第27話 優勝者が決まる
「ついに出てきたわよ。優勝候補が」
マルシアを見ながらミミが興奮した口調で言う。
会場中の人々が、前年優勝者のマルシアを注目する。
「やっぱり、貫禄があるわね。慌てた様子がぜんぜんない」
ミミは感心していた。
「ほんと、どうしてあんなに落ち着いていられるのだろう」
「自分に絶対の自信をもっているのね」
うらやましい。
泥棒猫扱いされたのは腹が立つけど、マルシアの立ち姿には人の目を釘付けにする力を持っている。
美人でスタイルもよく、それでいて魔法の実力も兼ね備えている。私なんかよりずっと魅力的な女性。
そのマルシアが私を睨みつけるようにして立っている。
そんなに私を意識する必要はもうないのよ。
もう私、マジックライトなんかできる魔力は残っていないから。
今年の優勝も、マルシア、あなたのものだから。
そしてクリスとダンスを踊るのはあなたよ。
私は心のなかでそうつぶやく。
司会の合図でマルシアが両手を広げる。
蝶のような羽が広がっていく。
いや、羽なんかではない。
それは、7色の虹を思わせる色とりどりの光の組み合わせだった。
虹の光が辺りに広がっていく。
「うわっ」
生徒たちから感嘆の声があがる。
「美しい! 美しすぎる!」
虹が広がり、空気に波ができると光がカーテンのように揺らめいていった。
力があり、華やかで艶やかな光がマルシアの体から放出されていく。
誰の目にも明らかだった。
これまでで一番魅力的な輝き。
シーンと静まった中で司会者の声が響いた。
「さあ、点数は?」
空間にエモーショナルセンサーの得点が表示される。
「93点! 今日始めて出ました90点台です!」
今までの最高得点を叩き出したマルシアだが、特に喜ぶ様子もなくその場で静かに立っている。
そして、私に顔を向けると、またもやじっと視線を合わせてきた。
きつい視線だった。
まだクリスのことで私を意識しているのだろうか。
私は一人で生きていくんだから、そんな心配しなくてもいいのに。
「さあ、次はアナスタシア、あなたよ」
ミミが私を促す。
「私は棄権するわ。もう自分を輝かせる魔力なんか、これっぽっちも残っていないわ」
「大丈夫よアナスタシア。あなたが私たちにヒールをかけてくれたおかげで、力を使い果たしていることくらいみんな分かっているわ。誰もあなたに勝ってほしいなんて思っていない。ただ、あなたがみんなの前に姿を見せてくれるだけでいいのよ」
そんなものなの?
私は姿を見せるだけでいいの?
でも、みんな期待しているのでしょ。
特待生がどんな素晴らしい光を放つのか。
でも、私なんて駄目。
もともと黒魔法は使えないし、魔力もほぼゼロだし。
このまま、何もなかったことにしてちょうだい。
そう思っている時だった。
司会者が私を見て声を張り上げた。
「さあ、女性部門のラストは今日の主賓かつ私たちの救世主でもあるアナスタシアです!」
講堂内がしーんと静まった。
だが次の瞬間、洪水のように溢れ出した拍手が私をのみ込んでいった。
えっ、なに?
どうして、みんな割れんばかりの拍手をしているの?
「さあ、アナスタシア、みんながあなたに会いたがっているわよ」
ミミがうれしそうな顔でつぶやく。
「アナスタシア、勝負なんてどうでもいいよ。今の君をみんなに表現するだけで充分だから」
ダンも私の背中を後押しする。
仕方がない。
こんなにみんなが拍手してくれているんだ。
期待外れで申し訳ないけど、とりあえず形だけでも参加しよう。
私は重い体を引きずって、会場の真ん中に進んだ。
早く終わらせて、さっさと帰ってこよう。
そんな気持ちだった。
「さあ、アナスタシア、はじめてください」
司会者がそう声をかけてきた。
私はミミに教わったように両手を大きく広げた。
私が知っているただ一つの黒魔法。
「ブリザード!」
この魔法で自分の体を輝かせる。
さあ、もう何も残っていない私の魔力だけど、わずかでも体を発光させて。
それで、無様だけど、私のマジックライトを終わらせて。
そんなことを考えている時だった。
遠くから聞き慣れた男性の声が聞こえてきた。
……クリスだった。
「アナスタシア、相乗効果だ! 白魔法を混ぜてみろ!」
白魔法を混ぜる?
もう魔力が残っていないよ。
そうつぶやきながら、私は残りのすべてを得意の白魔法でかけ合わせた。
「ストラスファクター!」
白魔法を唱えるならこの術式を使いたい。
私の体がほのかに白く輝きはじめた。
もう何も残っていない魔力からの発光で、力強さのかけらもない光だった。
もやっとした白い光がやわらかく講堂内に広がっていく。
黒魔術と白魔術、いつもクリスが教えてくれるかけ合わせの秘伝術。
「すてき!」
学生の一人が声をあげた。
「なんてやわらかい光なんだ。そしてこの心地よさは何なんだ!」
心地よさ、それは私の得意な白魔法の力だよね。
でも、私の魔力、ほんの少ししか残ってないんだ。
黒魔法の隠し味程度の白魔法。
これが限界。
そんなことを考えている時、驚くべきことが起こりはじめた。
講堂中の人々が私を祝福するかのように、光の粒子を私に注ぎ込みはじめたのだ。
私の体がみんなの力に助けられながら輝きを増していく。
何?
何が起こっているの?
そう感じている間にも私の体は輝きを増強させていく。
「そうよアナスタシア、そのままみんなで作った光を広げていくのよ!」
ミミの言葉だった。
白い光がやわらかい雪のように降り積もっていった。
「素敵だ! なんて素敵な光なんだ!」
「こんな光、見たこともない! 何もかもが喜びにあふれている。こんなに気持ちよくさせる光ははじめてだ!」
「生命の光よ。この光は、生き物に必要な生きる力を恵んでくれているものよ。こんな光に敵うものなどないわ!」
私だけの力ではない。
この光は、みんなの光だった。
みんながそれぞれに生きようとする光。
私はみんなの力に支えられながら、自分の体を灯し続ける。
白色の高原が広がり、場内が最高潮に盛り上がった時、司会者が思い出したかのような声をあげた。
「あっ、そうでした。あまりの素晴らしさに我を忘れていました……。さあ、得点です。エモーショナルセンサーは一体何点を表示するのでしょうか!」
空間に、けむりの文字が現れはじめた。
でも正直、得点なんてどうでもよかった。
これは、私一人の力ではないのだから。
ここにいるみんなの力を借りて発光しているだけなのだから。
だって、私は魔力を使い切ってしまい、何も出来ない状態をみんなに助けてもらっているだけだから。
「えっ? なんと……」
司会者が絶句した。
「得点が出ました……。アナスタシアの得点は……、なんと99点です!」
会場が拍手で揺れはじめた。
もう何がなんだかわからないような割れんばかりの拍手が会場をのみ込んでいく。
「し、信じられません! 99点は過去に誰もたたき出したことのない、史上最高の得点です!」
そう話す司会者の声だが、それはすぐに大歓声でかき消されてしまった。
誰もが喜びに満ちた声でその得点を祝ってくれている。
素晴らしいのは私ではない。
ここにいるすべての人の生命力が手を結んだ結果なのだ。
私はそんな世界の中心にいさせてもらっているだけだった。
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