第24話 モンスター襲来
講堂内に現れた真っ黒なホール。
逃げ惑う生徒たち。
「あれは!」
一人の学生がホールに向かい指をさした。
黒いホールの中から怪しげな物体が浮かんできた。
「ドラゴンだ! ……しかも、小型だけど、あれは、レッドドラゴンだぞ!」
突如現れたレッドドラゴンは講堂内を飛び回りはじめた。
なんてこと。
いくら小型とはいえ、レッドドラゴンは最上位モンスター。
とても、人間が敵う相手ではない。
それにここは講堂の中、逃げるための出口は限られている。
案の定、出口に殺到する生徒たちが立ち往生している。
「アナスタシア、ここは危険だ、とりあえず物陰にかくれよう」
ダンが私の手をとり、走り出した。
その時だった。
ドラゴンの目が閃光し、光を放出した。
「きゃー!」
女性の叫び声が聞こえてきた。
光線に撃たれた人々が次々と倒れていく。
大声をあげながら逃げ惑う人々を一瞬にしてドラゴンの光が呑み込んでいく。
講堂内は、狂乱状態となった。
「だめよ。どこにも隠れるところなんかないわ」
私はダンに向かってそう叫んだ。
フラッシュのように光が放たれ、次々と倒れていく生徒たち。
もう半数以上の生徒が講堂の床に倒れている。
ピクリとも動かないその状態から、最悪の事態を想像してしまう。
その時だった。
ドラゴンの目が私の目と合った。
次の瞬間、光が放出されたのがわかった。
瞬時に、もうだめだと感じた。
ドラゴンの光線を防ぐことなどできないことはよくわかっている。
あっという間の人生だった。
そんな思いが頭によぎった。
えっ?
私の前に人の姿があった。
それは、まさに壁となって、私をドラゴンの光線から守っている。
どうして?
どうして、あなたがこんなところにいるの?
いつから私のそばにいたの?
私の壁になってくれていたのは、クリスだった。
クリスが私を覆うように前に立ち、ドラゴンの光線を防いでいたのだ。
「クリス!」
そう叫んだ時、ゆっくりとクリスは床に倒れていった。
「クリス!」
彼の体をゆすってみたが、まったく動く気配はない。
こんなことって……。
クリスは私を守るために……。
その後も、レッドドラゴンは空中を飛び回り、散々光線をまき散らしていった。
どのくらいの時間が流れたのだろうか。
やがて、その獰猛なモンスターは、新たに出現したホールの中にすっと入りこむと、あっという間に姿を消し去った。
暴れまわったモンスターは、何かの気まぐれのようにあっさりとその姿を消し去ったのだった。
無数の生徒たちが倒れて動けなくなっている。
生き残っている者は、私を含め数えるほどしかいない。
まさに、地獄絵図だった。
こんなことって……。
何もかもが一瞬にして壊れてしまった。
ぼう然と立ち尽くす私。
そんな私に、ある思いが芽生えてくる。
ヒールを使おう。
無駄かもしれない……。けど、わずかでも息のある人たちの役に立つかもしれない。
私にできることは白魔法を使うことだけ。
何もしないより、何かをするしかない。
私は両手を広げて、講堂に倒れる人々からもれ出ている『気』をため込んだ。
いくら白魔法でも死んだ人をよみがえらせることはできないと言われている。
けれど、何もない枝から、葉や花を咲かせることはできる。
「ストラスファクター!」
私のとっておきの術式を唱える。
もちろん、これも……。
「ブリザード!」
クリスから教わった黒魔法。
クリス……。
お願いクリス、私にまたあの元気な姿を見せて!
その瞬間、想像を超えた大量の『気』が私の中に入り込んできた。
あっ!
思わず心のなかで声をあげた。
今までにない力が自分の中にため込まれている。
何が起こっているの?
はじめての経験に恐怖を感じた。
でも、ここでヒールを止めるわけにはいかない。
私は両手を広げ、回復術を唱え続けた。
私の体が、白く輝きはじめた。
やがてその光は、やわらかい霧となって講堂内に充満していく。
自分が自分でないような感覚だった。
何が起こっているのか、まったくわからない。
「美しい! なんて美しい光なんだ!」
生き残った生徒が思わず声をもらした。
「こんな美しい光は、今まで見たことがない」
すると……。
床に倒れて全く動かなくなった人々が、ゆっくりと体を動かしはじめる。
種から芽が出た植物が双葉を開くように、倒れた人々が体を起こしはじめた。
「奇跡だ! 奇跡が起こっている!」
その光景を見た生徒が感動の声をあげている。
私の光はどんどんと明るさを増していく。やがては倒れていたすべての人々が、床から体を起こしはじめた。
私の横で倒れていたクリスも、今や二本の足でしっかりと立ち上がっている。
死んだと思われた人々全員が、完全に復活したのだった。
「女神だ……。こんなことができるのは、女神様しかいない……」
生徒の一人がぼう然とつぶやいていた。
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