第19話 助かるのか
ミミが校庭のすみへと走っていった。人だかりができていた。
その中をかき分け、私たちは進んだ。
マルシアが地面に倒れ、その周りを三人の大人が囲んでいる。
三人は白魔道士の教師たちで、その中の一人は担任のカミラ先生だった。
「マルシアは大丈夫ですか?」
ミミの問いに、三人の誰もすぐには答えない。
やがてカミラ先生が言った。
「だめだわ。私たちの力ではどうにもならない。残念だけど……」
倒れているマリシアは全く動かなかった。ただ、倒れて間もないため、まだ血色は悪くない。
今なら……。
今なら、もしかしたら。
私は先生たちに言った。
「私にやらせてもらえませんか?」
「アナスタシアね」
カミラ先生が私を見る。
「ただ、いくらアナスタシアの回復術でもこの状態では無理よ。もうあきらめるしかないわ」
「無理かもわかりません。けれど、今なら、もしかしたら……」
そう言うと私の足は自然と前に出ていた。
「先生たち、少し離れてください!」
自然とそんな言葉が私の口から出た。
「先生、アナスタシアにやらせてあげてください!」
後ろでクリスも声をあげた。
きっとマルシアのことが心配なのね。そんな思いがよぎった。けれど、今はそんな邪念を振り払わないと。
「お願いアナスタシア、マルシアを助けてちょうだい!」
ミミの声が届く。
急がなければ、もう先生に許可を得ている時間なんてない。
そう思った私は、足下に魔法陣をすばやく張った。
青白い幾何学的な文様が浮かびだす。
私の迫力に押されたのだろうか。
先生たちがマルシアから離れる。
魔力を貯めなくては。
けれど、時間がない。
ギリギリのところで試すしかない。
うまくいくのだろうか?
しゃしゃり出ずに、何もしないほうが無難だったのでは?
マルシアとの関係が最悪な状態で、私が割って入ってよかったのだろうか?
自信がないためか、否定的な思いが浮かんでくる。
そんな時、私の耳に声が届く。
「大丈夫だ! アナスタシアならできる! 自信を持つんだ!」
クリスの声だった。
いつも私を助けてくれたあの声だ。
けれど、今この声はマルシアのために……。
そう考えていた時、自分の中でのタイムリミットが来た。
これ以上時間は引き伸ばせない。
もう、やるしかない!
「ストラスファクター!」
私のとっておきの術式。
これで桜の木に花を咲かせたんだ。
青白い光がマルシアを覆っていく。
でも、このままじゃ駄目。
魔力が足りていない。
私にはこの技がある。
白魔法に黒魔法をかけるとっておきの技。
「ブリザード!」
クリスに教えてもらった黒魔法。
これが私にできる回復術のすべて。
さあ、マルシア、起きて!
あとはあなた自身の力を使うしかないのよ!
自分の力で立ち上がって!
そう念じた時だった。
青白く光っていたマルシアの体が、よりいっそう強い光を放ちはじめた。
「すごい、すごい魔力だ」
周囲の生徒たちから声がもれた。
しばらくすると、マルシアの目がうっすらと開いた。
「マルシア、マルシア、聞こえる! 戻ってきて! こちらの世界に戻ってきて!」
私は彼女に届くように声をあげる。
大丈夫だわ。
もうこのまま意識が戻るはずよ。
マルシアの手が小さく動きはじめた。
何かを話したいのだろうか、口元も動き始める。
目がさっきよりはっきりと見開かれてきた。
「信じられない! あの状態のマルシアが無事に生き返ったぞ!」
生徒の一人が思わずそんな声をもらす。
「奇跡だわ」
カミラ先生も口を開く。
「雷電に撃たれた人間を回復させるなんて、奇跡としか思えないわ」
「アナスタシア、すごい! あなたはなんて素晴らしい白魔法使いなの!」
ミミも興奮したように話す。
ただ、私には気になることが残っていた。
今、私とマルシアは、良い人間関係であるとは決して言えなかった。
そんな思いが頭によぎった私は、横に立つカミラ先生に声をかけた。
「先生、お願いがあるのです」
「何?」
「マルシアを救ったのは私ではなくカミラ先生だということにしてほしいんです」
「どうして?」
「ちょっと、今、マルシアとの関係がうまくいっていないのです。だから……」
「関係がうまくいっていないなら、なおのことあなたがマルシアを助けたとわかってもらう方がいいと思うけど」
「……男性絡みの複雑な問題なのです」
「男性絡み……」
先生の顔から小さな笑みがもれた。
「わかったわ。今回はあなたの言う通りにします。ただ、時期が来たら本当のことを私の口からマルシアに伝えますからね」
先生はそう言うと一歩前に出てマルシアのそばに寄った。
それとともに私は後退りしてその場から離れる。
「マルシア、大丈夫?」
カミラ先生がそう声をかけると、マルシアの顔が先生へと向いた。
「先生、私……」
マルシアが言葉を発した。
「やった! マルシアが話しだしたぞ」
周囲の生徒たちから大きな拍手が沸き起こった。
そんな中、マルシアが言った。
「先生が……、カミラ先生が私を助けてくれたのですか?」
「えっ? う、うん。まあ、そうだけど……」
「ありがとうございます」
そんなマルシアの言葉を背にして、私はそっとこの場から離れていったのだった。
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