第2話 変わる日常

 おはよー。といっても一人暮らしなんだけどねー。でもあたしにはクマのぬいぐるみがある。ない!ん?見慣れない光景。ここどこ?あれかな?拉致されたのかな?

 あたしは確か結ちゃんと別れてそのまま自分の家に帰った。間違いない!


「おはようございます、お嬢」


 うわ、なにこの人。いかにもマフィアって感じじゃん。あたし何やらかしたの?


「ご、ごめんなさい…」


「お嬢?」


 あれ、声が違う。あたしの声じゃない!


「あ…」


「え、どうしたんすか?」


 なんか黒服来てるけどあたしを襲ってくる気配はない?うーん、何かちっちゃくなった気がするんだよね。


「鏡…」


「鏡ですか?わかりました」


 あたしは鏡で自分の姿を見てみた。誰だこの赤髪!確かこの人は雄島勢力の跡取りと疑わしき人物、美亜ちゃんだ。なぜかあたしは美亜ちゃんになった。ということはあたしはあたしになった美亜ちゃんに会えばあたしは元の姿に戻れる。それまで美亜ちゃんを演じないとなんだけどどんなキャラなんだろう。


「飯ができました」


 ご、豪華か!朝から豪華だ。ごめんね美亜ちゃん。あたし朝三年くらいぶりに食べるよ。


「いただきまーす」


「お嬢?気分いいですね?」


 しまった!あたしは今美亜ちゃんだった、性格知らないけどそれっぽくふるまおう。バレたら殺されるよ、さっき拳銃見えたもん!


「あたしは魚が嫌いだよ」


「何言ってんすか、お嬢の大好物っすよね?」


 まさかの裏目に出た!あたしがここでバレて殺されるか、魚を食べるか、こんなところで苦手克服することになるとは。た、食べよう。見なければいいんだ!食べてしまえー!

 もぐり。ん?案外悪くない。美味しい。そうか、美亜ちゃんの体だから美味しいと感じるんだ。これなら食べられるじゃないか。

 何とか切り抜けられたー。学校も全部美亜ちゃんの私物かー。バレたら殺されそうだなぁ…。でも美亜ちゃんもあたしになってるってことだから同じことしてるわけだよね?おあいこだよね?

 家?というか屋敷だよねここ?結ちゃんに聞こう。そうだ、今は美亜ちゃんになってるから結ちゃんがいないんだ!ここがどこだかわからないよ、どうやって学校に行けば。


「お嬢、車出しますか?」


 ラッキー、どっちの方角歩けばいいかわからなかったんだよねー。美亜ちゃんっぽく。


「出してほしい!」


「珍しいっすね」


 あれ、いつもは車で行かないのかな?歩いているのかな?電車かな?ここどこかな?とか思ってたら着信だ!

 見ていいのかな?でも見ないと偽物ってバレちゃうよね?仕方ないよね?


「え…」


「どうかしましたか、お嬢。他の連中がやらかしましたか?」


 メールの内容は読んでなかった。


「いや、違うよ」


 あたしが驚いたのは携帯の待ち受け画面。絵だ、アートだ。あたしはその絵に引き込まれるように夢中になった。

 美亜ちゃんは絵が好きだった?それにこの絵…忘れるはずもない学校の絵。あたしには今、クマのぬいぐるみがない。だからあたしはこの携帯の待ち受け画面をクマのぬいぐるみのように大事にすることにした。

 ちなみにメールの内容は片岡組の一部分を潰したらしい。いや、潰しちゃ駄目でしょ。


 学校の校門に到着だ!


「お嬢、お気をつけて」


 帰り道は美亜ちゃんに聞こう。

 背後から何者かが迫る。あたしはその何者かに安心感を覚えた。


「おはよー結ちゃん、美亜ちゃんになっちゃったけど」


「おはようございます、どっちで呼べばいいのですか?」


「美亜がいいかな?」


「わかりました、美亜さん。ですがまさか姿を変えられるとはおかしなことになりましたね」


 結ちゃんはあたしが姿を変えてもあたしの味方。絶対にあたしを見つけ出してくれる親友だから。



 朝か、支度するか。ん?違和感を感じる。隣で寝てる短髪のやつは誰だ?

 夢か、夢だとわかる夢ってあったな。また寝るか。寝なおした。


「…ちゃん、朝だよ…」


 は?夢で出てきたやつがまた私に話しかけてくる。


「誰だお前」


「え…美鈴ちゃん、寝ぼけてるの?」


 空北美鈴。私はその人物を思い浮かべた。それに声も何というかいつもより女々しいというか高音になったというか。


「誰なんだ…」


「わたしだよ…旗野雫だよ」


 ここは現実世界か?そういえば美鈴の隣で今いる雫という人物が絵を描いていた気がしなくもない。美鈴の絵にしか興味がないからあまり気にしていなかったが。


「私は美鈴か?」


「そうだよ?大丈夫?」


 なんで美鈴の部屋にいる?違う、美鈴が雫の部屋に来たのか。こういうことをなんていうんだ?普通は当たり前なのか?

 私は美鈴を遠目に見ただけで絵を描いている姿だけ。美鈴を知らない。私は美鈴を想像で演じることにした。あの絵を思い出す。美鈴が描いていたあの絵を。


「学校の支度をしなさい」


「どうしたの美鈴ちゃん?」


 こんな性格じゃないのか。この声に合う性格か。難しいな。


「気分が悪いだけよ」


「う…うん、分かった」


 怖がってるな。美鈴は一年。美鈴も同じ状況になってるはずだ。私になってる美鈴に性格聞くか。もしかすると会うと治るかもしれない。


「学校に行くわよ」


「そう…だね」


 普通に話したいな。



 居心地がいいですね。なんでしょう。これは、クマのぬいぐるみ?

 それよりも雫は。その前にここは?


「この写真は見覚えが…えっ」


 嘘かと思うかもしれませんが私の声が変わっていました。この声は全校集会でいつも耳にする生徒会長、宮口華南さん。

 私の姿が宮口華南さんそのものになっていました。


「ということは生徒会長も私になっている?」


 この写真は生徒会長と確か姫路結さん。

 こういう場合は冷静に。携帯を見させてもらいましょう。私はメッセージを確認します。口調を真似るために。


「おかしい…この生徒会長は壊れている。それとも別人?」


 私からしてみればあり得ないそのやり取り。これは見てはいけないものを見てしまいましたね…。

 まさか生徒会長になった自分に恐怖するときが来るとは。

 このぬいぐるみはさすがに学校に持っていけませんが何かを感じます。持っていかなければならないのかもしれない。もしかするとこのぬいぐるみに何かあるのかもしれない。そして毎回毎回私のように同じく入れ替わってしまう。だから生徒会長は性格が存在せずおかしいと呼ばれていた?


「なるほど、真相が掴めましたよ」


 いつもぬいぐるみを持って行っている生徒会長。もし、私がこのぬいぐるみを持って行かなかったらどうなるのでしょう。


「このぬいぐるみに意思はあるのでしょうかね?」


 私はぬいぐるみを持って行かず学校に向かいました。メッセージ通りに待合場所で結さんをメッセージ通りギリギリまで待ってみましたが来ませんでした。

 結果的にメッセージ通り結さんが来ることはありませんでした。私は来なくてほっとしてますけどね。ですがこの姿になっている以上上級生の教室に入らないといけないのですよね?ですが私は今、実質生徒会長。一年生の私、美鈴に合うことも簡単でしょう。



 いやぁ、まさか入れ替わるなんてねぇ。結ちゃんがいてくれてよかった。

 あれ?なんで結ちゃんはあたしが入れ替わったことを知ってるんだろう?


「どうしましたか?美亜」


「何でもないよー」


「貴方は美亜なんですから二年の教室に行かないといけないですよ」


「あたしになってる美亜ちゃんとお話ししたい、多分美亜ちゃんも困ってるから」


「言われてみればそうですね、では一緒に行きましょうか?」


「そうしよう!」


 簡単なお題だね。あたしを見つければ解決、いろいろ見えてくるはずだからね!

 三年生のみんなあたしを見て怯えてるな、どうしたんだろう。


「貴方が美亜さんだからですよ」


「あ、なるほどー、三年生からしたらあの雄島家の美亜ちゃんが殴り込みに来たと思ってるわけだねー」


「周囲がざわついてますね」


「そうだねー」


 三年生が何かつぶやいているようだ。


「おい、おかしくないか?まるで人が入れ替わったかのように、それに生徒会長はどこだ?」


「なんで美亜さんが来てるんだろう」



 私は今、空北美鈴か。訳が分からないな。


「美鈴ちゃん…そっち上級生の教室だよ」


 そうか、雫に言っても信じないだろう。入れ替わったなんて。


「私は用事がある人がいるわ」


「そ、そうなんだ…じゃあまた後から話そうね」


「うん、そうだな」


 美鈴となっている私は私自身、美亜となっている美鈴の元へ向かう。

 いつもなら怖がられるが今回は真逆だ。その中でも向かってくるやつがいる。里区だ。


「面倒くさいな」


 どちらにしても美鈴は里区に手を出されることになる。美鈴に忠告の意味合いも兼ねてるからな。


「お前一年だろ、ん?なかなか面白い目をしてるな」


 私は美鈴だからな。今回は暴力沙汰になっても勝ち目がない。私に力がないということは美鈴には私の力も乗り移ってるということだ。里区を返り討ちにする可能性がある。私は隠したかったんだけどな。


「この目…俺の同級生に似てるな。まるで俺を相手にすらしてないような目。お前、ただものじゃないな。どこに行く気だ?」


 一応私は美鈴だから里区の後輩か。敬語使っとくか。


「美亜さんのところだ、です」


「お前、美亜とどういう関係だ。下の連中か?」


 めんどくさいな、私は今は美亜じゃない。美鈴の体では里区に勝ち目がない。


「そうです」


 里区は私を突き飛ばした。


「好きにしろ」


「いたっ」


 ダメージもいつもの私とは比べ物にならないほどある。でも何とか里区から抜け出したな。下級生にも容赦ないやつだな。


「美亜さんはどこですか?」


 よく私に話しかけてくる世の中しらずの生徒に聞いた。


「まだ来てないけど美亜ちゃんに何か用事?」


「はい」


「伝えておくよ」


「言えません」


 仕方ない、待つか。



 私は今生徒会長。生徒の中でも一番の権力を持つ存在になってしまったようです。

 それ以上に生徒会長の恐ろしき真相まで私は知ってしまいました。変な生徒会長どころではありません。この生徒会長は狂っています。


「あの、華南生徒会長。ここは一年です」


 私はメッセージの文章を思い出して話します。演技力が試されますね。


「あたしは美鈴ちゃんに会いたいんだよねー」


「空北美鈴さんですか?おかしいですね、雫ちゃんが来ているのに、休みですかね」


「じゃあ雫ちゃん呼んできてくれるかなー?」


「はい、わかりました」


 数分後、雫です。いつも通り、ではなさそうですね。


「雫さん、ではなく雫ちゃん。私知らないかなー?」


「え…はい?」


 素で間違えました。


「美鈴ちゃん知らないかなー?」


「上級生の誰かはわかりませんけど用事がある人がいるみたいでした」


 入れ違いになりましたか。相手のことも考えるべきでした。待ってればよかったんですね。


 

 チャイムの音が鳴ってしまう。


 華南は美亜に

 美亜は美鈴に

 美鈴は華南に


 会えなかった。

 彼女たちは何としても会わなければならない。

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