第51話 ダブルデートにダンを誘う
さあ、あとはダンを王宮舞踏会に誘うだけである。
けれど、やはり声はかけにくい。
マジックライトの時、ダンスパートナーにクリスを選んでから、ダンとはまともに話をしていない。
そりゃ、良い気はしていないだろう。
ダンは私と踊るためにマジックライトにわざわざ出場して、そのダンを私は断ったんだから。
でも気合い入れてダンを誘わなきゃ。
なんたってミミの恋愛を成就させるためなのだから。
ミミっていつも明るくて、男の子にとても人気がある。
そんなミミが自分では声もかけられないくらいダンのことを好きになってしまっている。
友人として、力を貸さないわけにはいかない。
私は重い足を引きずりながら階段を上り、大学事務局に向かった。
扉を開けて事務局の中を進んでいく。
辺りを見回し、ダンがどこにいるのか探る。
するとスッと席を立ち上がりこちらに向かってくる男性がいた。
ダンだった。
ダンは何もかもを包んでしまいそうな優しい笑顔を向けながら私に近づいてくる。
「やあ、アナスタシア、どうしたんだい?」
「ちょっと、相談があってきたんです」
ダンから話しかけてくれる。私の気持ちを楽にしてくれている。
「君から相談なんて、ちょっとうれしいよ。で、何だい?」
「実は……」
私は、王宮舞踏会に招待を受けていることを説明した。
そして、クリスやミミと一緒に出席してくれないかとたずねる。
「うん、喜んで行くよ」
ダンはあっけなくそう返事をした。
まるで、私がこの相談をもちかけることを事前に分かっていたかのような応じ方だった。
「ありがとう」
私はそう言うと、事務局を後にした。
行きと違って、帰りは足取りが軽かった。
※ ※ ※
(ダンside)
ダンは事務局の席に座り、ある瞬間をじっと待っていた。
アナスタシアがこの事務局に来るのを、じっと待っていたのだった。
ミミの話では、おそらく今日来るはずだった。
来たら、満面の笑みで迎えよう、ダンはそう心に決めていた。
正直にいえば、マジックライトの際、アナスタシアが自分を選んでくれなかった事に対して、複雑な思いが残っているのは事実だった。
しかし、その複雑な思いの元は、アナスタシアへの恋心が原因だとよく分かっている。
結局僕は、まだアナスタシアのことをあきらめられずにいるんだ。
ダンがそんなことを考えていると、大学事務局の入口の扉が開いた。
開くと同時に、外からのまぶしい光が入り込んできているような錯覚にとらわれた。
そんな錯覚を抱くには理由があった。
扉の開いた先にアナスタシアが立っていたからだった。
ダンが待ち焦がれていたアナスタシアが、ついに事務局にやってきたのだった。
ミミからの話では、アナスタシアは王宮舞踏会に行く相談をしてくるはずだった。
王宮舞踏会。はじめにミミからそんな話を聞いた時、あまりに突拍子もない内容だったため、すぐに信じることが出来なかった。
パルナール王子がアナスタシアのことを気に入っているなんて。
で、その好意を断るためにクリスを連れて行くと言っている。
ダンはこう思っていた。
人間関係、うまくいくときもあれば、そうでないときもある。
アナスタシアとクリスがこれからもずっと仲良くやっていくわけがない。
ミミの話では、もう亀裂が入りかけているらしい。
チャンスだった。
もう一度アナスタシアに近づくチャンスだった。
アナスタシアに近づき、クリスとの関係が破談した時、僕が彼女をなぐさめればいい。
そうすれば彼女は僕になびいてくる可能性が出てくるわけだ。
僕はまだあきらめていない。
アナスタシアと結婚を前提に付き合うのはこの僕だ。
そのためには、クリスとの関係を何としてでも壊さなければならない。
ダンはそう思いながらアナスタシアが事務局に来るのをじっと待っていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます