第22話 クリスの返事

 大学の廊下を一人で歩いていた。

 階段を降りていくと、前から一人の生徒が昇ってくる。

 マルシアだった。

 マルシアは、私を見ると一瞬立ち止まった。

 表情は変わらないが、動揺しているようにも見える。

 どことなく気まずい雰囲気だったので、私は軽く会釈をして彼女の横を通り過ぎようとした。

 するとマルシアは私に聞こえるような小声でこう言ったのだった。

「アナスタシア、あまり私とクリスの周りをウロウロしないでね」


 私は足を止めた。


 マルシアは私をにらみつけてきた。

「あなたは、自分が何をしているのかわかっているの? 泥棒猫とはあなたのような人のことを言うのよ」


 私はマルシアの言葉に驚いてしまい、何も言い返せずにいる。


「マジックライト、楽しみね。私は手を抜くつもりはないから。昨年もクリスと踊ったのは私よ。もちろん、今年も私がクリスと踊ることになるはずだから」


 マルシアはそれだけ言うと、私から顔をそむけ、そのまま階段を昇っていった。


 気を取り直し、私も階段を降りていく。

 黒魔法の苦手な私。

 今のままではとてもマジックライトで優勝などできそうにないし、するつもりもなかった。

 目の前で、マルシアとクリスが微笑み合いながら踊る姿が目に浮かんでくる。

 みんな、その姿を見てこう思うんだろうな。

 お似合いの二人だと。

 マルシアは私なんかよりずっと綺麗だしスタイルも良いし……。


「やあ、どうしたんだい?」

 ぼんやり廊下を歩いていると、そこには驚くべき人物が立っていた。

 クリスだった。

 クリスの声が突然耳に入ってきたので、正直私は驚いてしまった。


 なんだか、こうして二人で話すのは久しぶりのような気がする。

 二人で話したのはいつだったかな。

 そうだ。

 大学生活の二日目、クリスが私を待っていてくれて二人で登校したんだ。

 そこで話していたら、突然マルシアが現れて、クリスはマルシアと二人で歩きだした。

 嫌な思い出……。


「ねえ、アナスタシア」


「なに?」

 私はあえてそっけなく返事をした。


「前に聞かれた質問にちゃんと答えてなくて、それがずっと気になっていて。今、答えてもいいかな?」


「質問てなに? そんなことしたかな?」

 あえて触れないようにした。


「したよ。ほら、あの、俺がマルシアと付き合っているのかって聞いてきたじゃない。あの返事をちゃんとしてなかったと思って。今、答えてもいいかな」


「ああ、その話ね。その話ならもういいの。別に聞きたくもないから」


「でも……」


「いいの、聞きたくないし」


 マルシアの言葉が私の中でこだまする。


 ──二人っきりで夜を過ごすような仲なのよ──


 よくそんな仲で私のことを好きだなんて言えたものだ。

 私に対してもマルシアに対しても失礼なことよ。


 私は逃げるようにして、クリスの前から離れていったのだった。

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