第41話 ミミの言葉

 放課後、ミミが話しかけてくる。


「ねえ、どうしてダブルデートできないのよ」


「……うん。私、クリスと付き合っているわけではないから」


「えー! 付き合ってないの!」

 ミミの大きな声で、他の学生たちがこちらを向く。

「ああ、ごめんごめん」

 ミミは声をひそめた。


「私とクリスは、デートなんかしたことないし」


「デートって、あなたたちいつも一緒にいるじゃない」


「……」


「食事とかも二人で行くんでしょ」


「……うん」


「それ、間違いなくデートというものよ」


「違う、デートではないよミミ。私はクリスとは付き合う資格のない女なの。それに、私は男なんかいらないし、これからも一人で生きていくって決めてるから」


「なに訳のわからないこと言ってるの。世の中にはね、男と女しかいないのよ。男と女は自然と磁石がひっつくように惹かれ合うものなのよ」


「とりあえず、私はクリスとデートできる資格なんてない女なの」


「じゃあ、いいわ。四人じゃなくてもいい。それならアナスタシア、あなたがエサになってダンさんを私のもとに引っ掛けてきてちょうだい。私に出会いのチャンスを与えてちょうだい」

 ミミはいつもの人懐っこい笑顔でけっこう怖いことを言ってきた。


「でも、私にそんなことできるかしら?」


「アナスタシアって自分のことがほんとによく分かっていないのね。あなたは男の人を狂わす魔性の女なのよ」

 ミミは冗談ぽくそう言うが、私はその言葉にグサッとくる。


 私は男の人を狂わすんだ。

 やはり、クリスに愛される資格などない。

 それに、まだ子供だけど、オーウェンの人生も狂わせてしまっているし……。あの子も一応男だしね。私と結婚したいなんて言ってきたことあるし……。


「ねえアナスタシア」

 ミミは私の気持ちも知らずに話を続ける。

「私って、清純そうに見えるかな?」


「清純?」と私。


「そう、清純」


「なにそれ?」


「ダンさんって、きっと女性に清純を求めるタイプだと思うの。いや、ダンさんだけではないわ。男は真剣に付き合おうとする女性には清純を求めるものなのよ。男はそういう生き物よ」

 ミミは自分の言葉に頷きながら話している。


 私は黙って聞いている。


 ミミは真面目な顔をして言う。

「私、清純そうに見えるかな?」


「実際はどうなの? ミミは清らかな心の持ち主なの?」


 ミミはため息をつきながら言う。

「いや実は……、そういうわけでもないんだよね。これでも隠さなければいけない過去がいろいろあるんだよね」


「実は私もそうなのよ」

 私は何も考えず、反射的にそう言ってしまった。


「なに、やっぱり清純そうに見えるアナスタシアにもいろいろあるのね。面白そうだから教えてよ」

 急に元気を取り戻したミミ。


 そんなこと言えないよ。

 私は逃げるようにして席を立ち上がり、ミミにあいさつをすませて帰宅の途についた。


 どんよりと曇った空が今の私の心を映し出していた。

 心のなかに重たいものが漂っている。

 私、ミミが言うように清純そうに見えているのかな。

 だとすれば、それはニセモノの私だわ。


 そんなことを考えているとき、ある女性が声をかけてきた。

「あなたがアナスタシアね」

 その女性は、けっこうお年を召されていたが、ただ者ではない威圧を感じさせるたたずまいをしていた。


「どなたですか?」

 私は迫力に押されながらそうたずねた。


「私の名前はフローリア、聖女フローリアです」


 聖女様……。

 私はその場で固まってしまった。

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