第48話 王宮舞踏会に誘われる

 パルナール王子は私に対して何か思うところでもあるのかしら?

 そんな妄想が頭をよぎりはじめた。


 だって、またお城に来るように言われたんだから……。


 なぜか馬車が迎えに来て、お城へと向かった。

 お城に着くと、今度の案内人はこれでもかというくらい愛想の良い人だった。

 通された部屋は……。


 シャンデリアが輝き、豪華な調度品が置かれている不思議な空間。

 なんだか、異国にでも来てしまっている感じがする。


「やあアナスタシア、急に呼び出したりして申し訳ない」

 王子は満面の笑みで私を出迎えてくれた。


「いえ……」

 私はおっかなびっくりである。

 美容ポーションのことでパルナール王子の機嫌は損ねていない。そのことは分かっている。

 けれど、相手は一国の王子である。

 もし何か失礼なことをしてしまったらとんでもないことになってしまう。

 私は貴族でもない、ただの町娘なんだから。


「何か私に不手際でもありましたでしょうか?」


「いや、そうじゃないんだ」

 王子はそう言うと、次に予想もしない言葉を口にした。


「実は、私は、君のことが気になって仕方がないんだ」


「えっ?」

 思わず声がもれた。


「いや、アナスタシアの笑顔が、なぜか私の頭から離れないんだ。これはどうしてかなと思って、迷惑なことを承知で君をこの城に呼んだんだ」


 私の笑顔が頭から離れないから呼んだ?

 なにそれ?

 恋心?

 いやいやいや、ありえないでしょ。

 私の頭の中に、以前ミミが話した言葉が流れてきた。


『あなたは男の人を狂わす魔性の女なのよ』


 そんなことって……。

 パルナール王子に好かれてしまっている。

 でも、これって王子の一時的な思い違いみたいなものよね。

 だって、王子、私のことほとんど何も知らないんだから。

 何回か会って話しただけで、気になるだなんて言われても……。


「どうして私なんかのことを……。王子は私を誤解されていると思います。世の中には私よりもきれいな女性はたくさんいますし、私の心だって決して清らかではありませんから」


 なんとかして私のことをあきらめてもらわなければ。

 何しろ私は世ずれして汚れてしまった女なんだから。

 パルナール王子がその事実を知れば、私は打首にでもなってしまう存在なのだから。


「アナスタシアは、今付き合っている男性などいますか?」


 は?

 一瞬、クリスの顔が浮かんできた。

 でも、違う。

 クリスとはお付き合いしているつもりはない。

 私は一人で生きていくと決めているんだから。

 けれど。

 そうだ!

 またクリスを使わせてもらおう。

 オーウェンの時のように、クリスに協力してもらおう。


「はい、実はお付き合いしている男性がいます」


「ほう、アナスタシアと付き合えるなんて、そんな幸せな男性がいるのですね」

 パルナール王子は明らかに落胆している様子だった。

「誰ですか?」


「えっ?」


「そのお付き合いされている男性というのは誰なんですか?」


 私はあせった。

 ここでクリスの名前を出してもいいものだろうか?

 相手は一国の王子である。クリスが王子に恨みを買われることにはならないだろうか?


 そんな私の気持ちを見越してか、王子はこう言った。

「大丈夫だよアナスタシア。その男の人に迷惑をかけるつもりはないよ。ただ、君がまた変な男にだまされていないのか心配ではあるけれど」


 また変な男。

 そうだった。パルナール王子は知っているんだった。私がミカエルなんかと付き合っていたことを。

 それを知りながら、王子は私に興味を持たれているんだ。

 どうしてだろう。

 王子は軽い気持ちなのかな。

 とりあえず、最初にはっきり断らなくてはいけないことだけは間違いない。

 悪いけどクリス、名前を出させてもらうね。


「私がお付き合いしている男性はクリスといいます。カサ魔法大学の学生で昔からの知り合いです」


「そうか。魔法大学生か」

 パルナール王子はそうつぶやくと、こんなことを口にした。

「だったら、一度、その男性を私に紹介してください。クリス君が、アナスタシアにふさわしい男かどうか、私に判断させてもらえないでしょうか?」


 また、オーウェンと同じようなことになってきた。

 オーウェンの時はうまくいったけど、今回は大丈夫だろうか?

 何しろ相手は子供ではなく、一国の王子なんだから。


「今度、この城で王宮舞踏会が開かれます。そこに君たちを招待するよ。是非クリス君と一緒に出席してもらえないかな。あと、よければ他にお友達を連れてきても構わないから」

 パルナール王子はそんなことを言ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る