第43話 お城に行くことに

「それはそうとアナスタシア」

 聖女フローリアは改まった口調で言った。

「パルナール王子が、あなたに会って話を聞きたいと言っています」


「パルナール王子が?」

 突然、とんでもない名前が出てきてびっくりしてしまった。

 平民の私が、王子と?


「あなたが関わっている美容ポーションについて直接話を聞きたいと言われています。ですから、今から私とお城まで行きますよ」


「えっ? 今からですか?」


「そう今からです。パルナール王子を待たせるわけにはいきませんでしょ」

 聖女フローリアはそう言うと体の向きを反転させた。年齢の割には素早い身のこなしだ。

「あちらに馬車を待たせてあります。急ぐわよ」


 ば、馬車?

 大層な話しになってきた。

 勘弁してほしい。


 少し歩くと、木陰に本物の馬車が止められてあった。

 すぐさま天蓋付きの客車に乗せられる。


 いったいどこに座ればいいのだろうか?

 フローリアと隣り合う席では失礼な気がする。私が進行方向を向いていても駄目だろう。だったら進行方向とは逆向きでフローリアと向かい合う形で座るしかない。

 とりあえず私は、回らない頭でそれだけのことを必死で判断した。そして進行方向とは逆の席に座った。

 フローリアは、あせる私の姿を向かい合う席で楽しそうに眺めている。

「私もはじめて王族用の馬車に乗った時は、あなたと同じようにバタバタしてましたよ」


 私、バタバタしてたんだ。

 言われて初めて気づく。


 馬車が動き出す。思ったより体がゆれることはなかった。

 王族用とあって、さぞ上等の馬車なのだろう。

 ただ、こうしてじっと座っていると緊張が高まるばかりだった。

 黙って座っていても仕方がない。

 こうなったら、思っていることを話してみよう。


「あの、フローリア様、パルナール王子は、やっぱり私のことを怒っているのでしょうか?」


「どうしてそう思うの?」


「だって、フローリア様も、私が美容ポーションに関わっていることを良くないと仰ってましたので……」


「そうね、王子も美容ポーションについてはいろいろ思うところがあるみたいよ」


 やっぱりだ。

 美容ポーションについて否定的な考えをお持ちなんだ。

 だから、私は連れられているんだ。

 ということは、最悪私、囚われたりしてしまうのだろうか?

 私、そんなに悪いことしていないつもりだけど。

 粗悪品の美容ポーションを売り物になるように魔法をかけただけなんだけど。

 それって、悪いことなのだろうか?

 いろんなことが心配になってきた。


「さあ、着いたわよ」

 気がつけばお城に到着していた。


 フローリアは飛び跳ねるように客車から降りていく。

 やはり、お年の割にお元気な人だ。

 私はこわごわと地面に立つ。


 見上げれば、石造りの巨大な建造物が私の前にそびえ立っていた。


 どうしてただの町民娘が、こんなところに連れてこられたのだろう。

 私は恐る恐る足を前に動かし、お城の中へと入っていった。

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