第23話 特待生歓迎パーティー

 正直言って昨夜はあまり眠れなかった。

 今日行われる特待生歓迎パーティーのことが気になってしまったのだ。

 眠い。

 授業中はなんとか目を開けることだけに集中する。

 しかし、不思議なことに、授業が終わり放課後になると、眠気はすっかりおさまっていた。


「アナスタシア、ついにこの日が来たね」

 隣に座るミミが、いつもの人懐っこい笑顔を向けてきた。


「正直、マジックライトのことを考えるだけで緊張する。私って弱い女ね」

 なぜかミミには、偽りのない気持ちが伝えられるんだよね。

 ほんと、ミミは人を素直にさせる独特の雰囲気を持っている。


「大丈夫よ。あれはあくまで遊びだから」


 遊びでも……。

 昨年勝ったのは、特待生のクリスと、エリートが集まる4Aクラスの主席であるマルシア。

 そして二人はみんなの前でダンスを踊ったんだ……。

 二人の光が学生たちを魅了したんだ……。

 今年もそうなることをみんな楽しみにしている。

 ミミは言っていた。

 クリスとマルシアのダンスはとても素敵だったと。


「それはそうと……」

 ミミの口が開いた。

「最近、結界が破られることが多くなってきたわね」


「この前も突然ゲレーロが襲ってきたし」

 私も同意する。


「そうよ。昔はこんなことなかったわ。今の聖女様の力が落ちてきているのかな」


「うん、だいぶお年を召されてきているから……」


「じゃあ、早く世代交代してあげないとね、アナスタシア」

 ミミなりに気を使ってプレッシャーにならないように言ってくれているのだろうけど……。


「ミミ、あくまで私はたくさんいる聖女候補の中の一人よ。実際に聖女になるのは、もっともっと力のある人だわ。マジックライトで優勝もできない私が聖女になれるわけないでしょ」


「まだ、優勝できないと決まってないけど」


「あなたも言ってたでしょ。優勝するのはマルシアだって」


「そんなこと言ったかな」

 ミミは笑顔を崩さずに言った。

「さあ、会場の大講堂へ向かいましょう」


 飛び跳ねるように歩くミミの後ろを、私は重い足取りでついていく。

 周りを見れば、他の学生も続々と大講堂の中に入っていく。


 私たちが講堂の中に入った瞬間、わっと声があがった。


 注目されている。


 どこからか声が聞こえてくる。


「あの人が、聖女候補の特待生よ」

「不可能と言われていた試験をクリアした人だね」

「いったいどんな光を見せてくれるのかしら、楽しみだわ」


 みんな私のことを見ている。

 緊張で足がすくんでくる。

 だめ、ここから逃げ出したい。


 そう思っている時だった。


「やあ、アナスタシア」

 そう声をかけてくる人物がいた。

 ダンだった。

 彼が私に近づいてきたとき、スッとミミが私から離れていった。

「マジックライトまでは演奏会の予定だから、一緒に聴こうよ。ここの楽団、結構すごいんだよ」


 ダンは気になっていないのだろうか?

 周りの視線が私たち二人に集中してしまっていることを。

 みんな私たちが二人で練習していたことを知っている……。

 ああ、考えすぎだ。

 私が思っているほど、周囲は私のことなんかに注目していない。

 自意識過剰だわ、私。

 そう思っても、周囲の目がどうしても気になってしまう。

 弱い私だわ……。


「ダン、正直に言うと私、もうフラフラよ。恥をかくのは覚悟しているんだけど、やっぱり緊張して昨日もよく眠れなかったんだから」


「そうなんだ」

 いつものやさしい笑顔を見せてくれる。


 この笑顔に女性はやられてしまうんだろうな。


 そんな時、生徒の一人が大きな声をあげた。

 悲鳴に近い叫び声だった。


「結界が破られている!」


 見れば、講堂上部の空間が歪んでいる。

 その歪みから、真っ黒なホールが出現しはじめた。


「モンスターが……、モンスターが現れるぞ! みんな逃げるんだ!」


 講堂内は騒然としはじめた。

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