

 そしてもう一つの可能性は美亜さん登場により薄くなりました。ですが私は変な生徒会長です。多少の変な行動も冗談で誤魔化せるでしょう。演じるのも辛いんです。


「あの…」


「どうしたんですか?生徒会長」


「私は空北美鈴なんです!」


 生徒会長の変を利用させてもらいました。でもこれは事実なんです。笑いものにされるでしょうけどこれで生きやすくなります。あとは疑問が解けるかもしれません。


「なるほど、生徒会長。次はそうおかしくなりましたか。次はあの空北美鈴さんなんですね?生徒会長が、ですか?空北美鈴が、ですか?」


 三年生は冗談として受け取らなかった。この意味が分かりたくなくてもわかる気がする。

 おそらく、この質問には。


「空北美鈴です」


 と答えるべきだろう。

 私が考えているもう一つの可能性。生徒会長は様々な人格になり今回は私が選ばれた。生徒会長に性格そのものがないのです。だから生徒会長は避けられる。前の生徒会長の人格だった人は今はクマのぬいぐるみの中にいるのでしょう。次にあのぬいぐるみに閉じ込められるのはこの私。でも、この考えには穴があります。美亜さんが全く関係ない。そして何より前の生徒会長だった人格の人はどこにいるのか。


 昼休みが終わるチャイムが鳴ってしまいました。そういえば私は一年生じゃなくて生徒会長なんでしたね。上級生から行動を起こすべきでした。待っていても下級生になってしまった生徒会長は来ないわけですか。

 まだ放課後があります。放課後美術部の私は必ず美術室にいるでしょう。それに生徒会長も入れ替わった状態で帰るような真似はしないはずです。



 放課後、三人の少女は自分自身の姿をした人物に会うために動き出す。

 

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