第25話 自分でも信じられない

 講堂の中で、フラフラと立ち上がった生徒たち。

 だが、自分たちに何が起こったのかよくわかっていない。


「アナスタシアよ! アナスタシアがみんなを救ったのよ!」

 レッドドラゴンの攻撃を運良くまぬがれ、一部始終を見ていた生徒がそう声をあげた。


「えっ? 私たちを救ってくれたのは、あの聖女候補のアナスタシアなの?」


「そうよ。私はすべてを見ていたわ。もう死んでいるはずの生徒たちを奇跡のようによみがえらせたのよ」


「そんなことが可能なのか?」


「わからない。可能かどうかなんてわからない。けれど、不可能と思われることが実際に起こっているのよ」


 生徒たちが驚きの声をあげている中、ミミが私に駆けよってきた。


「アナスタシア、本当にあなたはなんてすばらしい人なの。間違いないわ、こんなことができるんだもの。次の聖女はあなたしかいないわ」


 私はミミのそんな言葉をうわの空で聞いていた。


 自分でもわからなかった。

 どうして、こんなことができたのだろう。

 多くの人を一度によみがえらせるなんて、桜の木を生き返らせるのとは訳が違う。

 自分でしたことが未だに受け入れられない。

 なんなのこれは?

 本当にこんなことを私がしたというの?


「アナスタシア」

 いつの間にか、クリスがそばにいた。

「倒れている時、微かに見えたよ、君の輝いている姿が。あの光は、とても言葉では表現できない美しさだった。すべての人に生気を与える神の光だったよ」


「クリス、違うの。今のは私であって私でないの。自分ではない力が自然と湧き上がってきたのよ」

 私自身、まだ混乱しているのだろう。

 浮かんできた言葉をそのままクリスに伝えた。


「確かに、アナスタシアの力は次元を超えたものだった。俺の知っているアナスタシアとは別の何かが乗り移ったかのような凄みを感じたよ。でも、その力は間違いなくアナスタシア、君が持っている力なんだ。君にしか持つことができない力なんだよ」


「クリス、私、自分でもよくわからない。こんな自分……、なんだかとても怖い気分なのよ」


「大丈夫だアナスタシア、怖がらなくてもいいよ。どんな力を持っていようとも君は君だ。それでも何か怖いことがあるというのなら、そのときは俺が……、俺がきみのそばにいて、君を守りたい。俺に君を守らせてほしいんだ」


「守らせてほしい?」

 レッドドラゴンの光線を防いでくれたクリスの姿が浮かんできた。


「ああ、これは俺の一方的で勝手な願いなんだけど……」


 そんな言葉、簡単に言っていいの?

 マルシアが悲しむよ。

 そんな言葉、簡単に言わないで……。

 今の私、あなたの言葉を素直に受け取ることができないのだから……。


 レッドドラゴンはすでに姿を消していたが、まだ講堂内は魔物が存在していた不気味さが漂っている。

 そんな得体のしれない空気の中、主催者の一人がクリスに声をかけてきた。


「この状態なら、もう歓迎パーティーは中止するしかありませんね」


「残念だけど、そうするしかないね」

 クリスが返事をした。


 けれど、その声を遮るように話す人がいた。

 ミミだった。

「やりましょう!」

 ミミは言った。

「アナスタシアの歓迎パーティーよ。みんなで彼女を歓迎しましょうよ!」


 その言葉が、波のようにみんなに広がっていった。


「やろう。パーティーをやろうじゃないか」


「ああ、彼女の歓迎会だ。やらない道理なんてない」


「私たちの命の恩人よ。歓迎しないわけにはいかないでしょ」


 やがて生徒たちの間から、どこからともなく拍手が沸き起こってきた。

 拍手の音量は、どんどんと大きいものへと変わっていく。

 その大音量の中心に、私は立っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る