第35話 そのころミカエルは4
(ミカエルside)
どういうことだ?
ミカエルは思った。
そして、その疑問を口にした。
「なぜ、アナスタシアはオーウェン君の部屋にいたんだろう?」
オーウェンは答えにくそうな顔をしている。
「大丈夫だ。私は君のパートナーになる人物だ。隠し事無しで教えてくれないか?」
「……」
オーウェンはまだ言いよどんでいる。
「約束するよ。君やアナスタシアに迷惑をかけることはないよ。これから私たちは一緒に商売をする間柄なんだ。どういう関係なのか教えてほしい」
「実は……」
オーウェンはようやく口を開いた。
子供に何かを喋らすのは簡単なことだ。
ミカエルは内心ほくそ笑みながらオーウェンの話を聞く。
「実は、アナ姉から美容ポーションを仕入れているんだ」
「仕入れている?」
「仕入れるというか、本当はもらっているんだけど。アナ姉の魔法でよみがえらせた美容ポーションをもらって、僕はそれを売っているんです」
「アナスタシア……、魔法……」
ミカエルは唖然としながらオーウェンの話を聞く。
いろいろなことが頭に浮かんできた。
やはり、アナスタシアは魔法が使えるのか。
だったら。
あの時、ギルド酒場で聞いた話は……。
この町に聖女候補がいる……。
名前は、アナスタシア・イワノフ……。
間違いなかった。
聖女候補のアナスタシアとは、俺様が知っているアナスタシアに違いない。
俺が結婚を約束して付き合い、後に結婚話を破談にして別れたあの女だ。
やはり俺は、とんでもない高級魚を逃してしまったんだ!
「美容ポーションを魔法でよみがえらせると言ったが、そこのところを詳しく教えてくれないかな?」
「でも……」
「これは、商売にかかわる大切なことなんだよ。ちゃんと教えてほしい」
「僕が話して、アナ姉に迷惑がかかることはない?」
「大丈夫だ。アナスタシアに迷惑なんてかかるわけないよ。それにここでの話は私とオーウェン君との間だけの秘密だ。決して外にはもらさないから安心して」
オーウェンの話は驚くべきものだった。
使い物にならない劣化した美容ポーションを仕入れて、それをアナスタシアが魔法で復活させているというのだ。
そんなこと……。
「そんなこと、本当にできるのか?」
「僕もはじめて見た時は、とても信じられなかったよ。しかも、そうやって復活させた美容ポーションは、どこのものより高品質なんだから」
そうだ。
オーウェンの売る美容ポーションは今までにない品質だ。
だから、俺様はこんなガキ相手に商売の話をしているのだ。
そうか、そういうことなんだ。
全てはアナスタシアの力だったということか。
やはりアナスタシアは想像を絶する力を持った魔法使いなんだ。
確定だ。
聖女候補はアナスタシアのことだ。
しかし、いったい、いつから魔法を使うようになったんだ?
そんなことを考えていると、オーウェンが思いもよらないことを話してきた。
「ただ、もうアナ姉から美容ポーションをもらうのは終わりなんだ」
「な、なんだって?」
「アナ姉とは、僕の借金がなくなるまでという約束で譲ってもらっているんだから」
「じゃあ、私たちで出す予定の店には、今の高級美容ポーションは手に入らないということか?」
「うん。これからは正規のルートで良い商品を仕入れて売るつもりだよ」
ば、ばかな!
あの美容ポーションが手に入らないのなら、こんなクソガキに用はない。
「なんとか、これからもアナスタシアの美容ポーションを手に入れることはできないだろうか?」
「それは、無理だよ。最初からの約束だから。アナ姉はあまり美容ポーションのことを良くは思っていないんだ。良いものを求めて破産してしまう人がいるのが気になるんだって言っていた」
「そうか。でも、はっきり言わせてもらうよ。もし、あの美容ポーションが手に入らなかったら、オーウェン君と店を始めるという話は無しにする」
「えっ? 無しにする?」
「そうだ。あの高級美容ポーションが手に入らないのなら、この話は無しだ」
「そ、そんな……」
「だから、オーウェン君、なんとしてでもアナスタシアから美容ポーションをもらえるように、あの女を説得しろ。それが私と店を始めるための条件だ」
ミカエルは今まで隠していた強い語調を使い、そうオーウェンに言ったのだった。
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