第26話 マジックライト

 レッドドラゴンが暴れまわり荒れ果ててしまった会場で、パーティーは続行することになった。

 希望者だけで続けようということになったが、帰る人は誰もいなかった。


 あんな恐ろしいことが起こった後なのに、みんな歓迎会を続けようとしている。

 私を歓迎しようとしてくれているんだ。

 そう考えると、うれしい気持ちになる。この場にこうしていられることがうれしい。


 けれど、今の私はこうしてここで立っいるのがやっと。

 すべてを出し切った回復術のせいで疲れ果ててしまっている。

 本当はパーティーを抜けさせてもらって、体を休めたいのが正直な気持ちだった。

 でも。

 私を祝うパーティーで私が抜けるわけにはいかない。


 とりあえずどこかに座ってゆっくりしたいな。

 そう思っているときだった。

 ダンが声をかけてくれた。


「アナスタシア、疲れているだろう。主催者に椅子を用意してもらったから、ここで休みなよ」


 うれしい。

 ダンは私の気持ちを察してくれたんだ。


 向こうではクリスが、主催者の男性と何やら相談している。

 男性は何度もうなずくと、参加者たちに向かい声をあげた。


「みんな、残ってくれてありがとう! けれど、レッドドラゴンの乱入があり、中には疲れてしまっている人も大勢いるはずです。ですから、パーティーは早めに切り上げようと思います」


 そういえばクリスは鑑定眼をもっている。

 彼は知っているのかもしれない。

 今の私は魔力を完全に使い切ってしまい、何もない空っぽな状態で疲れ果ててしまっていることを。


「さっそくですが、これからメインのマジックライト競技に移ります。我々を救った特待生のアナスタシアに感謝の意を込めて、私たちの光で彼女を照らそうではありませんか!」


 うぉーと会場から地響きのような歓声があがった。


 みんな、これを楽しみにしているんだもんね。

 誰が一番美しく輝くことができるか。

 エリート魔法大学の学生なら、ここぞとばかりに力が入る競技よね。


 司会の男性が、マジックライトの開会を宣言し、競技の説明を始める。

 参加者は魔力を使って自分の体を輝かせること。

 それを審査員がエモーショナルセンサーで得点化し優勝者を決める。

 男女それぞれの優勝者が二人でダンスをして、みんなを光で照らす。

 こういう流れだった。


 ダンと一緒に練習したマジックライトだったが、今ではどうでもよくなってしまっていた。

 精も根も尽き果ててしまっている。

 みんなの美しい光を鑑賞させてもらおう。

 例えクリスとマルシアが踊ることになってもいい。

 こうして、みんなが生きていて、笑っておしゃべりすることができるだけで充分だ。


 競技はスピーディーに進んでいった。

 競技参加者が会場の中央に立ち、自らをランプのように輝かせる。

 エモーショナルセンサーの得点が空間に浮かび上がり表示される。


 ほとんどが70点前後の得点だった。

 たまに80点を超える人がいると、会場がおおっと盛り上がる。


「アナスタシア、次は私の番よ。見ていてね」

 ミミがそう言うと会場の中央に向かう。


「ミミちゃーん!」

 男子学生たちの声が飛んだ。


 声援をくれた学生たちに向かって、ミミは投げキッスをする。

 ほんと、明るい子。


 だが、しばらくするとミミの表情が変わる。

 真剣そのものの顔になる。


 場内もしんと静まり返った。


 ミミは両手を広げ、会場の空気を腕の中に包み込む。


「ハッ!」

 小さく声をあげた。

 ミミの体が光を帯びはじめた。


 あの時と一緒だ。

 練習の時と同じオレンジ色の光。

 美しい。

 照明が落とされた場内で、ほおずきのようにやわらかい光が広がっていく。


「わー、すてき」

 どこからか女生徒の声がもれ聞こえてきた。


 場内のいたるところで感嘆の声がもれた。


「さあ、これは期待できます。得点は何点でしょうか?」

 場内の感動に呼応するように、司会の男性が声を張り上げた。


 空間に、煙の線で作られたような数字が浮かび上がってきた。


 89点。


「出ました、これまでの最高得点です!」

 司会者の興奮した声が響き渡った。


 ミミが嬉しさのあまりその場で飛び跳ねる。

 そのまま弾けたピンポン玉のようになりながら、私たちのもとに戻ってきた。


「やったわよアナスタシア」


「すごいわね」


「このままなら優勝よ。このままならクリスかダンと最後にダンスを踊るのは私だわ」

 半分冗談なんだろう。いたずらっぽい表情でミミは私を見ている。


 笑顔いっぱいのミミだったが、会場に目を向けると表情が一変した。引き締まった真面目な顔になる。


「さあ、出てきたわよ。優勝候補が」

 ミミはそう言って私に目配せする。


 会場に現れたのは、昨年優勝者のマルシアだった。

 マルシアは舞台中央に立つと、キリッとした顔を私に向けてきた。

 強い視線をこちらに向けてくる。

 どことなく怒っているような様子だ。

 なにしろマルシアは私のことをこう言ったのだから。


「泥棒猫」と。

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