入れ替わり少女

@sorano_alice

第1話 いつもの日常

 昼休み、夏休みも終わり秋ごろ、3年生クラスの高校では様々な会話があった。


「ねぇねぇ知ってるー?3年前の事件」


「あー、あれね、忘れるわけないよ。事故が起きて車に轢かれて死んじゃったんだよね…」


「あの事故がなければあんな変な生徒会長、宮口華南(みやぐち かなん)は生まれなかったんじゃないかなぁ」


 彼女たちが見たその先にはオレンジのロングの髪をした少女、彼女は生徒会長らしい。ぬいぐるみが好きなのかクマのぬいぐるみを持ち歩いている。



 あたしは3年生生徒会長宮口華南。今日もいつも通りの学校だ。前にはあたしの唯一の友達、いや、親友といってもいい、お姫様のような外見、黒髪のその姫路結(ひめじ ゆい)ちゃん。日傘が似合いそうだ。今度日傘させたい!コスプレもさせたい!


「結ちゃん結ちゃん」


「なんですか、華南さん」


「生徒会の仕事終わったらお店行こう!」


「行きませんよ、だいたい誰のおかげで生徒会長になれたと思ってるんですか?」


「まあまあそういわずにー」


 あたしは生徒会長だけど結ちゃんは議長で仕事もしっかりとこなしてくれる理想の友人だ。

 なぜか他のクラスメイトはあたしと結ちゃんから距離を置かれるけどなんでだろう?


「だいたい生徒会長にもなってぬいぐるみなんて持ってこないでください」


「あたしにはこれがないと生きていけないの!毎日、夜も、このぬいぐるみを結ちゃんだと思って抱きしめて寝てるからね」


「聞いたわたくしが馬鹿でした、忘れたいですね…そういうところですよ、引かれるのは、もう少しわたくし離れしてください。わたくしがいなかったらどうするのですか」


「そんなことはあり得ない」


 結ちゃんは親友だ。結ちゃんがいなくなるなんてありえない。あたしの心がある限り。


「でも問題はあれだよねー、二年の男子の、誰だっけ?」


「片岡里区(かたおか りく)さんですね」


 片岡里区、彼は男にしては長い方の髪で赤く染めていて片岡組の権力者。あたしにはよくわからないけどヤクザだ。それでも、それよりも強い勢力が結ちゃん曰くいるらしい。結ちゃんは物知りだなぁ。


「雄島家、確か雄島舞亜(ゆうじま みあ)さん、彼女はあまり学校で問題行動などは見られませんが片岡勢力よりも雄島勢力のほうが推していますね、それくらいしかわかりません」


 確かあまり話に上がらないけど美亜っていう人物は赤いロングの少女でヤクザの跡取り娘らしいけどあたしはよくわからない。暴力を振るった報告は生徒会長のあたしの元にも美亜に関しては届いていないからね。もしかしてあたし生徒会長として信用されてないとか?


「ふーん、美亜っていう子か。里区に関しては散々学校で問題行動起こしてるけど美亜って子は心当たりないなぁ。苗字が被っただけじゃない?」


「そうなんですよね、美亜さんは問題行動を起こした報告は来てないんですよ。因縁があってもおかしくないはずなのですが」



 ここは二年クラス。私は雄島美亜だ。私に近づく存在は少ない。なぜなら私はこの学校で最強の人物、片岡里区という男の片岡勢力の上を行く雄島勢力の娘だからだ。表上里区が一番強いことになっているが私と里区の争いを知っている者はまず私と里区に近づかない。そして私、雄島家のことを知らないやつがやってきた。


「あ、美亜ちゃん、今日一緒に帰ろ?」


 私はいつも通り引き離す。


「いや、今日は用事があるからな」


「えー、今日も?美亜ちゃんのお家見たいなぁ」


「いつか見れるさ、あー忙しい忙しい、またなー」


 私は自ら突き放す。私と関わるとロクなことはない。何より私はこの事実を隠したい。だが世の中はそう簡単にはできていない。学校で粋がる里区が私の前にやってきた。生徒たちは不安そうに見ている。このまま突き放していなければさっきのヤツは被害を受けていただろう。私の襟元を掴み里区は怒りをあらわにしてきた。私は抵抗しない。この強さを隠したいんだからな。


「おい雄島…また俺の組がやられたんだけどな」


「そうか…」


「どうしてくれんだぁ?」


 里区は私を突き飛ばした。私は突き飛ばされといた。


「痛いなぁ」


「お前は俺に手が出ねぇのか出せねぇのかどっちなんだ」


「さぁな」


「イラつくぜ」


 それだけ言うと里区はどこかへ立ち去った。


「大丈夫美亜ちゃん」


「ああ、大丈夫だ」


 私は作り笑いで返しておいた。



 特に友達を作らない私は普通がわからない。堅気になれ、と親がいたころ言われた。それは何だろうか。ふといつもの絵画で足が止まる。言われてみれば私の友達はこの絵画かもな。様々な美術部の絵画が飾られる中一つの作品に吸い込まれる。その絵画の作者は一年生の空北美鈴(そらきた みすず)。気になって美術部に立ち寄りその人物を見に行ったことがあった。立ち寄ったとき描いていたその絵で青い短い髪の金の瞳の少女こそ空北美鈴なのだとわかった。いつも同じ絵を描いている。私とは住む世界が違うのは一目瞭然。お淑やかな彼女こそ堅気と呼ばれる存在なのだろうか。その絵画を一枚写真で撮った。



 ここは一年クラス。私は空北美鈴。私には特に才能はなく、テストの点数は平均並み、運動は平均以下、部活は美術部ですが私の絵は評価されず、それでも友達と呼ばれる存在はここにいます。ですが私は友達の相談すら解決することができない無力な人間。

 私の友達、旗野雫(はたの しずく)さん。外見は黒髪で短髪のスポーツガールに見える彼女ですがどちらかというと私と同じくあまり話すタイプではなく私と同じ美術部。

 雫さんの相談、それは最初は断っていましたが少しずつ心を開いてくれて私に持ちかけた相談、雫さんの兄は片岡里区さんと呼ばれる片岡勢力の一人であって雄島美亜さん、雄島勢力のグループに敗北し大きなダメージを負い、家計が支えきれないほどの入院費をつぎ込んで雫さんの家計が危ないという状況。


「こんなことを美鈴ちゃんに言っても困るよね…えへへ…」


 笑ってごまかそうとするも私は知ってしまった以上解決しなければ罪悪感に苛まれてしまいます。


「もし、もし私が強ければ…」


「え?どうしたの…?美鈴ちゃん?」


 いえ、この考えはやめましょう。もし、私が仮に誰にでも勝てる存在だとしても私は暴力を振るえません。なぜなら罪悪感に支配されるから。

 ですが暴力という力ではなく権力という力を手に入れた時、私はどんな行動を起こすのでしょう。



 放課後、生徒会の仕事だ。書類をかたずけて結ちゃんも頑張っている。書記が勝手に結ちゃんの書類を横取りした。


「あー、それ私やっておきますね」


 あれ、もしかして結ちゃんと書記って仲悪い?あれれー。


「あれ?君たち仲悪いの?」


「いえいえ、仲良くしていきたいですよ」


 あー、なるほど。気を遣ってたのかー。


「生徒会長、あとは副会長たちに任せてください。議長もお疲れ様です」


 もちろんあたしと結ちゃんが仲がいいのは生徒会全員が知っている。あたしたちってそんなに信用されてないのかなー。


「生徒会長、横断歩道を渡るときは右を向いて左を向いてまた右を見るんですよ」


 会計に酷いことを言われた。絶対馬鹿にしてる。


「ねぇ君、あたしのこと馬鹿にしてるよね?」


「いえいえまさか、まあ議長がついているので大丈夫でしょう」


「ひどくない?ちょっとあたしのこと舐めすぎでしょ」


「まあいいではないですか、守りますよ、華南さんは」


 いや、結ちゃん。会計に合わせなくていいから。あたしのこと馬鹿にしすぎ!

 

「あたしが結ちゃんを守る側なの!」


「なるほど、華南さんが守ってくれるんですか?なら強さがないと守れませんよ?」


「ぐぬぬ…」


 あたしは決して強くない。もし、片岡里区みたいな人間が現れたら結ちゃんとあたし二人がかりでも勝てない。逃げれてラッキーくらいだ。


「じゃあもし強ければ守れたのかなぁ?」


「強くなってみればいいじゃないですか」


 なぜかあたしと結ちゃんの会話に違和感を覚えたあたしだ。



 美術部。私は憧れの絵を、雫さんも絵を描いています。

 雫さんはこのままでは住むのも一苦労、学校にも払うお金が無くなってしまう。雄島勢力がどういったものかわかりませんが治療が終わった後もまた手を出されて同じ目にあったら今度こそ雫さんは。


「美鈴ちゃん…どうしたの?」


「いえいえ、何でもないですよ、雫さん」


 権力。この学校で一番の権力者は校長、そして教師、次は?生徒会長。


「生徒会長って…」


「生徒会長?あ、あの変な生徒会長だね」


 私たちの学校の生徒会長、宮口華南さんは雫さんまでもが変と言ってしまうほどおかしい生徒会長で有名です。


「華南生徒会長が変なのならば私も変なのでしょうね」


「そんなことはないと思うけど…なんであの人が生徒会長なのかわたしには謎かな…」


「他に…誰がいるというのですか!」


「え…どうしたの、美鈴ちゃん」


 私はなぜか声を荒らげてしまったようです。その私の行動に自分自身が違和感を覚えることになるとは。



 私は屋敷に戻った。今日も空北美鈴は描いていたな。黒服の連中たちが出迎える。


「おかえりなさいませ、お嬢」


「顔をあげろ」


「はっ、おい、お前ら顔をあげろ」


「それで?」


「はい、また片岡の連中が騒ぎ起こしてたみたいなんで始末しました」


「そうか、下手に動かすなよ」


「承知いたしました」


 いつものように帰ってあの絵画について考える。空北美鈴。あの絵画こそ私が目指す存在なのかもしれない。帰宅部じゃなくて、美術部にでも入っておくんだったな。よく、顔も覚えてない親に読んでもらった本に出てきていたな。あれが堅気の象徴か?なぜ私は空北美鈴の作品に執着するんだ?私は自分の執着心に違和感を覚えた。



 ある日、少女は思った。強い人物になってみたいと。

 ある日、少女は思った。普通という存在になってみたいと。

 ある日、少女は思った。権力を持ってみたいと。



 歯車が動き出す。










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